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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***多摩川沿いを歩く私①***

 西から穏やかに吹く河の風に乗せられた爽太さんの匂いを追って、二子玉川を川に向けて走った。

 紺色に染まった空。

 まだ少し残っている夕焼けが、空の西端を赤紫に染めている。


 ようやく多摩川の土手まで辿り着いたとき、そこには肩幅の広い黒い影が寂しそうに、最後の夕焼けを見守る様に立っていた。


 何を考えているのだろう?

 

 きっと編集長から私を除霊した話しを聞いているに違いない。


 リリーが居なくなって悲しんでくれているのか、それとも悪霊になる前に消えてくれてホッとしているのか……。

 爽太さんなら、私が消えてホッとするはずなんて無い事は良く分かっているつもりだけど、なんだか聞くのが怖い。


「爽太さん」


 爽太さんの肩が、ピクリと動き、それからゆっくりとこっちに振り向く。


「ああ、松岡さん。 ……どうして、ここに?」


 振り向いたその顔は、なんだか悲しそうでもあり不思議そうでもあり、そして優しそうだった。


「わたし今日は昨日の疲れが出て、会社をお休みしました」

「お身体は、大丈夫なのですか?」

「ええ、もうスッカリ。……だって、恥ずかしいですけれど、お昼過ぎまで寝ていましたから」


 何故か爽太さんの私に対する態度が余所余所しかったので、少しだけお茶目にそう言ったあと舌をペロリと出して肩をすくめて笑ってみせた。


「どうしてここに?」


 爽太さんの言っている事が “どうしてこの二子玉川に?” ではなくて、 “どうして、この場所に?” と聞いているのは直ぐに分かったので、婦人服のフロアで爽太さんの匂いに気が付いて追ってきたことを正直に伝えた。


 すると、今まで寂しそうに見えたその顔が、驚きに変わり「匂い……追ってきた……」と、小さな声で何度も呟いているのがハッキリと聞こえた。

 それは今までのリリーに対する爽太さんの態度とは明らかに違い、つまり除霊を受けたはずの松岡麻里に対しての戸惑いがハッキリ見てとれる。


 だから私は、爽太さんに代って答えを言った。


「爽太さんの匂いなんて、仮に私自身が忘れようと思ったとしても忘れる事なんてありませんよ。だって、私はリリーなんですもの」


 “しかし、それは除霊――” 


 驚いた顔で私を見つめている爽太さんの心の声が、私に届く。


「折角の土手ですから、お散歩に連れて行ってもらえませんか?」


 私は、爽太さんの気持ちを和らげてあげたくて、その大きな手に “お手” をしてみせると、案の定爽太さんは昔の様に “はにかんだ笑顔” を見せて素直に私の手を取ると草の匂いと河の清々しい風の吹く土手を手を繋いだまま歩き出した。


「気持ち好いなぁ~!」


 少しオーバーに背伸びしてみせて、繋いだ手をさらに腕へと回し、その腕にぶら下るように抱きついて歩く。

 人間の恋人同士であれば、当然すると言っていい仕草。


 実は中学3年生の爽太さんが初めて彼女さんと散歩に出たとき、私も連れて行ってもらい2人がこうして仲良く歩く姿を目の当たりにして、すごく羨ましくてすごく嫉妬したことを思い出しながら一緒に歩く。


 おそらく爽太さんは、あの時の私の気持ちなんて気付いてもいやしないわ。

 だって初恋の彼女さんに夢中で、気持ちがどこかに飛んでいたんだもの。


 でもあれから随分立つけれど、爽太さんは余り変わっていない。

 こうして腕を抱いていると、あの時の爽太さんと同じリズムで心臓がドキドキと激しく打ち鳴らされているのが良く分かる。


 カッコイイくせに、もう40になるくせに、今でもウブな気持ちを忘れていない爽太さんが最高に愛おしい。


「ど、土手には、よく来るの?」

「いいえ、たまにジョギングをしに来る程度です。本当はもっと来たいのですが、一人だとつまらなくて……」


 緊張で、思わずどもってしまった爽太さんに吹き出しそうになったけれど、なんとか噴出さずにスルーしてあげて最後まで言えたことを神様に感謝した。


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