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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***イベント会場と爽太さんと私③***

 ◆◇◆◇◆◇


 ふと、名前を呼ばれた気がして振り向くと、そこにはフライドポテトと牛串を手に持ったリリーが居た。

 慌てて涙を拭きとり、夢なら冷めないで欲しいと願う。


「夢ではないですよ」

 リリーに心を見透かされた。


「何処に言っていた?」

「もう、チャンと言いましたよ。おつまみを買ってくるって」


 おつまみを買ってくるのは、単なる口実に過ぎなかった。

 一緒にコンサートを聴くと言う犬の頃に一度だけでもしてみたかった夢が叶ったことで、もう私の胸は幸せで破裂してしまいそうなくらい脹れ上がっていた。

 だから、お別れを告げずに去ろうと思っていた。


 だけど、それは出来なかった。


 お酒のおつまみを買ってくると言い残し、直ぐに屋台の裏へ隠れた私。

 居なくなった私を、諦めてくれればいいと思った。


 もちろん爽太さんが、私を探し回る事は分かっていたけれど、しばらくしたら諦めてくれる。

 そう願いながら離れたところでずっと見ていた。


 だけど、いつまでもいつまでも、爽太さんは必死になって私を探してくれた。

 ひたむきな、まるで少年のままの爽太さん。


 もしかしたら、私は諦めてもらうことよりも、諦めずにいつまでも探してもらえることを願っていたのかも知れない。

  

 いや、きっとそうに違いない。


 その事は私の心の中に、ほんの一握りだけ残っていた未練に強く語りかけた。

 死んでもう20数年経つのに、これ程まで愛し続けてもらい、二度目の別れを心から悔しがってくれる爽太さん。

 この人に飼われて、本当に幸せだったと感じた。


 施設の一番端まで探しに行ってくれて、そこで私が去ったことを知り、涙まで流してくれる姿を見て私はもう逃げないと決めた。


 飼い犬を失うパターンで最も多いのは、もちろん死別。


 しかし、次に多いのは、飼い犬が迷子になって帰ることが出来なくなること。


 一度死んだ私は、二度目の別れに後者を選ぼうとした。

 まだ生きていると思える事で、飼い主の心の痛みも少なくなるだろうと……。


 でも必死に私を探し回る爽太さんを見て、違うと分かった。


 犬の一生は僅か10年前後だけど、その死に直面していない限り、居なくなった犬は飼い主の心に生き続ける。

 20年……いや30年、それ以上も。それに爽太さんは私が死んだとき東京に出ていたから、その死に出会っていない。

 爽太さんが目にしたのは、骨壺に入った白くて軽くなった私の骨の欠片だけ。


 つまり爽太さんは、心のどこかでズット私が死んだことを否定し続けていてくれたのかも知れない。


 だから私は考えを改めた。

 今度こそ、爽太さんに私の死をチャンと見てもらおうと。


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