表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

「とりあえず、我が商会の店舗へご案内致しましょう」


 街に入る際に、積み荷の確認やら、書類手続きやらで多少の時間は喰ったが、特にトラブルもなく門をくぐることができた。オレもディーンさんの知人扱いで審査をパスだった。

 俺たちを乗せた竜車を先頭に、一団は大通りを進んでいく。

 ほどなくして、大きな建物の前で竜車は停まる。


「こちらがディーン商会のトータス支店です」


 竜車の中で聞いたが、この街はトータスという名らしい。

 近場にダンジョンもあり、多くの冒険者や商人で賑わう、活気のある栄えた商業都市だそうだ。


「こちらが冒険者装備の一式です」


 案内された応接間のテーブルには、革鎧やら剣やらが並べられていて、他にも肩掛けの袋やら、なんやら、がひと通りそろっていた。

 俺の希望とディーンさんの提案の結果、まずは、冒険者としてやって行くのが一番という話になった。

 先立つものが皆無な俺だったけれど、そこはディーンさんが全部面倒見てくれた。


「本当に頂いても?」

「ええ、もちろんです」

「ありがとうございます」

「お礼は結構です。投資ですからね」

「はははは」


 ディーンさんはニコニコ顔だけど、「言葉じゃなくて、結果で返せよな」って、言外のプレッシャーがひしひしと伝わってくる。

 俺は乾いた笑いを返すしかなかった。


 小間使いの少年に手伝ってもらい、装備一式を身にまとう。


「おお、カッコいいな」


 俺でもそれっぽく見える格好になった。

 ディーンさんありがとう。

 自分の冒険者姿に感動していると、ドアをノックする音が。


「入りなさい」

「失礼いたします」


 美人な秘書さんがA4くらいのトレイを手に、部屋に入ってきた。

 ディーンさんはトレイから名刺サイズの金色のプレートを手に取る。

 続いて、トレイからペンのような物を取り、プレートになにかを書き込むような動作をする。

 すると、ペン先が青白く光り、筆痕も同じように青白くプレートに模様をつけた。


「こちらは私との繋がりを表すカードです。ギルドなどで見せれば便宜を図ってくれるでしょう」


 どうやら、さっきの動作はサインのようなものらしい。

 俺はカードを受け取ると、テーブル上の背負い袋を肩にかける。

 背負い袋には冒険に必要な細々とした道具だけでなく、当面の生活に困らない――それどころか、数カ月は遊んで暮らせる――だけのお金も入っている。

 くれるというので、気兼ねなく頂いておいた。


「色々とありがとうございました。この御恩は必ず――」

「ええ、期待しております。困った際には、まずは我が商会をお訪ねください」

「はい。よろしくお願いします」

「楽しみにしておりますよ」


 「はははは」と胴間声で笑うディーンさんに見送られながら、俺は商会を後にした。――


   ◇◆◇◆◇◆◇


 さて、今の俺は当分の間食い扶持には困らない状況だ。

 おっさんの金でしばらくはぷらぷらと暮らして、金が無くなったらおっさんとこ行って知識チートでお小遣いゲット、っていう半ニートみたいな生活も悪くはない。

 だけど、せっかく異世界に来たんだ。

 冒険者やってチートで俺TUEEEしたいよね!


 つーことで、俺はテンプレにのっとり、冒険者ギルドを目指した。

 教えてもらった道順通り歩くこと数分。

 冒険者ギルドの建物が見えてきた。

 石造りの2階建ての建物に木製のスイングドア。


 オレは緊張気味にギルドの扉をくぐったのだが、お約束のチンピラに絡まれイベントも発生することなく、無事に手続きを終えることができた。

 むしろ、ここでもやたらと親切にされた。


 ディーンさんからもらったカードを見せながら、「転移者だよ。冒険者登録したいよ」って言ったら、受付の美人なお姉さんにムチャクチャ親切で丁寧に説明してくれたよ。


 ギルドでの手続きはテンプレだった。

 手数料を支払って、ステータスカード貰って、クエストやランクの説明受けて、以下略。


 というわけで、俺も今日から冒険者の一員だ。

 ちなみに、俺のステータスはこんな感じ。

 ステータスカードは一度登録すると、念ずるだけで頭の中に現在のステータスが浮かぶ便利仕様だ。すごいね異世界クオリティー!


□□□□□□□□


 名前:ヒロキ・サトウ

 種族:人間(異世界人)

 年齢:17

 レベル:1


 HP:30

 MP:20

 ATK:5

 DEF:4

 AGI:4

 INT:3


 EXP:0

 SP:0

 スキル:なし


□□□□□□□□


 雑魚だった。

 雑魚中の雑魚だった。

 現地人のちょっとデキる子どもに負けるレベルだった。

 チートで俺TUEEEとか、都市伝説だった……。

 唯一の良い点は年齢だ。若返っている。ひと回り以上も。

 ピチピチの17歳だ。


 チートで俺TUEEEしゅうりょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。


 しばらくギルドの片隅で立ち直れずにいたら、いかつい冒険者のおっちゃんが「まあ、これでも飲んで、気を撮り直せ」ってエールを奢ってくれた。

 ヤケになってグビグビグビっと一気でいったら、なんか気持ちよくなって、なんとかやっていける気がした。


 いえーい、エールさいこー! エールうめええ!!!


 そういえば、地球でリーマン生活やってたときも、こうやって酒でストレス発散してたな……。

 おかげで、健康診断では脂肪肝と言われ、それでも止められず、肝硬変一歩手前だって医者に注意されたな…………。


 なんだよ、お酒は控えましょうって!

 食習慣を改めましょうって!

 適度な運動をしましょうって!


 IT土方をナメんじゃねえよ!!

 残業残業で、運動してる暇なんかねえんだよ!!!

 その上薄給だから、脂っこいジャンクフードと缶チューハイで発散するしかねーんだよっ!!!!

 スト○ングゼロで脳みそのブレーカーを落とさなきゃ眠れねえんだよ!!!!!

 おかげでハゲ散らかした血液ドロドロでフォアグラ肝臓なメタボリーマンのいっちょ上がりってわけなんだよっ!!!!!!

 死亡までのカウントダウン刻みながら、身体を削って生きてんだよっ!!!!!!!


 はあ…………。

 あらためて、地球での生活を思い出し、再び凹む俺。


 残業続きで3日連続で会社に泊まり込み、久々に終電で帰宅。

 家に着いところで出迎えてくれる人などおらず、酔いつぶれて眠りにつく。

 翌日は溜まった衣類を洗濯して、部屋を簡単に掃除して、あとはひたすら寝るだけ。


 こんな生活になんの意義があるのだろうか……。

 今日という日を生き延びるためだけに過ごす日々だった……。


 ほんと、医者が言うように、あと数年もあの生活を続けていたら、本当に死んでたんだろうな…………。


 いや、止めよう。

 もう、今のオレにとっては過去の話だ。


 なぜだか理由は分からないが、転移した際に俺は生まれ変わったんだ。

 年齢も十数年若返り、髪の毛もフサフサで、腹回りの贅肉ともオサラバしたんだ。

 おかげで、心まで若返った気がする。


 ああ、もう痺れる腕でキーボードを叩かなくてもいいんだ。

 日付が変わってからそろそろ本番とか考えなくてもいいんだ。

 常駐先の社員の理不尽に振り回されなくていいんだ。


 ホロリと涙がこぼれ落ちる。


 俺はツラい思い出をエールの苦味とともに飲み下した。

 結局、それからもう2杯ほどエールを空けながら、これからの新しい生活に思いを馳せているうちに、だんだんと気分が良くなっていった。


 ということで、気分一新。

 ニュービーにオススメの定番クエスト――薬草採取とゴブリン退治へ出発だっ!


 ちなみにこの2つは常設クエストらしくて、特に事前手続きは不要。

 現物(ゴブリンの場合は魔石)を持ってくれば、それでおkらしい。


 冒険に必要な装備はディーンのおっさんに全部もらったから、準備も完了してる。

 今夜泊まる宿を確保し、地図で場所を確認した俺は、さっさと目的地を目指すことにした。


 そうそう、この世界のステータスだけど、レベルとスキルがある。

 モンスターを倒して経験値(EXP)を貯めるとレベルが上がり、HPやATKなどの基礎パラメータが上昇する。

 また、レベルアップ時にはSPスキルポイントを得ることができて、そのSPを使って様々なスキルを習得できる。

 スキルを覚えるのは、教会でお布施を払って祈りを捧げればいいそうだ。

 ――ということをギルド受付の綺麗なおねーさんが教えてくれた。


 そんなこんなで街を出てから西に向かって街道を歩き、30分もしないうちに目的地であるウエストの森に到着した。

 この森は入ってすぐのところから薬草も生えているし、少し奥に入ればゴブリンがいるらしい。

 街の北側のノーケルヴォ山にはドラゴンの巣があったり、凶悪なモンスターが多数生息していたりと、危険だから絶対に近づくなと受付のおねーさんからキツく警告された。

 だけど、このウエストの森は奥深くに入らなければ、他の凶悪なモンスターも出ない。まさに初心者にはうってつけの場所だ。


 ステータス的には心許こころもとないけど、大丈夫。

 俺にはディーン商会特製のハイスペック装備というチートがある。

 これ、本来は中級冒険者でも購入をためらう金額らしい。

 ゴブリンなんか俺でもスパスパ切れるし、あっちの攻撃も鎧がない場所に当たらないように気をつけてればノーダメなんだって。

 そう言われたら、なんも怖くないでしょ?


 というわけで、新人冒険者(ほろ酔い)な俺は、「よーし、やったるでー」とワクワクしながら、森の中へと入っていった――。

次話は21時過ぎに投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ