第四章:無知の無謀
エミレイは特別護衛隊の先頭に立って、ツァタカと激突した。唸り声をあげて飛びかかってくるツァタカの牙から逃れ、その横腹を剣で殴りつける。地面に倒れ込んだツァタカの上に乗りかかって、首に剣を突き刺し、留めを刺した。
黄金色に輝くツァタカの目が、大きく見開かれて、無念そうにエミレイを睨みつけた。瞳孔がどんどん開いていき、ついに光を失った。
だがエミレイには、勝利の余韻に浸っている暇はなかった。ツァタカは次々と押し寄せてくる。エミレイは、血のこびりついた剣を、次なる敵に向かって振るった。
目の前の敵に向かって集中し、剣を振るっていたエミレイだったが、思いがけない出来事によって、その集中力は途切れてしまった。
「エミレイ将軍!助太刀しよう!」
思いがけない声に驚いて振り向いたエミレイは、驚愕した。
「ヒ、ヒノト王!?何故ここに?他の方々と共に、リーベルクーンに帰られたのではなかったのですか?」
「…エミレイ将軍が戦っているというのに、それを見過ごして自分だけ逃げ帰るわけにはいきません。キベイや兵士達も、戦場で死線ぎりぎりの戦いを経験しています。お役には立てる筈です」
だが、ヒノトの言葉を、エミレイは激しい口調で拒絶した。
「いけません!今すぐ、ここから立ち去ってください!」
こうも激しく拒絶されるとは思わず、ヒノトは戸惑った。
「何故…。戦うのならば、味方の人数が多いほうがいいでしょう?」
エミレイは険しい表情で、首を振った。
「ヒノト王…。あなたは分かっておられないのです。この、今我々が戦っている『ツァタカ』が、一体何者なのか。この『ツァタカ』は、普通の方法では殺すことは出来ないのです」
エミレイの言葉の真意を聞こうとしたヒノトだったが、ゆっくりと話している時間はなかった。動きの止まっている三人に対して、一匹のツァタカが飛びかかってきたのだ。
キベイがヒノトを庇うように、その前に立った。
キベイは、飛びかかってきたツァタカを力技で地面に叩き落とした。その上に乗りあがり、先ほどのエミレイと同じように首元に剣を突き刺し、留めを刺そうとした。
黄金色のツァタカの目が、まっすぐにキベイを見つめている。だがその目から、光は失われない。ツァタカの強力な尻尾が、唸りを上げてキベイに襲いかかってきた。
身体を強打されて、キベイは地面に倒れこんだ。
態勢を立て直したツァタカが、今度はキベイの上に乗りかかり、首元に鋭い牙を立てようとした。
エミレイは身体を張って、キベイの上に乗っているツァタカに飛びかかっていった。寸前で、キベイの命は救われた。
エミレイは、ツァタカの首元に剣を突き刺した。苦しそうに暴れていたツァタカの身体が、動かなくなっていく。そして完全に動きが止まった。死んだのだ。
ヒノトは眉をしかめながら、エミレイに尋ねた。
「どういう、ことですか?何故キベイに首を刺されても、この動物は死ななかったのです」
エミレイは静かにヒノトを見つめた。その表情は、悲しそうにも見える。
「…ツァタカを殺すことが出来るのは、限られた者だけなのです。リックイ王から特別な命を受けて、私と、私が率いる特別護衛隊が、その任務を負っています。…ヒノト王にも、キベイ将軍にも、ツァタカを殺すことは不可能です。さあ、一刻も早く、ここから去ってください!」
その間にも、ツァタカの数は増えていく。その数は五十はいそうだった。
ヒノトが逃げ出す時間さえなかった。あっという間に、ヒノトとキベイ、数人のジュセノス兵、そしてエミレイが率いる特別護衛隊は、ツァタカの群れに取り囲まれてしまった。
エミレイは剣を構えてツァタカを牽制しながら、特別護衛達に命じた。
「皆、ヒノト王を守るのだ。このお方を死なせてはならない。ジュセノス国王を、ツェキータ国の問題に巻き込んで死なせてはならんぞ!」
兵士は「おう!」と声をあげた。だが、その顔は青ざめているようにも見える。これだけの数のツァタカに囲まれ、もはや勝算はないと思っているのだ。
ツァタカは金色の目をぎらぎらと輝かせながら、じりじりとヒノト達に迫ってくる。エミレイ達特別護衛兵が一瞬でも気を緩めれば、すぐにでも総攻撃を掛けるだろう。そうなれば、もはやヒノト達を待ちうけるのは、死のみであった。