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***パパラッチに追跡される私***

 打ち合わせが12時前に終わったので、リリーを誘って一緒に食事をすることにした。


「何が食べたい?」


 そう聞くとリリーはニッコリと笑い


「爽太さんの一番好きな物を一緒に食べたい」


 と言ってくれたので、飯田橋の方に歩いて行った。


 もちろん向かったのは蕎麦屋。



 ◇◇◇◇◇◇



「ちょっと南君、みっともないわ。もう帰りましょう」


 カメラマンの南君に無理やり連れて来られたものの、こうやってビルや電柱の陰に隠れてコソコソと麻里の行動を見張っていることに対して、なんだかすご~く抵抗がある。


 こんなふうに人が何しているのか興味本位に追いかけて覗き見するなんて、まるで低俗な麹町の某出版社がするようなことじゃない?


 と思いつつも、全く興味が無い訳ではなくて、内心はその逆。


 興味があり過ぎてワクワクドキドキが止まらない。


 問題なのは、第3者的に見て、どうなのかなって言うところ。



「いいですか大井町編集長、これには編集長と僕の将来がかかっていると思ってください。だから低俗な週刊誌のパパラッチとは違います」


「貴方と私の将来!? なんで??」


 大井編集長は、そう言うと逃げるように少し体を離した。


「いや、僕たちの関係じゃなくて、その……何て言えば良いのかな。つまり編集長と九段下印刷の柴田さんとの将来です」


「でも、いま “僕たち” って言いましたよね。じゃあ南君はなんの関係があるの?」


「いっいや、僕はそのぉ……あっ! 出て来ましたよ!」


 才女のくせに意外と鈍感な大井町編集長に少し焦った。


 でも丁度僕にとって絶妙に良いタイミングで、お目当ての二人がビルから出て来てくれた。


 その事自体は良いのだけれど、麻里ちゃんはまるで柴田さんに腕を巻き付けるように寄り添っていて、これじゃあまるで恋人同士みたいじゃないか。


「チョッと南君、カメラ貸しなさい!」


 いままで気乗りがしないような雰囲気をかもし出していた編集長が、いきなり僕が肩から掛けていたカメラを横取りして覗く。


「あれっ? これ真っ暗で何も見えないじゃない」


「あー、それレンズカバーを外してください」


「レンズカバー? あっこれね……もっと大きくは見えないの?」


「今付けているのは標準レンズですから無理ですよ、なんなら望遠に替えますか?」


「当たり前じゃないの、何しに来たと思っているの? レンズにはカバーをつけたままだし、最初から望遠着けておかないと決定的瞬間を逃しちゃうでしょ!」


 慌てて僕が望遠レンズに付け替えると、大井編集長はまるでひったくるようにカメラを取って覗き見て「追いかけるわよ」と言い足早に歩きだした。

 その行動はさっきまで大井町編集長が否定していた “まるで低俗な麹町のスクープの大好きな某出版社がするようなこと” そのものだった。


 編集長の、あまりの変化に「一体どうしたんだろう?」とボソッと口にすると「私たちの、将来の問題でしょ! グズグズ言ってないで、見失わないようにチャンと彼等の後を追うのよ!」と怒られた。



 ◇◇◇◇◇◇



 柴田が打ち合わせから帰ってきたら色々と聞こうと思っていたら、向こうから電話を掛けて来て「食事に行ってくる」とだけ伝えて切れた。


 特に彼女と行くとも言ってはいなかったが、間違いなく打ち合わせしていたあの女性と一緒に行くのは間違いない。

 今から慌てて追いかけても、もう奴は彼女を連れて通りの向こうに姿をくらましているに違いないが、どうせ奴の行くところくらいは察しが付く。


 それならば先回りして待ち伏せしてやろうと思い、俺は社屋を出ると飯田橋方面へ向かって走り出した。



 ◆◇◆◇◆◇



 爽太さんに連れられて行ったのは、大通りの一本奥に入った静かな通り。


 いままで歩いて来た通りに比べると、本当に人通りが少なくて、いまこの通りを歩いているのは爽太さんと私の二人きり。


 本当にこの通りに、お蕎麦屋さんがあるのかしら……。


 もしかして爽太さんは、私をこの通りに誘い込んで、なにかしてくれるのかも知れない。

 そう思うと、心が踊るようにドキドキワクワクしてきた。



 ◇◆◇◆◇◆



 見つからないように追いかけて行くと、二人は大通りに出ないで、その一本手前の路地を曲がった。


 一瞬気付かれたと思い注意深くその路地の端のビルに貼り付くようにして、慎重に覗こうとしている私をよそに南君が堂々と路地に出ようとするのを止めて顔だけ半分出すと、そこはまるっきり人けのない通り。


 “もしかして、二人は……”


 もう、見ちゃいられないわ!

 まるで昼メロの世界。


 私は本当のパパラッチにでもなったような気がして、もう直ぐ決定的瞬間を目の当たりにするかと思うとドキドキしてしまう。


「あれ!? いなくなりましたよ」


 南君の、とぼけた声に我に返り、通りに目を戻すと二人の姿が忽然と消えていた。


 “いったいどこに?”


 “もしかして、更に人目の付かない所?”


 勝手な想像をしながら覗いていると、通りの向こう側に怪しい男の影が見えた。

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