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 森の中を進んでいく。

 今探しているのは薬草じゃなくて、ゴブリンだ。

 さっきの戦闘でゴブリン相手なら十分に戦えることが分かった。

 さあ、これからは楽しい狩りの時間だッ!


 ――それから何回かゴブリンとの戦闘を行った。

 落ち着いて対処すれば、正直なところ、ゴブリンは楽勝な相手だった。

 一度だけ2匹のゴブリンを同時に相手取った時があったけど、ノーダメージで余裕で退治できた。

 今も倒したばかりのゴブリンの身体が消え失せ、魔石をひとつ落としたところだ。

 小袋の中には、これで計14個の魔石。

 すなわち、俺はすでに14匹のゴブリンを倒したわけだ。

 生憎とレベルはまだ1のまま。

 受付のお姉さんの話だと、今日中にはレベル2になれるらしいんだけど……早く、レベルアップしてみたいな。よし、もうちょっと頑張ってみるか。


 そんなことを考えていると、後方の茂みが音を立てて揺れる。

 さすがにもう油断したりはしない。


 オレは武器を構えたまま、身長に後ろを振り向いて――ゾッとする。


 何体ものゴブリンが俺を半円状に取り囲んでいた。

 しかも、みなさん仲良く揃って、錆びついた武器を構えている。

 醜悪なツラをさらしたゴブリンたちは、俺を包囲するようにゆっくりと距離を縮めてくる。


 ――7体もおるやん!


 ゴクリッ。

 さすがにこの数は無理だ。

 チート装備があるし、十中八九は勝てると思うけど、残りの一、二が起こらないとは限らない。

 酔っ払っていて気が大きくなってた時ならともかく、酔いも冷めてきた今、このオッズで自分の命を掛ける勇気は俺にはない。


 ――となれば、三十六計逃げるに如かず。


 俺は全力で駈け出した。


 ゴブリンどもも、奇声を発しながら追いかけてくる。


 俺は昔どっかのマンガだか、小説だかで読んだ戦術を思い出した。

 こういう場合はまず走る。ひたすら走る。

 そうすると、相手は走る速さやスタミナに差があるから、必然とバラける。

 そこで、一体ずつ、各個撃破していけばいいだけだ。


 ――うん、完璧ッ!


 俺は走った、何度も後ろを振り向きながら、懸命に走った。

 大丈夫だ。ゴブリンは俺より遅い。

 作戦通りにやれば、問題ないはずだ。

 転移前のメタボな俺だったら無理だったけど、若返ったこの身体は嘘のように軽い。この調子ならなんとかなりそうだ。

 しばらく走ってると、俺の期待通り、先頭の一体だけ後続から突出している。


 ――よし、ここだっ!


 俺はほんの少しスピードを落とし、わざと先頭のヤツを追いつかせる。

 そいつが俺に攻撃を仕掛けるタイミングを見計らって、カウンター気味に横薙ぎに剣を振るった。


 ――ドンピシャだッ!


 俺の剣はゴブリンの首を綺麗に跳ね飛ばし、頭部を失ったゴブリンの身体が音を立てて倒れる。

 もったいないけど、魔石を回収している暇はない。

 俺は逃走を再開した――。


 その調子で、俺は走ってはハグレた1体を倒し、また、走っては倒し、5体のゴブリンを屠った。


 ――残りは2体、うん、イケる。


 2体なら同時に相手しても大丈夫だな。

 そう思ったのが、まさに、フラグを立ててしまったようで、振り返った俺が見たのは――ゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリン。


「えええええええええっ!?!? 増えてるじゃんっ!!!!!」


 後ろだけじゃなく、左右からも無数のゴブリンども迫ってくる。

 どいつも血走った目にヨダレを撒き散らしながら、獣性丸出しで追いかけてくる。



――ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ。


 俺は一目散に逃げ出した。

 逃げる俺を追いかけさせていたはずが、今度は、俺が追い立てられる番だ。

 なりふり構わずに逃げるしか、俺には選択肢がなかった。

 しかも、真後ろだけではなく左右後方からも追われているため、逃げる方向も選べなかった。


 五分か、十分か、どれだけ走ったのかわからないけど、ゴブリンどもに追い立てられるまま、走り続け、気がついたら、木々に囲まれた森の中に、ポッカリと空いたスペースが前方に見えてきた。

 最初は倒木がつまれたようなものが幾つかあるように見えた。

 だけど、近づいて分かった。

 それらは粗末なあばら屋だ。

 ボロボロで文明的とはいえないけれど、たしかに、それらは住居だった。

 ということは……。


 ――ゴブリンの集落!?


 俺が気づいた瞬間、それを見計らったかのように、あばら屋の陰から大勢のゴブリンが飛び出してきた。

 剣だけでなく、槍や斧で武装したヤツらもいる!

 それだけじゃない、弓矢を構えてるのまでいるッ!!!


 あわてて伏せた俺の頭上を、幾筋もの矢が通り過ぎていった。

 一瞬判断が遅れていたら……。俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。


 前にもゴブリン。後ろからもゴブリン。


 ――どうすりゃいいんだよ!


 おれがパニクっている間にも、ゴブリンたちは俺を挟撃しようと、駆け寄ってくる。


 ――ちくしょう。最初の7匹の段階で戦っときゃよかった。


 後悔すれど、後の祭りだ。

 このままじゃ、囲まれてタコ殴りされるだけ。

 大丈夫、ディーン印のこの革鎧の性能を信じるっきゃない。

 頭や首さえやられなきゃ大丈夫。

 このままこの場所につっ立っていたらジリ貧だ。

 覚悟を決めて突っ切るか。

 俺は立ち上がり、クルッと周囲を見回す。


 ――あそこだッ!


 俺は囲いが一番薄そうな方向に向けて走りだした。

 肩や背中にゴブリンどもが放った矢が当たるが問題ない。

 さすがはディーン印だ。


 駆ける俺は片手で剣を前方に向け、もう片方の手で頭部を守り、上体を屈めた姿勢で、ゴブリン包囲網へ突撃する。


 ザクッ、ドンッ!


 進路上に立ちふさがっていたゴブリンを俺のショートソードが貫き、直後、俺はそいつに体当たり。

 もつれるように倒れこみ、そのまま地面を転がる。なんとか、剣は手放さずに済んだ。

 ゴブリンは消え失せ、邪魔者がいなくなった俺は立ち上がる。

 すぐさま、左右からゴブリン襲いかかってきた。

 俺はメチャクチャに剣を振り回した。


 ディーン印のショートソードは相手の武器ごと2体のゴブリンをナマスにした。

 走り続けてきた疲労と今のムチャな運きのせいで、さすがに、息が上がっている。

 それに、さっき倒れこんだときにひねったのか、足首がズキリと痛んだ。

 だが、今はそんなこと気にしている暇はない。

 次々とゴブリンたちが襲いかかってくるのだ。


 ――立ち止まったらダメだ。逃げながら戦わなきゃ。


 俺は足の痛みを無視し、剣を振り回しながら、再度逃げ出した――。

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