エピローグ
最終話です。
目を覚まして最初に感じたのは、胸の辺りに感じる重みだった。
手を伸ばしてそれに触れてみる。
柔らかい髪の感触が心地よかった。
ぎょっとした俺は慌てて上体を起こした。
そのせいで、額に乗っかっていたタオルが落ちる。
「あっ、おはようございます」
寝ぼけまなこをこすりながら、リリカが朝の挨拶をしてくる。
どうやら、ベッド脇に座り、上半身を俺の胸に乗せたまま、今まで眠っていたようだ。
ハッと気がついたようで、リリカもすぐに上体を起こした。
「おはよう、ってどうしたの?」
俺はリリカに問いかけた。
隙だらけのリリカの寝起き顔にドキッとしながら。
「昨晩は大変だったんですよ〜」
「えっ?」
俺は昨晩のことに思いを巡らせる。
確か、火山の噴火があって…………そうだ、急に痛みが襲ってきたんだ…………そっから先は覚えていないな。気を失ったんだろうか。
「ヒロキさんは全身にびっしょりと汗をかいて、うめき声を上げながら床に倒れていたんですよ。熱も凄かったですし」
「そうだったのか。迷惑かけたね。ありがとう」
「いえいえ、当然のことです」
「リリカがベッドまで運んでくれたの?」
「いえ、それはお父さんが」
そうだよな、リリカの細腕じゃそれはムリか。
どうやら、まだ、寝起きで頭が回っていないようだ。
「そういえば、火山が噴火してたよね? あれ、大丈夫だった」
「ええ、こちらの方までは被害は及んでいません。すごい噴火でしたけどね」
デカい山だから近くに感じたけど、数十キロは離れてるもんな。
街に被害がなかったようで、よかったよかった。
「それよりヒロキさんのお身体は大丈夫ですか? ひどくうなされてましたけど」
「ああ、それが、嘘みたいになんともないんだよ。むしろ、元気すぎるくらい」
「ホントですか〜。良かったです〜〜」
俺の返事で、リリカは自分のことのように喜んでくれた。
俺の体調はバツグンだ。
なぜか、身体が軽いのだ。
まるで生まれ変わったかのように、身体も心もリフレッシュしている…………生まれ変わった?
昨晩の痛みといい、ひょっとして…………。
俺は自分のステータスを確認して愕然とした。
□□□□□□□□
名前:ヒロキ・サトウ
種族:人間(異世界人)
年齢:17
レベル:999
HP:9999
MP:9999
ATK:999
DEF:999
AGI:999
INT:999
EXP:9999999999
SP:999
スキル:なし
【称号】 竜殺し、限界到達
□□□□□□□□
なんじゃこりゃああああああああああああああ!!!!!!
え?
なに?
なにこれ?
バグ?
昨日見た、「駆け出し冒険者A」だったステータスとは大違い。
各種パラメータは全部カンストしてるし……。
経験値もすごい桁でカンストしてるし……。
SPもカンストで、スキル取り放題だし……。
それになんか知らない称号が2つも。
限界到達の方はまだ分かる。レベルカンストしたからもらえた称号だろう。
疑問なのは竜殺しだ。いつドラゴンなんか倒したんだ?
俺はゴブリンしか倒していないぞ?
ひょっとして、俺が倒したのはゴブリンに擬態していたドラゴンだったのか…………って、んなわけないよな。
ゴブリンどもから逃げ切ってレベルアップしたときにステータスを確認したけど、そのときにはこんな称号はなかったのをはっきりと覚えている。
いつの間にこんなことになったんだろうか…………。
思い当たるフシはひとつしかない。
夜中に激痛に襲われた。
そのときにレベルアップしたんだろう。
レベル2から999まで一気に。
はて?
でも、原因がまったく分からない。
火山が噴火した音で目を覚ましたけど、その直前まで俺はぐっすり眠っていた。
まさか、夢の中でドラゴン退治してレベルアップとか……………………なわけないしな。
うーん、思いつかんぞ。
「ヒロキさん、どうしました?」
黙りこんだまま、うんうんと唸っている俺を不審に思ったのか、リリカが心配そうに声をかけてきた。
「ああっ、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてただけ」
ステータスについては「あまり他人に吹聴しない方がいい」って昨日ギルド受付のおねーさんに言われたばっかだ。
ましてや、こんなぶっ壊れステータスを他人に見せられるわけがない。
俺はお茶を濁しておいた。
「そうですか。なら安心です」
ニッコリと笑顔を向けてくるリリカ。
ここで俺は起きた時の状況を思い出した。
彼女は俺の上に突っ伏して寝ていた。
きっと俺を心配して付き添ってくれたんだろう。
「リリカが看病してくれたおかげだよ。ありがとうね」
「そっ、そんな」
リリカがポッと頬を赤らめる。
そんな態度を取られると俺まで気恥ずかしくなってくる。
傍から見たらウブな若者同士の微笑ましい光景に思えるかもしれない。
でも、俺の中身はリリカよりひと回りも年上のおっさんだ。
なにやってんだかなあと自嘲しながらも、まんざらではない気持ちだった。
そんな感じで見つめ合う俺とリリカ。
出し抜けに俺の腹がくうぅぅ〜と情けない音を立てる。
「あっ、お腹空いてますよね。私、下に降りますので、準備ができたら食堂まで来て下さいね」
そう言い残すと、リリカは慌てたようにそそくさと立ち去って行った。
取り残された俺は「リリカちゃんかわいいな」としみじみ呟いた。
昨晩の様子や看病してくれたことなど、リリカちゃんは明らかに俺に好意を持っている。
理由は分からない。
俺の見た目が彼女のタイプなのか。
俺が転移者だからなのか。
だけど、俺に好意を抱いているのは間違いないだろう。
俺が彼女と同年代だったら、まちがいなく恋に落ちていた。
俺はもうおっさんだ。
しかし、俺の身体は若返っている。
リリカちゃんに相応しい年頃だ。
身体に引きずられてなのか、心まで若くなっている気がする。
だったら、恋に落ちちゃってもいいんじゃないか?
俺はステータスを再度眺める。
『年齢:17』の表記。
この年齢ならどんな人生でも始められる。
都合がいいことに、チートなステータスも手に入れた。
結局、原因は分からずじまいだけど、きっと忙しい神様の手続きが1日遅れただけだろう。そう思って、深く考えないことにした。
今度こそ、自分がやりたいように、自分のための人生を、自分の手で生きてみせる。
――そう。俺の冒険はここからだッ!!!
(了)
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【連載中作品】
「貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収 〜用済みとパーティー追放された俺は、可愛いサポート妖精と一緒に取り立てた魔力を運用して最強を目指す。限界まで搾り取ってやるから地獄を見やがれ〜」
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「勇者パーティーを追放された精霊術士 〜不遇職が精霊王から力を授かり覚醒。俺以外には見えない精霊たちを使役して、五大ダンジョン制覇をいちからやり直し。幼馴染に裏切られた俺は、真の仲間たちと出会う〜」
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追放・精霊術・ダンジョン・ざまぁ。
ヒロインは殴りヒーラー。
第1部完結。
総合2万ポイント超え。
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