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***動物愛護センターと、捨てられたダイと私***

 横野の取材を終え、次は動物愛護センターへと向かう。


 今日は犬と猫の譲渡会が行われる。


 ロンの家族になった夫婦も先ずこの譲渡会でロンと知り合い、トライアル飼育を行って家族となった。いわば人間で言う『お見合い』


 動物愛護センターに着いたときには、もう受付を済ませた多くの家族が待ち遠しそうにゲージに入れられた動物達を見ていた。


 何組かの家族にインタビューさせて貰うが、どの家族もペット達との出会いにワクワクしていて、インタビューの合い間にもお目当ての犬や猫の入れられたゲージから目が離せない様子でチラチラと見ている。

 

 やがて開始時間が迫って来ると彼等のワクワクにソワソワが加算され、このままインタビューを続ければ更に違う要因が加算されてしまうのは確実だったので、場の雰囲気を壊さないように輪の中から外れて外から見守る事にした。

 

 開始時間と共に一斉にゲージから出された犬や猫達は最初こそ戸惑っていたが、直ぐに自分をお目当てとする家族たちと打ち解けて、その楽しそうにふれあう姿を見ていると私も嬉しくなって眺めていた。


 リリーの場合は動物愛護センターではなくて小規模なブリーダーさんの所に居たので、戸惑うような不安はなかった。

 良心的なブリーダーさんは直ぐには手放さなくて、何度も会わせて犬と飼い主を慣れさすとともに相性もみるし、飼い主としての資質も見る。

 特に飼い主としての資質は重要で、ブリーダーから見て駄目だと判断された家族には決して犬を委ねない。


 私がお世話になっていたブリーダーさんは優しかったけれど、そこのところだけは厳しかった。


 けれども、やはり人間は分からない。

 その厳しいブリーダーさんがOKを出したにも拘わらず、私は結局捨てられることになってしまったのだから……。




 暫くたった時、少し離れた通路をセンター棟に向かって行くお爺さんが見えた。

 よく見るとお爺さんは、グイグイと嫌がる犬を強引に引っ張っていた。

 

 その様子はどう見ても愛情の溢れる行為とは言い難く、お爺さんのイライラしている表情以上に見ている私を不安にさせた。


 犬は大勢の人で賑わうこの場所に驚いているのかナカナカ歩が進まず、時折苛立ったお爺さんから「早く来い!」と怒鳴られながらセンター棟に消えていく。その光景に何か不吉なものを感じて暫くセンター棟から意識が離れないでいると、今度はお爺さんが一人だけ、来た道をそそくさと足早に戻って行くのが見えた。


 譲渡会では全員ではなかったけど何組もカップルが出来、これから横野の夫婦のような手順を踏み正式な家族になると思うとホッと肩を撫で下ろす。順番は逆になるけど最後の取材は収容された犬たちの取材。


 その前にさっきの犬のことが気になって事務所に向かう。

 事務所の玄関にはさっきの犬がいて、お爺さんの帰りを待つように去っていった方向にきちんとお座りして待っていた。


 職員さんの話によると、お爺さんは息子さん夫婦のマンションに引っ越す事になり、そこでは犬が飼えないから預けに来たという事だった。

 一応は正規の引き取り手続きだが、一緒に話を聞いていた南さんは意見してやるから爺さんの住所を教えて欲しいと憤慨して職員さんを困らせていた。


 お爺さんの連れてきた犬は「ダイ」と言う名前の雑種でもう十四歳。

 その年齢を聞いて、また南さんが大激怒していた。


 そう犬の十四歳というのは人間で言うと大体七十過ぎくらいにあたる。


 寿命は犬種によって大きく違うけど、目の前にいるダイの場合は毛艶や目脂の痕と、その大きさ(体重十五㌔くらい)から考えると、もうそんなに長くは生きられない。


 命の最後の時を家族から捨てられて孤独に過ごす事になったダイが可哀想で、私は傍に座って抱きしめていた。


 まだ職員さんを困らせていた南さんも、そんな私の姿を見て漸く静かになり、その後は取材予定表どおり保護された動物達の収容されている施設や殺処分室を見学する事になり通路を移動した。




 神奈川県も昔は年間二千匹以上もの犬と猫を殺処分していたが、2014年以降保護動物の殺処分は行われていない。


 しかし全国にはまだ年間に十万匹以上の犬と猫が各地の動物愛護センターで殺処分されている。もちろん各動物愛護センターはNPOなどのボランティア団体などと協力して殺処分ゼロを目指しているのは確かだが。

 増え続ける捨て犬や捨て猫の数に追いついていないのが現状。


 NPOなどのボランティア団体も受け入れ数は限られる。


 特に法律で数が決まっている訳ではないけれどスタッフが管理できる数を越えてしまうと、全く管理が行き届かない状態に直ぐに陥ってしまい、捨てられた動物の為の施設が逆に虐待する施設に変わってしまう事になってしまう。


 それだけ、生き物を飼うと言うことは手間のかかる事なのだ。




 南さんは職員さんからの説明で殺処分がないことを聞いてホッとして、薄情な飼い主から離れて今度はもっと優しい飼い主の世話になれれば、それは良い事かもしれんな。なんて軽く言いだし、それは落ち込んでいる私を元気付けるための言葉だとは分かっていたが、私は南さんに八つ当たりしてしまった。 


「南さんは親や兄弟から捨てられたことってありますか!?」


 私の言葉に南さんは驚いていた。もちろん人間の子供のこと。特にこの日本では、そんな経験をしてしまうケースは先ず無いと言っていいほど稀なこと。


「いま、あの子は長年家族だと思っていた人に、それも何の相談も無しに急に捨てられたのです」


「だけど……」


 南さんの言いたいことは、よくわかる。


 そう、ここは神奈川県だから殺処分はない。つまりペットとしての尊厳を問題にしなければ、生きていくことはできる。しかもセンターには獣医さんも居るので、衛生面や病気などにも気を遣ってもらいながら。


 でも……。


 こんなことは動物が好きなら誰でも思うこと。そして未だに明確な解決策もない。南さんは人間の立場でダイを心配してくれたのだから、それで良いのだと思う。八つ当たりしている私が悪い。


「すみません。私、動揺していたみたい……」


 戸惑う南さんに、素直に謝る。


「いや、僕の方こそ、捨てられた犬の立場になって考えてあげる事が出来なくて」

 そう言って南さんは自分の手で自分の頬を思いっきり叩いた。


 私もビックリしたけれど、もっと驚いたのはセンターの職員さんの方。


「すみません。施設内で大きな物音を立てないで下さい! 犬や猫たちが怖がってしまいます‼」


 あー……分かるけれど、そっち??


「はあ、すみません」


 注意された南さんが大きな背中を小さく丸めて謝る。


「さあ最後の取材。南さん頼みますよぉっ」


 私は気持ちを変えたくて思いっきり空元気をだして明るく言った。

 (但し、声の大きさは控えめに言いました)

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