***結界の中の私②***
“悪霊”
ここで言う悪霊とは、麻里に憑依しているリリーの魂。
この結界に入った途端、麻里の中に入っているリリーは、体内に留まれなくなり苦しみ出して外に出る。
そして体内から飛び出した魂は怨霊としての正体を現すのだ。
はたして雑学程度の南君が、怨霊と対峙した時、見事に怨霊を退治出来るのか?
それに、もうひとつ。
怨霊と化した魂は、確実にリリーの元の飼い主である私にも恨みを持っているはず。
襲い掛かって来る怨霊に私は何をどうすれば良いのだろう?
〝しまった‼″
妖〇ウォッチも鬼〇の刃も見たことのない私には、何をどうしたらいいのかなんて分からないけれど、危険な事だと言うことだけは充分に分かる。
「南君! これは危険よ!」
「大丈夫です。ほら」
南君はバックの中から神職の正装である唐衣を取り出し私に羽織らせると、頭には白絹と菊の花の飾りが付いた金色に輝く釵子を被せ、自分用に用意した狩衣に烏帽子を被り神主さんがお払いに使う大麻を取り出した。
「僕が大麻で祈祷しますから、その間に編集長は、これを麻里ちゃんに掛けて下さい」
手に渡されたのはペットボトルに入った水。
「これって……もしかして」
「そう聖水です。午前中に良く知っている神社にお参りしてきたときに、神主さんに事情を話して御祈祷してもらいました」
「でも、怨霊が暴れ出したとき、スタッフの安全は?」
「それも大丈夫でしょう。麻里ちゃんはいま打ち合わせ中です、そのあとは渋谷と新宿の書店周りでしょ。真面目な麻里ちゃんなら帰社時間は遅くなるはずです。それまでにスタッフを返せばいいんです」
「でも、こんなことをしたら、麻里が苦しむわ」
「また “でも” ですか。しかし、これは僕たちだけの問題ではありません。いや僕たちより、麻里ちゃん自身を助けなければいけないんです。死んだはずの犬の魂に憑依されたままだと、これからさき麻里ちゃんにどんな災難が起こるか、編集長は心配にならないんですか? このままの状態で麻里ちゃんと柴田さんが結ばれたとして、ふたりは本当に幸せになれると思いますか? 最悪の場合、柴田さんは憑依したリリーに呪い殺されるかも分からないんですよ」
「呪い殺す!? まさか……」
「人間にも言える事ですが、動物は何を考えているか分かりません。それに」
「それに?」
「もしも二人が結ばれたあと、リリーの魂が成仏してしまい憑依が解けたとしたら……」
「あっ!」
リリーが居なくなれば、残った麻里はどうなるのだろう?
どう考えても、麻里がリリーの魂を引き継いだとしても年齢の離れた柴田さん上手くやっていける気がしない。
いつもとは違い、意外に熱弁を振るう南君。
そして、その言葉には、なんだか説得力があるように思えた。




