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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***会社を休んだ私④***


 ◇◆◇◆◇◆


 二子玉川の大型ショッピングモールで、このビルの運営会社の人と広告の打ち合わせを終えオフィスから一旦外に出て時計を見るともう5時を過ぎていた。


 このまま帰っても、どうせ九段下の会社に着く頃には6時を過ぎる。

 広告の印刷は受注して、あとはデザインの出来上がりを待つだけだから、急いで会社に戻っても特に何もすることはない。


 趣味ではないが、折角お洒落な街に来たのだから、少しぶらつくことにした。


 特に買いたいものはないし、ショッピングモールをぶらついても何も買うことはないだろう。だいいち俺自身、左程お洒落には興味もない。


 それなのに何故、こんな気持ちになったのだろう?

 目に付くのは婦人用のお洒落な洋服ばかり。


 普段、気にも留めていなかったのに……。

 理由は自分でも直ぐに分かった。

 気になる洋服に目が留まる度に写し出されるのは、それを着たリリーの姿。


 もう居ないと思えば思う程、込み上げてくるのは未練に間違いない事は分かっていた。

 でも、それは好きと言う感情ではない。


 どちらかと言うと、娘を手放してしまった親の感情に似ていると思った。


 “まだ結婚もしていないと言うのに、馬鹿だな、俺は……”


 今日、町子さんたちが会社に来て、リリーの魂を除霊したと言う報告が俺にじわじわと重くのしかかってくる。

 それは俺の居ない間にリリーが遠く手の届かないところに行ってしまったと言う後悔。


 あのあと水沼に言われた。


「もしも、大井編集長がお前にリリーの除霊を頼んだとしたら、お前はそれを受けることができたのか? そしてリリーが苦しまないように、チャンと除霊してやれたのか?」と。


 除霊をするには、それ相応の決意が必要になる。

 怨霊は除霊を妨げようと、あらゆる手を使う。


 中でも除霊者を惑わせるのは、攻撃ではなく哀れみを訴える事。

 哀れに思って除霊を躊躇ったら最後、怨霊は強烈な悪霊に姿を変えて襲って来る。

 もし、俺がその場にいたなら……。


 答えはハッキリしていた。

 屹度、俺には出来っこない。


 もし仮に、それをやったとしても、苦しむリリーの姿を前にしたら、心が竦んでしまい留めを挿す事は出来ないだろう。


 苦しみ続けるリリーをただ茫然と見つめ、立ち尽くすのがオチ。

 結局その間にリリーの怨霊は悪霊へと変わってしまい、俺は町子さんや南君に大きな迷惑を掛けたことだろう。

 いや、迷惑を掛けただけで済むはずもないか……。


 それなら、やらない方がましで、気丈にそれを実行した町子さんたちを恨むのは筋違いだ。



 俺がまだ学生の頃、家を離れて単身で東京の学校に行っている間に、リリーが死んでしまったあの時を思い出す。


 叶わない夢を追ってリリーと離れ、永遠に会えなくなってしまった時の事。

 どうせ叶わないのなら、あの時東京に出ずにリリーと一緒に居て、その最後の時を暖かく見送ってあげれば良かった。


 俺は昔の忘れ物を取りに行けないまま、ここでもまた忘れ物をしてしまった。

 そう思うと、いたたまれなくなり、足早にショッピングモールの外に出た。


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