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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***除霊された私④***

「ゴメンナサイ! 何の相談もしないで」


 九段下印刷の打ち合わせ室で、町子と南は柴田爽太に事の次第を説明し終わると、椅子から降りて土下座をした。


「チョッと待ってください。言われている意味が今ひとつ分からない。だって、松岡麻里さんはリリーの生まれ変わりなんだろ?」


「麻里ちゃんが自ら言っていた輪廻転生説ですね」と、南君が顔を上げて言った。

「ああ。そのとおり」


「僕も最初はそれを信じていました。しかしある時、疑問が出て来ました」

「疑問とは?」


「それは犬のリリーが死んで、松岡麻里として生まれ変わった場合の不条理な事実です」

「不条理な事実?」


「そう。前世であるリリーの記憶がほんの少しだけ残っていて、何かの拍子に偶然貴方と合い、その記憶が蘇る。と言う輪廻転生説は、実際に行った事も無い初めての景色を見て懐かしさを感じるという経験から、ある程度立証できるかもしれません。ところが、今回の場合リリーが貴方を見つける切掛けになったのは、貴方の匂い。……でしたよね」


 そこまで言うと、南は一旦話を止めて、柴田さんの答えを待った。


「ああ、確かに。彼女は中学の時、家族で東京に遊びに来たときに、偶然そこに居合わせた俺の匂いに気が付いて、それが懐かしい人の匂いだと感じたと言っていた」


「それだけではありませんよね。麻里ちゃんは原宿で偶然貴方の匂いを感じて、自分が柴田さんの飼い犬だったことをハッキリと認識したし、深大寺で会った時も貴方の匂いに気が付いてそれが再開の切掛けになった。……間違いありませんよね」


「確かにその通りだけど、それがなにか?」


「おかしいとは思いませんか? 人間なら普通目で認識するものでしょう。例えば思い出すにしても “貴方を見た” なら分かりますが “貴方の匂いを感じた” と言うのはおかしい」


「それは、何故?」


「それは、貴方が強烈な臭いを放つほどの体臭の持ち主ではないと言う事です。男だから当然、香水も着けていない」

「それが、何故 “おかしい” と繋がるのですか? 俺には全然、君の言っている事が分かりませんが……」


「だって、そうでしょう。柴田さん、貴方は街で久し振りに人と会った時、先ずそれを何で確認しますか? 人混みの中で知り合いを見つけ出すのは、その人の匂いを鼻で嗅ぎ分けるのではなく、目ですよね。目で見て初めて友達と分かるはずで、決して匂いじゃない」


「しかし、それは松岡麻里さんがリリーの生まれ変わりだったから、そうだったのではないですか?」


「それは無理です。松岡麻里が人間である以上……」

 いままで二人の口論を黙って聞いていた編集長が、スクっと立ち上がり言った。


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