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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***小悪魔が降臨した私②***

 何だろうと思って耳を傾けていると、何やら聞き覚えのある声が聞こえる。

 不審に思って、席を立って外に出て驚いた。


 だって、そこには南さんと編集長が居るのですもの。




「編集長! それに南さんに、水沼さんも。こんな所で、何をしているのですか??」 


「水ぬ・ま……まちこさん。いや、大井編集長!」


 私のあとを追うように外に出てきた爽太さんは、私よりもっと驚いていて、それは驚くと言うより狼狽すると言ってもいいほど動揺している風だった。


 爽太さんの動揺する訳を私は知っている。

 それは、ここに大井編集長が居るから。

 爽太さんは今、突然現れた私と言う存在に浮かれているけれど、実は大井編集長の事が好きなのだ。 


 その時、私の心に小悪魔が降臨した。




「編集長もランチですか? 私、打ち合わせが終わったあと柴田さんに誘われて、このお蕎麦屋さんにデートに来ているんですよ。よかったらご一緒に、どうですか?」


 私を柴田さんと打ち合わせに向かわせてその様子を見るために後を付けて来た編集長の行動にカチンと来て、少し懲らしめてやろうと思って、ただ一緒に食事をしに来ただけなのにワザとデートだと言った。


 デートと聞いて編集長の目が柴田さんの目を捉え、その視線に柴田さんが更に慌てたことも可笑しかった。


「いっ、いやデートじゃなくて、会食、会食!!」

 爽太さんが慌てて私の言葉を打ち消そうとする。


「えーっ、そうなんですかぁ~。だって食べきれないときは、私のも食べてくれるって言ってくれたじゃないですかぁ~」と、爽太さんの腕に抱きついて思いっきり甘えてみせる。


 編集長が爽太さんと付き合っている事なんて、編集長が九段下印刷との打ち合わせから戻って来たときの心臓の鼓動で薄々は感じていた。


 ただ爽太さんの匂いだけは地下鉄に乗り合わせる大勢の人の匂いに紛れてしまい分からなかったけれど、それが分かってしまったいま私の中で――いやリリーのなかの小悪魔が目覚めた。


 もちろん爽太さんは私がこれ見よがしに絡めた腕を、無理に振り払うことなんてできっこない。

 かといって、編集長の事も無下には出来ないから、爽太さんの腕は力が入り過ぎてカチンコチン。


 両方に良い顔をしようなんて、虫が良過ぎますよね。


 私は、もう誰にも渡さないという勢いで、そのまま爽太さんの腕にしがみついていた。

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