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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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66/88

***除霊された私①***

 翌朝、目が覚めて時計を見ると、8時を過ぎていた。

 いつもならもうとっくに家を出て、電車に乗っている時間なのに今朝の私はまだベッドに横になっている。

 目覚ましは確かに掛けていた。

 でもその目覚ましが、いつ鳴ったのかはまったく覚えていない。

 とうぜん私自身が止めたはずなのに。


 無性に体が重くて、ベッドから体を起こそうと言う気になれないまま、ただボーっと天井を眺めていた。


 重たい頭の中で、昨夜のことを思い出す。


 昨夜は会社に戻って日報を書きながら、最近やけに柴田爽太さんから身を引こうとしている編集長の様子に苛立ってっていた。

 だって私は何も編集長と爽太さんの恋の邪魔をしようなんて、これっぽっちも思っていないのに。


 それってまるで私が爽太さんを横取りしようとしているみたいじゃない?

 私は、ただリリーとして、爽太さんに可愛がってもらいたいだけなのに……。


 そんな事を考えているうち、ついうっかりして食べていたメロンフルーツ味のパチパチキャンディーを口に頬張り過ぎてしまった。


 唾液に解けたパチパチキャンディーたちはまるで私の小さな口の中で戦争を始める様にお互いパチパチと激しく爆発し合い、はじけ飛ぶたびに出る炭酸の泡があっという間に口いっぱいに広がり、その圧力で飲み込むこともできなくなり私は吐き出すために台所に向かった。


 そして、そのときに編集長に前を塞がれ、水を掛けられた……。


 おどろいた私は、もう我慢の限界に達していた口の中で炭酸だらけになって膨らみ過ぎたメロンソーダを吐き出してしまった。

 吐き出した液体に編集長が更にお水を掛けたり、南さんが大麻を左右に振りかざしたりしていたのを不思議に思って見ていた。


 南さんが濡れた私の衣服を心配してくれたけれど、それよりも急に泣きだした編集長の方が心配だった。

 なにせ編集長ときたら私の吐き出したメロンソーダに向かって「チャーム!チャーム!」と何度も私の前の名前を呼び続け、まるで謝る様に覆いかぶさって泣き叫んでいて、南さんが立たせようとしても全身の力が抜けてしまったみたいになっていて、立つ事すらままならない状態だったから。


 洋服の濡れた私を、南さんがタクシーで家まで送ろうかと言ってくれたけれど、私はそれを断った。


 私よりも編集長の事が心配だったから、南さんに編集長の事を頼んで私は吐いてしまった物を綺麗に拭きとって、散らかった部屋の片づけをして――もう、その頃には濡れた衣服も殆ど乾いてしまっていたからそのまま最終電車で帰った。


 最寄りの駅からアパートまではバスが終わっていたのでタクシーで帰ったけれど、アパートに着いてからのことは殆ど覚えていない。


 何を食べたのか、それとも何も食べなかったのか、シャワーを浴びたのか浴びなかったのか。


 ひとつだけハッキリしているのは、歯を磨いて洗顔をしたこと。

 だって、口の中が気持ち悪くはないし、顔もベトベトしていないもの。

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