***ついに出合えた爽太さんと私②***
「あの……わたし、松岡と申し……」
立ち止まると、松岡さんと名乗りかけたその人は、一旦話すのを止め大きな瞳を瞑り深呼吸をしたあとハッキリと元気な声で言った。
「わ、わたし、リリーです!」
ふたつの名前を聞いて、この人は松岡リリーさんと言うのだと単純にそう思った。
しかし、その松岡リリーさんに声を掛けられる覚えがなかったので、人違いではないかと返すと彼女は「爽太さんですよね」と、俺の苗字ではなく名前を当てられて正直驚いた。
俺の名前を知っていると言うことは、会った事がある人に違いない。
しかしこの松岡リリーと名乗る若い女性と俺とでは、20歳近くも年が離れているはず。
そんなに年の離れた知り合いは居ない。
取引先の事務員かなにかだとしても、苗字で呼ばれることは有っても名前で呼ばれるほど親しい女性は居ない。
しかも取引先の人間なら自身の名前を名乗る時も、俺の名前を呼ぶときも必ず各々の会社名を名前の前に付けて話すはず。
ひょっとしたら親戚筋かとも思ったが、俺の親戚に松岡と言う姓はない。
よくよく考えても松岡リリーで思い浮かべる人物と言えば映画『男はつらいよ』の登場人物『リリー松岡』だけだったので、もう一度さっきと同じように人違いだと言うと彼女は困った顔をしながら、今の名前は松岡麻里だと名乗った。
すると“リリー”と言うのはハンドルネームか源氏名なのか?
TwitterやYoutubeなどをたまに見ることはあるが、アカウント登録している訳でもないので、SNS上の知り合いも居ない。
勿論酒を呑みに行くこともあるが、会社の忘年会や接待などの2次会でそう言った源氏名を使う若い女性の居る店に入ることもあるが、その中にもリリーと言う女性が居たかどうかなんてことはイチイチ覚えてはいない。
飲み屋の姉ちゃんだったとしても、こんなに美人で清潔感が漂う女性なんて見たこともないし、俺の好みに「どストライク」なこんな女性が居る飲み屋なら俺は迷わず通っていた事だろう。
色々と考えられることは一通り考えてみたが思い当たる事も無さそうだと分かると、無性に面倒くさくなり話を一方的に打ち切って立ち去ろうとしたとき、携帯が鳴った。




