第一章:忘れられた神々
ダカンとユノアは、順調に道を進んでいた。ダカンが進むスピードは一定だ。そして巧みに石などの障害物を避けている。そのおかげで荷車の揺れは最小限に抑えられていた。
それでもまれに、野菜が転げ落ちてくる。ユノアの仕事は、その野菜を受け止めることくらいだった。下手に荷車を押しては、ダカンの邪魔をするだけだと気付いたからだ。
突然、荷車が止まった。何事かと、ユノアはダカンの元へと駆け寄った。
「お父さん、どうしたの?」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと気になってな…」
ダカンは手ぬぐいで汗を拭いながら、道の脇へと行き、しゃがみ込んでしまった。
ダカンの前には、石が詰まれている。崩れてしまったその石を、ダカンは積みなおしているのだ。ユノアは首を傾げた。
「お父さん…。何してるの?」
「分からないか?ユノア。これは、神様の祠なんだよ」
「ええっ?」
ユノアは目を見張った。よく見ると確かに、石で組まれた祠の中に、古びた石像がある。
「これは、旅の神様の像だろう。神様と言っても数多おられるから、名前は忘れてしまったが…」
ダカンは祠を積み立て直すと、今度は石像についた苔を落とし始めた。手ぬぐいを使って、丹念に磨いていく。
「ユノアと一緒に暮らし始めてからというもの、俺は神という存在を意識し始めたんだ。神様がいるという何よりの証が、すぐ側にいるんだからな」
ユノアは目をぱちくりさせた。
「そしてな、気付いたんだ。人々に忘れ去られて、何の手入れもされていない神様の像が、すごくたくさんあることに。驚いたよ。本当に驚いた。…なあ、ユノア。神様を忘れてしまうような人間は、やはり神様に見捨てられてしまうのかな?」
「……。うーん?」
困った顔をして首を傾げているユノアを見て、ダカンは笑った。
「あははは。そうだよな。そんなこと聞かれても、分からないよな。ごめん、ごめん。……。でもな、ユノア。俺はこれからも、忘れられた神様の像を見つけたら、こうやってお世話するつもりなんだ。今更かもしれないけど、な。ユノアも手伝ってくれるか?」
ユノアは一瞬考えこんだが、すぐに笑顔で頷いた。
「うん!神様の像が綺麗になれば、私も嬉しいもの。だって、神様の像も、嬉しそうだから」
「そうか」
ダカンに頭を撫でられて、ユノアはにっこり笑った。