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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***多摩川沿いを歩く私②***


 ◇◆◇◆◇◆


 腕にぶら下るように組んで楽しそうに笑う松岡さんを見ながら、俺はリリーの事を思い出していた。

 一緒に散歩に出ると “待ってました!” とばかりに嬉しそうに走り回るリリー。

 リードを引いて前を走っていても「リリー」と名前を呼ぶと、必ず振り向いてくれた。

 誰も居ない河川敷や公園でリードを放してあげると、一目散にその辺りを駆けまわる。


 活発そうに見えるけれど、それは必ず俺や、俺の家族が見守っているときだけ。


 俺が友達と一緒に散歩に連れて行ったときなど、友達との話に夢中になって目を離してしまうと、必ず足元に戻って来ておとなしくしてしまう。

 いまだに土手の散歩が好きで、好きでも一人では詰まらないと言う松岡さん。

 人間の体を借りていても、いつまでも変わらないリリーに思わず笑みがこぼれ、そして切なく思う。


「昨日私が小文社に戻ると、編集長と南さんが面白い事をしていたの、一体なんだと思います?」


 思い出に浸っている俺に、冷や水を掛けるような松岡さんの言葉。

 そう、松岡さんの中にまだ確実にリリーは居るのだ。


「さあ……」

 答えをその2人から直接聞いているのに、俺はわざと知らない振りをした。


「編集部の部屋をまるで神社のように模様替えして、変なおまじないをして、編集長に水を掛けられたの」


「水を…… 何で?」

「聖水って、知っています?」


「聖水? ……それを何のために?」

「除霊ですって」


「除霊?」

「そう……除霊」


 リリーは、そう言うと振り返って、俺の目を真正面に覗き見た。


「相変わらず、嘘が下手ですね。もう二人から聞いているでしょ。松岡麻里の体にリリーの怨念が乗り移っているって。そしてリリーの怨念は放って置くと悪霊に変わるらしいってこと」


「……」


「そして、大井町子と南雄大は昨夜、その除霊を実行に移しリリーを殺そうとしたの。肝心の爽太さんに何の相談もなしに。でも、二人は失敗したのよ」


「……」


 いきなり松岡さんの雰囲気が変わった気がした。

 まるで従順な飼い犬が夜の闇のなか、野生に目覚めた様。

 クリクリして可愛い眼が、妙にギラギラと光って見える。


 俺は怨霊から悪霊に変わったリリーに、追い詰められているのか?

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