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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***大きな歯をした南さんと私②***

 慌てて喋ったせいで直前に心の中で思っていたことを喋ってしまい、全然フォローになってなかったので更に焦るけれど、意外にも南さんはその話に身を乗り出してきた。


「やあ、麻里ちゃんそれ “正解です!” 実はね、恥ずかしいんで余り誰にも言っていないんですが、小学五年生の正月に御爺ちゃんの家に行ったとき立派な鏡餅がありましてね。ほらパックのものじゃない本物のやつ。子供心に『こんなに大きなお餅。食べてみたい!』って思っちゃいまして、カチンコチンに罅割れたその餅を一つ食べちゃったんですよ」


「えーっ!一つ丸ごとですか?」

「さすがに二つは無理でした。お腹いっぱいになりましたから」


「それって、まさか下の大きいほうじゃないですよね」

 恐る恐る二段になった鏡餅のどちらを食べたのか聞くと、南さんは得意気に胸を張って「麻里ちゃん正解です。その大きいほう」


 得意になっている南さんが可愛らしかったけど、罅割れた鏡餅をそのまま食べてお腹を壊さなかったか心配になり聞いてみると


「そうなんですよ。麻里ちゃん “正解です”」と楽しいときの南さんの口癖『正解です』が、またまた飛び出した。


「でもね、歯は問題なかったんですが、やっぱりお腹が痛くなって暫くは御餅を食べられず “おかゆ” 生活になりました。危うく鏡餅の語源でもある、この世とあの世を彷徨さまよう所でしたよ」


 そう言って南さんは明るく笑っていた。


 鏡餅の “鏡” とは、古来青銅で作られた鏡の事。

 鏡には、この世とあの世の境界を映し出すとも考えられ、神事に用いられたり神聖なものとして考えられていた。


 折角のお正月に “おかゆ” で過ごさなくてはいけなくなった事を思うと可哀想な気持ちになったが、それとは逆に予想外なことをしてしまう南少年を愛おしく思い、ついほのぼのとした気持ちになりつられて笑ってしまう。

 



 そうこうしている間に電車は調布に着き、南さんはカメラと交換用のレンズの入った大きなバックと、黒塗りのガッチリとした三脚を持って電車を降りる。

 私はメモ帳と小型のパソコンが入っただけのショルダーバックだけだったので、南さんへ三脚を持とうと申し出たが「機材を運ぶのもプロのカメラマンの仕事ですから」と断られ、私も南さんの写真に負けない良い記事を書かなくてはと気合を入れた。


 これから向かう神代植物公園ドッグランではNPO動物愛護団体が、譲渡会で新たに犬と家族になった世帯を対象に躾や相談とコミュニケーションを目的とした催しが行われる。


 殺処分ゼロを目指す各動物愛護センターやNPO団体の取り組みと、犬を新たに飼う上で、そういった消されそうな命のなかから家族を選んでくれた飼い主さんたちに頭が下がる。

 今回この取り組みを紙面に取り上げ、理解を深めて貰おうと企画したもので期待と緊張で身震いがした。


 神代植物公園が近づいてくると、それまで住宅街だった風景の先にまるで時間と空間を一気に飛び越えてしまったのかと思うくらい大きな森が現れた。


 バスを降りると、道の反対側にドッグランが見えた。そしてバスが走り去ってゆく方向には今迄の家並みが見え、行く先には雄大な森が広がっている。

 まるで過去と現在の境界線のよう。


 そして、そこから吹いてくる心地好い風が私の髪を撫でて行った。

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