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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***さよならを告げる私①***

 私は、涙を流す爽太さんの後ろ姿にゆっくりと近づいた。


「爽太さん♪」


 ワザと明るく声を掛けると、振り向いた爽太さんが、突然現れた私を見て、夢かと思い服の袖で目を擦った。


「夢ではないですよ」

「何処に行っていたの?」


 振り返った、その目が涙で光り、夜空の星を映すようにキラキラと輝いている。


「もう、やっぱり聞いていなかったんですね。チャンと言いましたよ。おつまみを買ってくるって」

 そう言ってフライドポテトと牛串を手渡し、代わりにビールの入ったカップを貰う。


「もーっカップからビールがこぼれてビショビショ! それに中身も半分無いじゃないですかぁ」

「ゴメン」


「いいですよ。どうせ私は余り飲めないから。でも、爽太さんは大丈夫ですか?」

「大丈夫、足りなきゃまた買いに行けば良いさ、それよりも居なくなったと思って焦ったよ」


 “居なくなっちゃ嫌ですか?”


 そう聞きたかったのを我慢してビールに口を運ぶ。


「プハー。やはりフライドポテトにはビールが合うわぁ~」

「それって、もしかして少し前に流行った漫画の台詞?」


「えーっ、なんで分かるんですかぁ? もしかして読みましたぁ??」

「そりゃあ俺だって漫画くらい読むさ。それよりもリリーが漫画を読むほうがカルチャーショックだよ」


 そんな他愛もない話をしながら、半分になったビールを飲みながら時は流れてゆく。




 いつの間にかコンサートの方も終わりに近づいているのだろう、耳に届けられる曲がショパンの別れの曲に変わった。


 


 ◇◆◇◆◇◆


 コンサートの曲が、音楽に鈍い俺でも分かるような寂しい曲に変わると、それまで楽しく話していたリリーが急に無口になっていくのが分かった。


「別れたくない」

 たまらずそう言うと「駄目よ、協力してくれるって言ったじゃない」と、リリーが悪戯っぽく俺を睨む。


「でも――」


 だからって引き下がるわけにはいかない。そう思って言い返そうとしたときに、その俺の尖らした唇にリリーの細い人差し指が優しく押さえられて言葉を失う。


 そしてリリーはそのまま体を預けるように、俺の胸にうずくまると、その胸の中で言った。



「私ね、爽太さんに悪霊に変わってしまう姿を見られたくないの」と。


「悪霊になんか、変わらせない!」


 俺はリリーの肩を強く掴み、その力に負けないくらい強い決意を込めて言った。


「でも、私、この匂いにいつも嫉妬してしまうの。知らなかったでしょ」

「この匂い?」


「そう。大井編集長の匂い」

 戸惑う俺の顔を見透かしたように、リリーが埋めていた顔を上げて睨む。


 その瞳は、今までに見た事も無いくらい冷たく感情のない瞳だった。


「怨んでいるのか。……捨てられたこと」


「いいえ、前に言った通り、怨んでなんかいません。むしろこの世界に来て、そして編集長と出会って、幼い時私を捨てたことをトラウマにさせて申し訳なく思うし、嬉しいの」


「嬉しい?」

「そうよ、まだ幼かった町子ちゃんには何の責任もないでしょ。


それよりも、私を失ったことを大人になっても忘れないでいてくれて、あんなに立派な本を作ってくれているのだもの。


それを考えると私は幸せ者よ。


そうでしょ、私を飼ってくれていた二人がふたりとも、大人になっても私の事を忘れずに大切に思っていてくれていたのだから――だから二人には、幸せになってもらいたいの……そして、そしてまた犬を飼うことがあったなら、私にそうしてくれたように私の大好きだったあの黄色いテニスボールを投げて遊んであげて欲しいの」

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