***多摩川沿いを歩く私②***
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腕にぶら下るように組んで楽しそうに笑う松岡さんを見ながら、俺はリリーの事を思い出していた。
一緒に散歩に出ると “待ってました!” とばかりに嬉しそうに走り回るリリー。
リードを引いて前を走っていても「リリー」と名前を呼ぶと、必ず振り向いてくれた。
誰も居ない河川敷や公園でリードを放してあげると、一目散にその辺りを駆けまわる。
活発そうに見えるけれど、それは必ず俺や、俺の家族が見守っているときだけ。
俺が友達と一緒に散歩に連れて行ったときなど、友達との話に夢中になって目を離してしまうと、必ず足元に戻って来ておとなしくしてしまう。
いまだに土手の散歩が好きで、好きでも一人では詰まらないと言う松岡さん。
人間の体を借りていても、いつまでも変わらないリリーに思わず笑みがこぼれ、そして切なく思う。
「昨日私が小文社に戻ると、編集長と南さんが面白い事をしていたの、一体なんだと思います?」
思い出に浸っている俺に、冷や水を掛けるような松岡さんの言葉。
そう、松岡さんの中にまだ確実にリリーは居るのだ。
「さあ……」
答えをその2人から直接聞いているのに、俺はわざと知らない振りをした。
「編集部の部屋をまるで神社のように模様替えして、変なおまじないをして、編集長に水を掛けられたの」
「水を…… 何で?」
「聖水って、知っています?」
「聖水? ……それを何のために?」
「除霊ですって」
「除霊?」
「そう……除霊」
リリーは、そう言うと振り返って、俺の目を真正面に覗き見た。
「相変わらず、嘘が下手ですね。もう二人から聞いているでしょ。松岡麻里の体にリリーの怨念が乗り移っているって。そしてリリーの怨念は放って置くと悪霊に変わるらしいってこと」
「……」
「そして、大井町子と南雄大は昨夜、その除霊を実行に移しリリーを殺そうとしたの。肝心の爽太さんに何の相談もなしに。でも、二人は失敗したのよ」
「……」
いきなり松岡さんの雰囲気が変わった気がした。
まるで従順な飼い犬が夜の闇のなか、野生に目覚めた様。
クリクリして可愛い眼が、妙にギラギラと光って見える。
俺は怨霊から悪霊に変わったリリーに、追い詰められているのか?




