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異世界ジーニアス紀行  作者: 佐藤
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目が覚めると、そこは知らない天井

目が覚めると、そこは知らない天井でした。

「ん・・・。ここ・・・は・・?」

男――松永 久人(まつなが ひさと)はまるで知らない場所で目を覚ました。

レンガで囲まれ、大きな窓で覆われたその部屋は、現代の日本にしてはどこか古臭く、電気用品などもない。そんな部屋は窓からの月光で照らされていた。


「おはよう。もうこんばんはの時間だろうけど」

不意に隣から声を掛けられる。久人はそれを聞きそちらに顔を向けた。

目の前に座っていたのは見知らぬ男であった。

明らかに染められた茶髪に、チャラいと表現できる服にアクセサリーを付けた同い年ぐらいの男である。

「これはどういうこと?まったく記憶にないんだけど」

「だろうね。皆そうだったからね」

「皆?」

その言葉を聞き久人は、周りを見渡す。するとその場に多くの人がいることに気付いた。パッと見た限り10数名男女関係なく、日本人と思われる人が多いもののそれ以外もいる。まるで統一性のないメンバーである。その中でも近場にいる人達が自分に視線を向けていることに気付く。

「起きた順番はバラバラだけど、みんな言うことはおんなじさ。気付いたらここにいたってね」

男はこんな状況なのにも関わらずニコニコと笑いながら話す。

「一応君が起きるまではもしかしたら()()()()()()()()って話だったんだけどね」

「ってことは俺が最後ってことか」

頭を掻きながら問う久人に男は頷く。バラバラに起きてきて一人ずつ話を聞いたらしいこの状況でそんなことを伝えてくるのなら久人が最後ということになる。

近くにいたやつらから視線が集まっていたのも納得できる話である。


「時間は?どれくらい寝てたぐらいわかるか?」

「どうだろうね。最初に起きたって言った人から君まではたぶん二時間ぐらい。携帯には20時って書いてあるよ。どこまでこいつを信じていいかわからないけど」

「どーいうことだ?」

「君が起きてくる前にいろいろ話し合っていたのさ。面白かったよいろんな説が出て。拉致説、幻覚説、ドッキリ説にキャトルミューティレーション説なんてものまでね」

男はクックッと笑いながら話す。こんな状況なら仕方ないような話である。正直どれもおかしくもありおかしくないそんな状況だ。

「結論は出たのか?その説戦争に」

「残念ながら。起きた人の中に意識を失ったのは間違いなくこの時間って言い張れる人が何人かいてね。その人たちの中に気を失ってから起きるまでの時間が15分もない人がいたんだ。それでおじゃんさ」

そう告げる男の話を聞き久人は考え込む。なるほど確かに明らかに日本でないこの場所に15分でこの人数を移動させるのは無理だ。しかも国籍もバラけているのだ。

「まあ一応、キャトルミューティレーション説は残っているけどね。今一番でかい説はアレさ」

クイッと男は指をさすと、そこには一人の男を囲み部屋のほとんどの人間が集まっていた。


「安心したまえ皆!私はよくこのような状況を小説で読んでいる!間違いなく異世界転生や転移もの!この後、私達を勇者として迎えに来る王様や姫様が現れるとも!そしてチート能力をもらい無双するんだ!私は詳しい!」

「「おおおおお!!」」

「・・・なにあれ」

「異世界説の大将の今川吉城(いまがわよしき)さん。初めの数人の段階で起きてきてからずっとあんな感じ。皆も最初はスルーしてたんだけど他の説が消える度、信者が増えて今ではあんな感じ」

もう一度周りを見てみると状況はさらにわかりやすかった。久人の周りで久人を気にしていた数人以外はみんなそこに集まっているのだ。

「異世界説とその他って状況か?これ」

「いや、今川さんと信者とその他って感じ。異世界かどうかの部分は結構筋通った話してたんだよあの人。ただ王様やら姫様が助けに来てくれるから待ちましょうって所でちょっとね」

「なるほどな。もう一度聞くけどあの今川さんってのは初めからずっとあんな感じなんだよな?」

「そうだよ?それがどうしたの?」

「そっか。すげえな」

「?」

男は久人が何かに頷いたところに首を傾げた。男が口を開こうとしたとき、その声は別の声にかき消された。

立花(たちばな)嬢!外に出てはいけない!そう約束したはずだ!」

さっきまで皆に持ち上げられながら高らかに話していた今川は外に出ようとしたその少女に声をかけた。

美しい女性だった。長くきれいな黒髪に、整った顔。立ち姿すら美しく見えるのはかなり姿勢のいい証拠であろう。あえて欠点を述べるなら少し切れ目の目つきであろう。それなりの身長も合わさって雰囲気があるといえる。服が学生服なことから少なくとも高校生だと思われるが、大学生といわれても納得してしまうだろう。

「少し外に出るだけよ。それすら問題?」

「危険だ!外に何があるかわからんのだぞ!」

「そんな危険な場所なら二時間近くもここにいた私たちは襲われてるわ。そんなに警戒して・・・外に出てしまったら何か問題があるのかしら?あなたの理論が破綻してしまったり?なんてね」

「グッ!」

そう言って少女は軽やかに外へ出て行ってしまう。止められなかった今川は悔しそうに呻いた。それを見た久人は立ち上がり

「すいませーん。俺も外出ていいっすかね?」

と今川に声をかけた。今川はそれを見て初めて気づいたと言うようにこちらを見た。

「む!君は!」

「松永っす。さっき目が覚めまして」

そう告げる久人に今川は嬉しそうに近づいてきた。

「そうか!私は今川吉城だ!怪我などはなさそうで何よりだとも!」

そう言って握手を求めてきた今川に笑顔で久人は応じた。

「あざっす。起きたばっかでよくわからんのですけどとりあえず外に出たくて」

「何!それはいかんぞ松永氏!外にはどんな危険があるか・・・。ここで共に迎えを待とうじゃないか!」

「いや。それがですね・・・」

そういった久人は腹を抑えて――

「もう漏れそうなんすよ!!!」

そう叫んだ。

「ええっ!!」

「いやもうマジ限界で!俺の松永ダムは限界で!このままいくとこの部屋を腐海に沈めちまうんすよ!」

そう叫ぶ久人に慌てたように今川は言う。

「わかった!わかったから。気を付けて行ってきたまえ!」

「あざっす・・・ううう」

腹を抑えながらちょこちょこと外に出ていく。後ろから「早く戻ってくるんだぞ」という声を聴きながら久人は外に出たところで、

「ふぅ。取り合えず外には出れたな」

と笑った。

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