表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星姫の詩  作者: tomoko!
16/226

第一章:ダカンの夢

 市場で、なじみの店に野菜を届けたダカンは、その買取値の安さに驚いていた。

「おいおい。何だよ、この値段は。前はもっと高値で買ってくれたじゃないか」

 店の主人は申し訳なさそうに手を合わせた。

「すまんな。また税金があがったんだよ。あがった分の税を、こちらでもかなり負担してるんだ。これで精一杯なんだよ」

 昔からの付き合いで、その人柄も信頼できる主人の言うことだ。嘘はないのだろう。ダカンは納得するしかなかった。

「それにしても…。ほんの半年前に税が上がったばかりじゃないか。そんなに役所には金がないのか?」

 主人は顔をしかめて、声を小さくした。

「大きな声じゃあ言えないが、市長のハドクの懐に金が回っているらしい。ハドクが市長でいる限り、ディティの将来は陰る一方だよ。実際、あまりの税の高さに呆れて、ディティから離れる商人も出てきてるんだ。そのことに、あの馬鹿市長は気付いてないんだよ」

「とんでもないことだな。ハドクを市長から引きずり降ろすことはできないのか?」

「王に訴えればいいのかもしれないが…。今、王家も揉めているだろう。何しろ、先代王が死んでから、新しい王が着任されるまで二年の空白があったんだ。マティピでは、現王と、もう一人の候補者だった王の叔父を支持する勢力の間で、ずっと内戦をしていたっていう話だ。中央が混乱しているから、ハドクみたいな腐った野郎がのさばるんだよ」

「今の王様が…、ええと、名前がなんだったかな」

 主人は呆れた顔をした。

「ヒノト王だよ。お前、王様の名前くらい覚えてろ」

「ははは。田舎にいると、どうも世情に疎くなってな。その、ヒノト王はどんな王様なんだ。ハドクみたいな役人をきちんと取り締まってくれるような、優秀な王様なのか?」

「それはまだ分からないな。今、ようやく大臣や将軍が決まって、これから本格的にヒノト王の政治が始まるんだ。ヒノト王の器が、これから試されるってわけだな」

「ふーん…」


 ダカンと店の主人の会話を黙って聞いていたユノアだったが、さすがに我慢しきれなくなったらしく、ダカンの服を引っ張った。

「ねえ、お父さん。まだ?」

 ユノアは早く街の中心に行きたくてうずうずしているのだ。

「ああ、ごめんよ。ユノア。もう行こうな」

 ユノアは嬉しそうに飛び跳ねると、ダカンを置いて先に走り出してしまった。

「あ、こら!ユノア。待ちなさい。一人で行っちゃ駄目だ」

 慌てて後を追おうとするダカンに、主人が声をかけた。

「可愛い子だな。ダカン。今度ちゃんと紹介してくれよ」

 ダカンははっとして立ち止まった。

「…可愛い?」

 立ち尽くすダカンに、主人が不思議そうな顔を向けた。

「ダカン。どうした?」

「い、いや。何でもありません。じゃあ、ご主人。今日はこれで」

「ああ、気をつけてな」

 ユノアを追いながら、ダカンはふと泣きそうになった。他人にユノアのことを、こんなにさりげなく褒められたのは初めてかもしれない。ダカンはとても嬉しかった。

 ファド村では、どうしてあんなにユノアを異質に扱うのだろう。ディティの街では、どうしてユノアを異質に扱わないのだろう。何故こんな違いが出るのか。

 ファド村での、外界から隔離された静かな生活が、ダカンは好きだった。だがその生活は、ユノアにはやはり狭すぎるのかもしれない。外へ出れば、一気にユノアは解き放たれて、皆にその魅力を認めてもらえるのかもしれない。

(もし、ファド村を捨てて、ユノアと一緒に放浪の生活を始めたら…)

 そんな生活もいいかもしれない、とダカンは思った。広い世界に羽ばたくユノアの姿を、そっと後ろから見守る。それもきっと、とても楽しい人生だろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ