***南さんと大井編集長と私③***
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隣にいた南君が、急にそう呟いたあと木陰から出ようとしたので止めた。
「どうして、止めるんですか!? 僕の思い過ごしじゃないと思いますが、編集長だって柴田って男のこと――」
私は慌てて、まだ喋ろうとする南の口を手で塞いだ。
柴田さんは麻里の肩を強く抱き寄せて、その頭を撫でている。
撫でられている麻里は柴田さんの胸に顔を埋めていて、本物の恋人同士に見える……しかし私は南くんとは逆に、私はさっきまでの嫉妬心が消えて妙に落ち着いていた。
「何故出て行って止めないんですか」
まだ、不服そうに南君が言うので私は答える。
「あなたカメラマンでしょ。なに見ているのよ」と。
南君は、不承不承に持っていたカメラを持ち上げて、ファインダーを覗き込みアッと息をのんだ。
それで私が感じていることを彼も感じ取ったのだと分かった。
そう、いま目の前に見えるのは麻里ではなくて、まるで白く可愛い何か違うものに見える。
それはまるで美しい映画のワンシーンのようにも見えたし、森に住む妖精たちのように幻想的にも見えた。
けれども私にはハッキリとその姿が、幼い時に私たち家族が捨てた白いスピッツ犬のチャームに見えた。
そうして見ていると、いつの間にいたのだろうか、麻里の肩に止まっていた蝶が空に昇って行った。
私がその蝶の行方を追って空を見上げると、濃い群青色に染まった空にはまるで鱗粉が撒かれたように幾つもの星が瞬き、流れ星が北西の空に向かって流れて消えた。
空を見上げていたのは一瞬だと思っていたのに、目を地上に戻すと、もうベンチに二人の姿はなかった。
南君と慌ててベンチのある通りに駆け寄って周囲を見渡したけど、それらしい人影も見当たらない。
柴田さんと麻里が座っていたベンチからは神代植物園正門に向かう道と、深大寺に向かう下り坂の分かれ道になる。
戸惑っている南くんに私は、それまでのヒソヒソ声をやめてハッキリと大きな声で指示を出す。
「追うのよ‼」
「お、追うって!?」
「2手に分かれて、南君はあっちに、私はこの道を行くわ!」
南君に深大寺を目指すように指示して、私は植物園正門を目指して走った。
もしもこのお寺の御利益通りなら、神様は屹度カップルになるべき者同士を引き合わせてくれるはず。




