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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***爽太さんとの打合せに心を躍らせる私②***


 ◇◇◇◇◇◇




 会議室に入ると、そこにはもうリリーが姿勢正しく起立して待っていた。


「やあ、おまたせ! いつごろ到着しました?」

「10分前には付いていましたわ」


 スーッと、高い鼻先をツンと上げて、自慢そうな顔をしたリリー。

 昔と少しも変わらない仕草に、愛おしさが込み上げてくる。


「早く着いたのは偉いと思うけれど、打ち合わせ時間までに着けば良いわけだから、自慢にはならないよ」

「えー褒めて貰えると思ったのにぃ! リリーは褒めて貰って伸びる子ですよ!」


 たしかにリリーは褒められるのが大好きで、褒めることで色々なことを直ぐに覚えた。

 だからほっぺを膨らまして抗議するリリーの可愛い顔に負けて、頭をナデナデする爽太。


 ほんのりと伝わってくる温かさ、シャンプーの香り、白い肌……まるで洗い上がりのリリーをドライヤーで乾かしたあとで撫でているよう。


 リリーが顔を上げ、その大きな瞳が俺を捉える。


 こういう時、いつも次に来るのは顔舐め。

 だけど、いまのリリーは犬じゃないから――そう思いながらも、思わず顔が強張るのが自分でも分かった。


 リリーはクスッと笑うと、俺の腕の中から抜け出し「舐めたりしませんよ。もう、わたし犬ではないですから」と背を向けると「こっちの椅子でいいですか」と椅子を引いて打ち合わせの準備を始めた。


「さあ、爽太さんも早く、早く」

 リリーに促されて机に着くが、なんとなく期待が外れたような寂しさを感じてしまった。


 そう、ここは社内。

 そして今は、仕事中。


 なんか俺よりリリーの方が確りしていて、変な感じがして、それがまた嬉しかった。




 ◆◇◆◇◆◇


 爽太さんに抱き寄せられ、その暖かささに包まれた時、昔そうしてくれた時と同じ懐かしさを感じた。

 見上げるとあの時と同じ優しい瞳が私を捉えていて、思わずその唇に自分の唇を合わせたいと言う欲求に苛まれてしまう。


 体の芯から熱いマグマのような感情が噴き出しそうになり、感情に身を委ねようとする体と、それを止めようとする意志が交差して私はスルリとその腕の輪から逃れるように体を外し、何事もなかったように打ち合わせの準備を始めた。


 社会人が、仕事中にして良い行為ではない! と自分に言い聞かせる。


 鞄の中から、企画会議で既に決定した資料などを、取り出した。

 もちろん心の中はまださっきの余韻でドキドキが止められずに、まともに爽太さんの顔を見る事は出来ないので、そのぶん作業をテキパキと進めて誤魔化した。


 爽太さんも私のペースに合わせるように、直ぐに仕事モードに切り替えてくれ、打ち合わせはスムーズに進むと思われた。


 でも、やっぱり無理。


 打ち合わせが進むにつれ、身を乗り出すように資料を見てくれる爽太さんの顔が近づき、質問をして資料を指さす焼けた逞しい指が私の白い華奢な指に時々触れそうになり、その都度に私は慌ててしまう。


 モヤモヤとした気持ちが、やがてムズムズしてきて、そしてムラムラに変わり説明もしどろもどろになり息が熱くなる。


 異変に気が付いた爽太さんが「どうしたの、大丈夫?」と声を掛けてくれ、私のおでこに手を当ててくれた。


 ヒンヤリとした手が火照った顔に気持ち良くて、おでこに当てられた爽太さんの手を誘うように、頬にずらし自分の手を添える。

 上目遣いに見た爽太さんの顔は、焦る事も無く「馬鹿だなぁ」と笑い、手を離して頭をクシャクシャと撫でようとした。


 そして、そのとき急に廊下を忍び足で近づいて来る人の気配を感じて身を引っ込めると、直ぐにドアをノックする音がした。

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