***爽太さんの職場に向かうことになった私②***
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麻里が出て行ってからも、私のソワソワは止まらない。
今度は、付いて行けばよかったとか、道に迷わないだろうかとか、変な人に絡まれないだろうかとか、まるで初めて子供を一人でお使いに出したお母さんみたいに心配が募る。
「あーっ、やっぱり無理。私、行くわ」
挙句の果てに、そう言って編集部から出て行くことに決めてしまった。
丁度バッグを手に編集長がドアに向かって歩き出した時、廊下側から勢いよくドアが開けられて、元気よく入って来た南君とぶつかりそうになった。
「やあ、大井町編集長お出かけですか?」
「だから、何度も言いますけれど、私は大井町じゃなくて――」
「倉橋さん、塩の効果どうでした?」
南君は大井編集長の言葉など気にもせず、倉橋里美に盛り塩を置いた効き目を聞いた。
「特に、なにも変わりはありませんよ」と、返す里美。
南くんが麻里が居ないことに気付いて私に聞いたので、私は正直に柴田爽太さんの居る九段下印刷に打ち合わせに出ましたことを伝えた。
「九段下印刷?! 編集長。あんたいったい何を!?」
言いかけた言葉を止め、南くんは私の腕を掴むと、強引に入って来たドアの外に連れ出した。
「ちょっと、南君、何?」
連れ出された私が部屋に戻ろうとするのを、南が壁ドンで止める。
「大井編集長、あんた本当に諦めるのか?」
「えっ!?」
いつものように、ふざけて大井町編集長と言わない南くんの真剣な目。
「九段下印刷の柴田って言う人の事、好きなんでしょう。それを諦めきれるのかって聞いているんです」
「わっ、わたしは、別に……」
「リリー。いや、チャームを捨てた罪の意識で恋を譲ると言う気持ちも分からなくはないけれど、結果から言えば、それによってチャームは柴田さんと出会いリリーとして幸せに暮らせた。しかしもしも、ペットの飼えない転勤先のアパートに無理やり連れて行ったとして、チャームは幸せに暮らせたと思いますか?」
「そ、それは……」
「もしもこのさき麻里ちゃんの中からリリーの魂が抜けたとしたら、麻里ちゃんと柴田さんの接点は急速に危ういものとなり、幸せには暮らせないかも知れない。だから僕は諦めない。編集長が柴田さんの事をどう思っているかは知りませんが、僕は、麻里ちゃんを幸せにできるのは僕以外ないと思っているから諦めません」
「麻里の中からリリーの魂が抜ける?」
そうつぶやいたあと、私は入り口に積まれている塩を見た。




