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***三角関係な私***

「僕たちも、丁度このお店で蕎麦を食べようと思っていたところだったんですよ。さっ編集長、入りましょう」


 いきなり南君が私の手を引いて、のれんを潜ろうとする。


「えっ、で、でも……」


 私はためらいながらも、よろよろと南くんに引かれるまま着いて行く。




 ◆◇◆◇◆



 あの日、編集部を飛び出していった麻里を探すために深大寺に行き、そして麻里を見つけた。


 麻里は、何故か柴田さんと一緒に居た。


 ふたりが一緒に居る意味が分からなくて、私は森に隠れて様子を見ることにして、直に南くんも合流した。


 夕闇が訪れ、柴田さんと麻里を急に見失ったあと、南君と分かれて探していた時、私は偶然柴田さんを見つけることが出来た。


 いや、正確には、柴田さんは私を待っていた。

 全てを話すために。


 柴田さんから麻里の正体を教えて貰ったとき、驚くと同時に正直“やっぱり”と納得してしまう自分がいた。


 小さな子供の頃に私たち家族が住んでいた場所と柴田さんの家がそんなに離れていなくて、柴田さんがリリーを飼い始めた時期と私の家の引っ越した時期が重なり、リリーが私の家で飼っていたチャームであることも直ぐに分かった。


 私はチャームを幸せにすることは出来なかった。


 その代り、リリーには幸せになって欲しいと思った。


 もちろん私は柴田さんの事が好きだったけれど、チャームを不幸にした以上、ここは譲るしかない。


 だから今回の打ち合わせにはリリー、いや麻里と柴田さんを二人きりにするのが目的だったので、それを邪魔しようとする南君の言動に少し戸惑っていた。


 しかし南君に無理やり連れて来られたとはいえ、断ろうと思えば断れたはず。


 ノコノコついて来てしまったのは、女心の切なさ……。


 でも、ここだけは断らないと!

 決心して、その場から微動だにしないと誓い、地面に体重を掛けるように踏ん張ったつもり。


 けれども身長151㎝と小柄で体重も42キロしかない私に対して、南君は身長も190㎝近く合って、そのうえガッチリしたスポーツマン体型。


 体重だって余裕で、私の倍以上はあるに違いない。


 案の定、私の抵抗など意にすることもなく(おそらく抵抗している事すら気付きもせず)南君は半ば強引に私の腕を取り、お店の中へ連れて行くとコップが二つ置かれた四人掛けの椅子にドカンと座った。


 あとから続いて入って来た柴田さんが「お前はどうする?」と、まだ立っている水沼さんに聞くと、「俺はただ通りかかっただけだから」と彼は逃げるように出て行った。




 ◇◇◆◆◇◇




 私の隣の席に南さんが座り、編集長は私の向かいの柴田さんの隣に座った。


「あっ、すみません。なんかダブルデートみたいな席順になっちゃいましたね」


 あれだけ堂々とした態度で、編集長の手を引いてお店に入って来たと言うのに、急にソワソワしだした南さんは「席、変わりましょうか?」なんて言い出す始末。


 “もっと男らしく、堂々としなさい!”


 腰を上げようとする南さんの太ももをズボンの上から強く抓り、動こうとする足をパンプスで思いっきり踏みつけた。


 屈強な元ラガーマンの南さんに対して私の力など到底及ばないと思っていたけれど、踏み付けは以外に利いたみたいで目を見開いて額から汗を流していた。

 

 私に足を踏まれて少し狼狽した南さんは、緊張したような強張った顔で“なにかマズイことでもあった?”と質問するように振り返るので「体格のいい男性が二人並ぶと、窮屈でしょ」と窘めた。


「ああ、さすがに、それはそうか!」


 南さんが腕を振り上げて、あの大きな歯を見せて笑い出し、出されたおしぼりで額の汗を拭う。


 慌てている様子を隠そうとして、余計に丸分かりな南さん。


 柴田さんが、その南さんの様子を不思議そうに見ている。


 これはいけない!


 私の南さんが、私の爽太さんに〝おかしな奴″だなんて思われてしまう。


 だから私は慌てて「南さんは大学時代、ラグビーをしてらしたのよ」と爽太さんに自慢げに報告した。


「ほう、ラグビーですか、どうりで良い体格をしていらっしゃると思いました。しかし、日本も強くなりましたよね。で、どこの大学ですか?」


「M大です」


「ほう。これはまた強豪校じゃないですか」


「いやあ……ところで柴田さんは、どんなスポーツを?」


「H大で野球をしていましたが、肩を壊してしまいましてね」


「これもまた強豪校じゃないですか。いや御立派、御立派」


 二人は、意気投合して、ノリノリで大学時代のスポーツの話をしていた。


 話が盛り上がっている所に、若い女性店員が注文を聞きに来た。


「えっと――麻里ちゃんは何にしたの?」


 南さんに聞かれて、正直に答える。


「私は、ざるそばの二段盛りです」


 すこし恥ずかしくて、言葉の最後にペロッと舌を出して肩を上げた。


「麻里ちゃんが二段だったら、じゃあ僕は三段にしよう! 編集長は何にします?」


「えっ、私は普通のざるそばで……」


 編集長に聞いた南さんが、代表して店員さんに注文を伝える。


「僕が、ざるそばの三段盛りで、こちらが二段盛りね」


「かしこまりました」


「ちょ、ちょっと南君。私二段盛りなんて食べられないわよ!」


 編集長の注文を勝手に増量してしまった南さんだけど、このあとどうフォローするつもりなのだろうと、興味津々で二人の会話を聞いていた。


「大丈夫ですよ。もしも食べきれなかったら、直ぐ隣に信州産まれで蕎麦が三度の飯より大好きな人がいますから」

 

 と言って笑った。


 “んっ!? それって私が爽太さんに、あげるはずだったのよ。


 ……もしかして南さん気が付いちゃった??”

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