***処分室から聞こえてくる悲鳴と私②***
誰もいない部屋に南さんが撮影しているカメラのフラッシュが光り、私の眼に犬や猫たちの最後に残した残像がフラッシュバックされる。
真っ白なコンクリートの壁には、幾つもの犬や猫の恐ろしい姿が影として映り、様々な影は壁だけに留まらず天井や床にも私の目が得範囲内を現れてはまた消えて行く。
何度も何度も。
まるでその生と死をこの部屋の歴史として刻むように。
その悲惨な姿を見せられていると不意に立っている足がふらついて、倒れそうになる体を支えるために冷たいコンクリート製の壁に触れたとき、彼等の断末魔の叫び声が手のひらを通じて伝わってきた。
ここで死んでしまった犬や猫たちは、その死の直前……いや断末魔の苦しみの中にあっても飼い主に助けを乞い、迎えに来てくれることを疑いもせずに死んでいったのだ。
そして彼らの思いは、彼らを捨てた飼い主に届くことはない。
そう思うと、急に目眩がして倒れそうになった。
体の力が抜けてしまい、部屋の景色が歪んだままグルグルと周る。
力なく徐々に傾いて行く私の体を、異変に気が付いた南さんが、たくましい腕で支えてくれた。
南さんの暖かな優しさと体温がシャツを通して伝わってきて、昔犬だった頃によく抱っこされ可愛がられた感覚を思い出す。
そう。
飼い主だった爽太さんに抱っこしてもらっていた頃の、身も心も温まる懐かしい思い出。
南さんの温かい腕に支えられ、いままで抑えていた感情が一気に噴出してしまい、頬から涙が止めどなく溢れた。
私は暫くそこから動けずに、南さんの大きくて暖かい胸に顔を埋めて抱かれたまま泣いていた。
◆◇◆◇◆◇
「ただいま帰りましたぁ」
編集部にいつもどおりの麻里の明るい声が響いた。
「おかえり!」
「お疲れ様」
麻里の帰りを待っていた私と里美が、にこやか返事を返す。
一日中心配していた里美が、デスクに居る私のほうに振り返って微笑んだので私も微笑み返した。
すぐに里美が私の耳元まできて「元気そうでホッとしたわ」と囁いたので「そうね」と返す。
里美は麻里の机に行き今日の取材の様子を聞いていて、麻里も楽しそうに答えている。
だけど南君は未だドアのところにヌーボーっと立ったまま、明るく振る舞っている麻里を見ていた。
”やはり何かあったに違いない”
「南くん、チョッと良いかしら」
「あっ、はい大井町編集長」
「だから、大井町じゃなくて、大井町子でしょ! 変なところで勝手に切らないで頂戴」
「すみません」
私はカメラマンの南君を廊下にさそい、取材中の麻里の様子を聞いた。




