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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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37/88

***爽太さんとリリーと私④***


 ◇◆◇◆◇◆


 こうして二人で歩いていると、本当に昔リリーと散歩していた感覚が甦ってくる。


 松岡麻里さんは、リリーがそうしていたように道端に咲いている草花に立ち止っては、その微かな匂いを楽しんで嬉しそうに俺に笑顔を向けてくれる。

 その顔は二十代前半のうら若いお嬢さんのものではなく、まるで白いスピッツ犬のリリーそのもののように思えた。


 未だに信じられないけれど、この松岡麻里さんは本当にリリーの生まれ変わりかもしれないと思ってしまう自分がおかしかった。


 植物園を出て新緑の公園の中を暫く歩いていると、子供たちがボールを投げて遊んでいた。


 昔こういった広い公園で黄色いテニスボールを投げてリリーと遊んだ記憶が蘇る。


 公園が終わり小さな信号機が見えたそのときリリーが、いや松岡麻里さんが何かに興味を惹かれたらしく繋いでいた手を思いっきり引いた。


「ほら!ドッグランがあるよ!」


 信号の向こうにある広場には沢山の犬がいて、リリーは俺の顔と広場の両方を交互に見ながら、散歩中に何かに興味を惹かれたときのように目を輝かせて俺の手を引っ張って一目散にドッグランの広場を目し駆けた。


 俺は犬にリードを引っ張られて仰け反っている飼い主のような格好で着いて行く。

 なんとも情けない格好だけど、引かれる感覚にあの頃の記憶が重なって嬉しくて笑い出していた。


 ドッグランで何か変なことをしてしまうのではないかと心配していたが、彼女は時折話しかけてくるだけで “人間らしく” フェンス越しに中で遊ぶ犬たちを楽しそうに見ていた。




 日も傾きはじめたので、直ぐそばのバス停から駅に向かうか尋ねると、もう少し散歩がしたいと言われ再び道路を渡って新緑の森に入る。

 疲れたのか少しおとなしくなったリリーとベンチに腰掛けたとき、不意に疑問に思っていた事を聞いてみた。


「どうして俺が爽太だと分かったの?」


 リリーと分かれたのは俺が高校に入るとき。

 あれからもう二十年以上も経つのだから偶然とはいえ、出会った瞬間に分かるなんて難しいのではないかと思った。


 リリーは俯いていたが、直ぐに顔を俺に向けると「匂い」と答えて笑顔を見せた。


「えっ?」


「爽太さんの匂いが記憶に残っていたの。そしてその記憶が、前世の記憶を呼び覚ますキーワードになっていたらしいの」


 言われた言葉に小学生の時、いくら隠れても直ぐリリーに見つかった “隠れんぼ” を思い出す。


 ひょっとしたら、その匂いの記憶で我が家に来る前に飼っていた家族のことも見つけているのではないかと思って聞いてみると、家族は知らないけれど偶然に当時幼かった少女と出会ったと答えた。


「怨んだろう……」


 俺の問いかけにリリーはキョトンとした顔をして「懐かしかった」と答えたあと、顔を曇らせて、その娘が大人になった今でも私を捨てるのを止められなかったことを重い荷物として背負っていると寂しそうに俯いていた。


「怨むなんて、人間になって初めて知った感情よ。犬は怨まないの。その代り悲しいとか寂しいとか自分が悪かったとか思ってしまうの。捨てられた時もずっと家族の心配をしていたわ」


 当たり前のように寂し気に言うリリーに、彼女を捨てた少女に代わって謝ろうとすると、それを見透したように「犬にとっては可愛がってもらえることが全てなんですよ」と笑顔で返された。

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