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「リリーとマリの恋物語」  作者: 湖灯


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***大きな歯をした南さんと私①***

「……麻里ちゃん。どうしたの?」


 呼びかける声にハッと気が着いた。目の前には心配そうな南さんの顔が私を覗き込んでいた。


「さっきから元気がないようだけど……なにか悩み事?」

「ううん。ちょっと昔の事を思い出していて。ごめんなさい心配させちゃって」


「いや、そういう訳ではないけど、いつも元気ハツラツで明るい麻里ちゃんがなにか “うわのそら” みたいだったから」


 そう言って、笑いながらランチの後に出された珈琲のカップを持ち上げた日に焼けた逞しい腕がなんだか愛おしい。そして、何故か急にその腕に抱かれてみたいと言う衝動が私を襲ってジッと見つめてしまう。


 私の視線に気が付いた南さんが、慌てて額から噴き出た汗をハンカチで拭う。

 私も慌てて視線をそらし、その気持ちを誤魔化すように目の前にあるオレンジジュースのコップにささったストローをクルクルと回しながら「ゴメン。また “うわのそら” になっちゃった」と笑って弁解した。


 “うわのそら”なんかじゃない。

 私は屹度、南さんの事が好き。




 喫茶店を出た南さんと私は、新宿から京王線に乗り調布を目指す。

 向かい側の車窓を見上げている私に、南さんが好い天気だねと言ったので「ええ」と顔を向けて微笑む。

 南さんの真っ黒に日焼けした顔からとびっきり大きく丈夫そうな歯が白く輝いていて、まるでお正月後の鏡開きの時に食べる硬くなった鏡餅でさえ、その歯にかかったら丸かじりされそうに思えて聞いてみる。


「南さんの歯って、とっても印象的ですね」って。


 (ことわっておきますが、南さんの歯は大きいですが決して出っ歯とかと言うのではなく、虫歯のない綺麗に整った真っ白で健康的な歯なのです)


 喫茶店でまるで目の前に南さんなどいないかのように考え込んでしまった気まずさもあって、どうでもいいような話を振ったつもりだったのに南さんは『待ってました!』と言わんばかりに明るく答えてくれた。


「あっ。よく言われるんですよ。アメリカのトウモロコシみたいな歯だって」


 大きな歯で申し訳なさそうに頭をかきながら話す南さんを庇うつもりで「たくましそうで、わたしは好きですよ」と言った。庇うつもりなんて全然なくて、私自身南さんの大きな歯をたくましく思っていたし、その大きな歯で何でも美味しそうに食べる姿が本当に好きだった。


 でも言い終わったあと、独身の男女間で変に勘違いされやすい “好き” と言う二文字の単語が入ってしまった事に気が着いて南さんの顔をチラッと確認すると、案の定その日焼けした顔の中で歯の次に白く目立つ瞳が驚いたように大きく見開いていた。


 “あら、やだ。スッカリその気にしてしまったかも……”


 私は慌てて「いえ、その……お正月の鏡餅まで噛み砕きそうな……し、確りした……」と、付け加えた。


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