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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***さよならを告げる私④***


 やがて雑踏の中から、若い女性がこっちに向かって駆けて来るのが見えた。

 明らかに周りより鮮明で光り輝くその姿は、遠くからでも見間違うことはない。


 “リリー!”


 リリーの姿は近付くにつれ、本来の真っ白なスピッツ犬に変わり、あの特徴的な笑顔と真直ぐに俺を捉えて離さない黒い瞳を輝かせながら全速力で走って来る。

 その愛らしい姿に、心が踊る。


 直ぐそこまで来たので、俺はリリーを受け止めるため、腰を降ろし、手を広げて待った。

 しかし、リリーは俺の目の前で急に減速して、この懐には入って来なかった。

 よく見ると、リリーじゃない。


 スピッツじゃなくて、これは一回り以上小さいポメラニアン。

 犬のあとから追いかけて来た知らないオバサンが「どうもすみません」といって、その犬を迎えに来て連れ去って行った。


 誰も居なくなったイベント広場に、俺はまたひとり取り残された。


 不意に風が舞う。

 その風がリリーの言葉を運んだ気がした。

「幸せになって」と。

 言葉と一緒に、ポプラの葉が俺の頬を霞めて飛んで行く。


 そして、その葉っぱを目で追いかけていると、その先には見慣れた一人の女性が歩いているのが見えた。


「町子さん……」


 小さく呟いただけなので、この距離だと聞こえるはずもない。

 しかしその瞬間、まるで声が届いたように大井町子は立ち止まり、こっちを向いた。


「あら柴田さん、どうしたんですか? こんな所で」

「いや、いまリリーと別れて、松岡麻里さんとここで偶然に出会って別れたところです」


「嫌ですわ、リリーと麻里は同じですわ」


「そう、ついさっきまでは」

「ついさっき……いったい何があったんですか!?」


 町子さんは、そう言うと俺の心を探る様に臆病な視線をして近付いて来た。


 夜空には無数の星々が、神妙に瞬いていた。

 そして俺は、ここであった一部始終を町子さんに話した。

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