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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***結界の中の私④***

 ◇◇◆◆◇◇


 お蕎麦屋さんを出て、次の打ち合わせ場所である南青山のKさんの家に着くと、いつものようにシェットランドシープドックのジョンが出迎えてくれた。

 その喜びようときたら、いつもとは比べ物にならないくらいで、飼い主のKさんも目を丸くして驚いていた。


 理由は簡単。

 それは、大好きなお姉さんが、珍しくスカートを履いて来たからです。


 男の子は兎に角、脚が好き。

 もう家に入ったときから、打ち合わせしていても、ずっとソワソワと足にまとわりついて来て離れてくれない。


「すみません。もうそろそろ去勢しようと思っているのですが……」


「いつもスカートを履いた女性には、こんな状態になるのですか?」

 Kさんの口から出た “去勢” という言葉に引っ掛かって聞いた。


「いやウチのカミさんには、そうでもないのですが、娘やその友達などには結構まとわりつきます。まあ、もっとも松岡さんが来たときみたいに激しくはないのですがね」


「ジョンは今、何カ月でしたっけ?」

「8ヶ月です。情報誌などには去勢は生後6カ月くらいから――と書いてあるのが多いのですが、どうも遅れ遅れで……」


 その言葉の中には、Kさんの “出来る事なら去勢させたくはない” という思いが込められていると思った。


「無理に去勢しないといけないとは限りませんわ。それに犬の思春期は生後6ヶ月から1年ちょっとと言われていますから、それを越えれば少しはおとなしくなると思いますし手が掛かるかも知れませんが思春期くらいは迎えさせてあげれば良いと個人的には思いますわ」


 私の言葉にホッとしたのかKさんも嬉しそうに「そうですよね」と喜んでくれ、なによりもジョンは大はしゃぎして喜んだ。


 何でも甘えさせてあげてやりたいとは思うのだけど、それでは単に我儘で自制の効かないダメな子になってしまう。


 だから帰り際にリフティングされた時は、さすがに注意した。


「こらぁジョン。恋人にはなってもいいって言ったけれど、お嫁さんになってあげるとは言っていないぞ!」と。


 ジョンは賢い子だから、直ぐに何で怒られたか理解しておとなしくなったので、私は直ぐに頭をナデナデして褒めてあげた。




 Kさんとの打ち合わせが終わったあと、渋谷・新宿の書店周りをした。


 我が社の発行する雑誌の売れ行きの確認と次回の特集の案内や、新たにペット関連の小説を募集するようになったことなどを一軒一軒報告して回り、最後の書店を出たときにはもう19時を回っていた。




「ただいまー!」


 さすがに歩き疲れて、ヘトヘト。


 編集部に戻ると、そこは蝋燭の灯りが灯る神妙な部屋。

 南さんがヘンテコな着物を着て呪文を唱えていて、何だか怪しい雰囲気で、空気が重い。


「あっ、おかえり。ご苦労様」


 出迎えてくれた編集長もまるで巫女さんが偉くなった様な感じで、まるで神話に出て来る女神さまの様に素敵。


 その編集長に電気をつけていいかと聞くと、編集長は何故か南さんに確認を取って「いいよ」と返事が返って来た。


 “変なの……”


 そう思いながら、電気をつけると部屋中にしめ縄が張られて、まるで神社かお祭りみたい。


「わぁ~! 綺麗‼ これ、なんですか?」

「あっ、ハロウィンの飾り」


 私が声を掛けるたびに、編集長がビックリしたように答える。


 “どうしたんだろう?”


 不思議に思いながら、パソコンを開きメールのチェックと、打ち合わせ議事録や業務報告書に取り掛かった。

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