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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***ハート色の声でないた私***

 ボールの字を読み終わったあと、ふたりのほうに顔を向けると、ふたりとも私に手を振って笑いながら口パクでなにか言っている。


 何だろう?と思い口の動きに注意してみる。


 柴田さんは『リリー』

 編集長は『チャーム』


 そのあとは、ふたりで口をそろえて『今までありがとう。そして麻里、これからも宜しく!』って。


 あれ? なんでリリーとチャームの名前が出るんだろう。


 それにこの黄色いテニスボール。


 まだお姫様抱っこされたままで南さんの顔を覗き込むと、南さんもまた新郎新婦の口パクに気が付いたみたいで、二人を見て笑っている。


 “ん!?”笑っていると言うことは、口パクにはまだ続きがあったのかしら。


 もう一度新郎新婦のほうを見ると、爽太さんが大きなモーションで空に向けて何かを投げた。

 抱っこされた腕から身を乗り出して投げられたはずの物体を追ったが、そこには青い空に白い雲がひとつあるだけ。


 白い雲に近づくように、南さんの首に回した手に力を入れると、南さんの顔が近くなった。

 南さんの驚いた顔。

 知らず知らずのうちに、私はその顔に唇を寄せた。


 思わず自分のしてしまったことが恥ずかしくなり、南さんの胸に顔を埋める。


「大丈夫?」


 南さんが優しく言葉をかけたけど、私は正直に「大丈夫じゃない」と今の気持ちを伝えた。

 南さんは心配して「どうしたの?」と聞いてきた。

 私は南さんに抱っこされたまま俯いて、小さく言う。


「違うの。一回じゃ……」


「えっ?」私の小さな声が聞こえなかったのか、南さんは私の口に耳を近づける。




 南さんが私の事を心配して編集部で除霊してくれた。


 でもゴメンナサイ、私は松岡麻里本人であり、またリリー本人でもあるの。


 だから南さんではなく、どんなにエライ霊媒師の人が来て除霊なんかしても何の意味もない。

 決して憑依などはしていなくて、本当にリリーの生まれ変わりなんだから。


 けれども私自身、前世の記憶にある爽太さんのことが忘れられないのと同様に、人間として育ってきた私の感情は南さんに惹かれていた。


 そして、爽太さんもまた同じ。


 編集長との恋を育んでいた矢先、不意に現れた愛しいリリー。

 むかし大切に飼っていたワンちゃんに再び(なつ)かれたら、誰でも迷っちゃうわよね。


 自分で言うのもなんだけど、まして目に入れても痛くないほど可愛いリリーなんだもの。


 リリーとして爽太さんを忘れられないけれど、人間松岡麻里として南さんが好きな私と、リリーを大切にしたいけれど、編集長も好きな爽太さん。


 ふたつの矛盾。


 そして南さんは、そのふたつの矛盾を解決するヒントを私にくれた。

 それがリリーの憑依説。


 でも、勝手にリリーをこの世から葬ろうとした考えだけは許せなくて、2月に正式にカメラマンとして我が小文舎と契約した南さんにプロポーズされたとき、意地悪して返事を先延ばしにしていた。

 

 もちろんバレンタインデーには南さんに手作りのチョコレートをあげたけど、これとそれとは話が別よ。


 強気の態度は見せたものの、私が南さんを好きな事実は変えられない。 

 それに私は、そんなに長くは我慢ができないの。


 だからこの機会に、思い切って正直な気持ちを伝えた。


「一回じゃ我慢できない。もっと沢山キスして欲しい! いつでも好きな時に甘えさせて欲しいの」


 だって、私の中にはまだリリーがいるんだもの。

 だから大好きな人を前にして “待て” と自分で言ったって、そんなに長くは待てないわ。


 心の奥で眠らせていたリリーが「キャン」とハート色の声を上げて鳴いて私は南さんのプロポーズを受けた。


                             ~ Fin ~

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