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***譲渡犬のロンと私***

 秦野駅で同乗したワンボックスの荷台には、これから横野に住む里親のもとへ向かう二歳くらいの雑種のワンちゃんがゲージに収まっていた。


 名前は「ロン」。


 ロンは新しいお家へ向かう期待と不安でゲージの中で心配そうな顔をしていた。


「大丈夫よ」


 私が、そう宥めてあげても複雑な気持ちは払拭されないのか伏せをしたまま、おとなしく私の顔を見ていた。


「出しますよ」


 運転手さんの言葉を合図に後部座席に収まりシートベルトを着用する。後ろのロンを見るには少し体勢がキツイ。でも、わたしはロンが孤独な思いをしないように時々目を合わせて話しかけた。


「里親になる人って、どんな人なのかな?」


「六十代の夫婦ふたり世帯ですが、いい人たちですよ」


 ロンに話しかけたつもりだったのに運転手さんが答えた。


「いい人だって。良かったね~ロン」


 何度か話しかけているうちにロンの表情が緩んでリラックスしていくのが分かった。


 ロンが、どういった経緯で愛護センターに引き取られたか聞くと助手席の女性が教えてくれた。


「今年の四月頃から頻繁に小学校を訪れる犬がいて小学生達が給食のパンなどをあげて可愛がっていたのです。学校側も始めは犬を追い払うつもりでいたのですが、良く躾された犬だったため、そのうち飼い主が引き取りに来るだろうと放置していたそうです。でも父兄の一部から衛生面や安全面の危険性を指摘され、学校側から引き取りの要請があったんですよ」


 と経緯を話してくれたあと「引き取りに行ったとき、生徒たちが凄く泣いちゃって大変だったんです」と付け加えた。


「飼い主さんは見付からなかったのですか?」


「見つかりませんでした。おそらく迷子になったのではなく、転勤かなんかの理由で捨てられたんだと思います」


 運転手さんの言葉に、南さんが場を明るくするつもりなのか「でも良かったですねぇ。もとの飼い主に捨てられても直ぐに小学生達と仲良くしてもらえて、そのうえ半年も経たない内に新しい飼い主が現れて」


「結構この子はラッキーですね」と、運転手さんも南さんの言葉に同意した。


 でも、私は全然そう思えなかった。最初合ったときのロンの不安な表情は、屹度短期間に二度も捨てられるという不幸を経験したが故の不安。

 今度もまた捨てられるかもしれないという恐怖だと思う。


 ロンは小学生達に可愛がられるくらいだから躾もできた愛らしい性格なのだと思う。それは最初の飼い主が可愛がっていたから身についたもの。


 だけど、どんなに賢くて、好い子にしていても“命のカード”は常に飼い主が握っていて、いざ捨てられるというときにも犬たちは、抗議することはおろか理由を聞くことも許されず、まるでゴミを捨てるように野に放り出されるのだ。


 隣で、良い事を言ったつもりで笑顔を向けてきた南さんを私は睨みつけてしまった。


 別に南さんが悪いわけではない。

 人間から見るとロンの新しい飼い主が決まったことは喜ばしいことだと思うし自然な反応だけど、犬にしてみれば二度も捨てられるなんて人間不信に陥ってもおかしくない出来事なのだ。


 暫くして住宅街から少し外れた一軒家の前で車が止ると直ぐに、新しくロンの飼い主になる夫婦が庭先に出迎えてくれていた。


 取材のアポは既に編集長が取っていて、その際に大まかな事情も聞いていた。


 車から降りるとロンは直ぐにこの新しい家族の前で一所懸命尻尾を振っていて、ロンを囲む全員が可愛いとか嬉しそうと喜んでいた。


 でもロンが今必死に戦っていることなど誰も知らない。


 ロンは、もう捨てられることがないように頑張っているのだ。


 この家族に気に居られようとして。


 そして自分の願いが届くように必死に頑張っているのだ。

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