お稲荷様はモザイクといなり寿司がお好き
昨日、お昼過ぎに買い物に出掛けたら、稲荷神社で春の大祭やってたので、書いてみました。
今日3月10日も、お祭りやってる筈です。
あえて外した、トイレエピソードを差し込みました。
運営さんから指摘が入ったら抜きます。
「お兄、風呂空いたよ」
そう、妹の燐が言ってから3時間が経とうとしていた。
ネットしてると時間が経つのが早い
さて、ぬる~く成った風呂に入るか…
着替えを持って立ち上がると、ドアの前に狐が座っている
なんで、オレの部屋に狐が居るんだ?
「どうせなら、美少女が良いのに…」
自慢じゃないが、彼女居ない暦イコール年齢だ。
夢なら狐じゃなく、女の子だろ!オレにケモノ属性はねーっての!
あ、でも耳だけとか、殆ど人間ならオッケーかな
『おい!お前、お千代の孫だな』
「うおお!すげえ!狐が喋るとか、夢はなんでもありだな…」
『喋ってはおらん、お前の頭の中に直接語り掛けておるだけじゃ。それより、お千代の孫か?って聞いておる』
何か、すげえ生意気な狐だ
「オレは、克巳、七瀬克巳だ!お千代じゃねえ」
『戯け!お千代じゃないのは、見れば解るわ!』
「婆ちゃんなら居ねーぞ、年末に亡くなったからな」
『なんと!?…そうか…人間は儚いのう…』
「婆ちゃんに用事があったのか?」
『毎年、3月の第二の土曜と日曜に春の大祭があるんじゃが、その前にお千代のいなり寿司を食べると活力がみなぎってのう』
そう言えば、毎年この時期にいなり寿司作ってたな
『そうか…何時も供えられてる、いなり寿司が無いので来てみたら、お千代…逝ったか…』
狐は、寂しそうに項垂れる
「もしかしたら…レシピがあるかも…」
『本当か?』
「絶対じゃないけど、まだ全部遺品整理してないから」
『よし!早くレシピを見付けていなり寿司を作るのじゃ!』
「えー、此れから風呂なんだけど…」
これ以上放置すると、完全に水になる
『戯け!風呂なぞ1回ぐらい入らずとも死なんわ!』
「それを言ったら、いなり寿司だって食わなくも死なねーよ!」
『嫌じゃ!嫌じゃ!』
面倒くさい狐…
『どうしても、レシピ探さないなら…』
狐は低く構えると、急に飛び掛かってくる
力ずくかよ!
オレに当たる…そう思ったら、身体の中に吸い込まれ消えちまった。
『此れで御主は、レシピを探して、いなり寿司を供えるまで元に戻らん』
元に戻らんって何のこっちゃ?
そこに、妹の燐が
「お兄!お風呂が水になっ…」
なぜか言い掛けて、固まっている
「ああ、悪りぃ…今行くから」
ん?声が変だ…
今日は白昼夢なんか見たりして…調子が悪いみたいだな
早めに寝るか
「お兄…その頭…」
「頭?まだ気にするほど薄くねーよ」
「そうじゃなくて耳…」
「耳がどうしたって…あれ?耳がねえ!」
「だから、頭の上にあるんだって!」
「はあ!?」
手で頭を探るように撫でる
何だ…このもふもふの三角
さわり心地が良すぎて、ずっと触って居たい
「おお!感覚があるぞコレ」
「お兄、私にも触らせてよ」
そう言って、逆の耳を触り出す
ヤバ
これ止まらない…
「て、アホか!」
「急に素に戻らないでよ」
「此れじゃ、外歩けねーじゃねーか!」
「大丈夫、お兄可愛いよ」
「ざけんな!可愛いが通用するのは、女の子か12歳以下の男児だけだ!」
「じゃあ、お兄当てはまるね」
「当てはまらねーよ、23だぞ。12歳以下の男児じゃねーし」
「だから、当てはまるってば、女の子だもの」
「…今なんつった?」
「だから女の子…」
燐は、俺の胸を指差す
Tシャツをくいっと引っ張って中身を確認すると
小振りながら胸が膨らんでいた
マジか!?
「と言うことは、まさか…」
ジャージのズボンとトランクスを下ろし確認する
「お兄が…お姉に…」
「オレのムスコが消えちまった…」
『だから言ったじゃろ、いなり寿司を供えるまで、元に戻れると思うな』
「くそ狐!ムスコを人質に取りやがって!」
「お兄、さっきから誰と喋ってるのよ」
そうか、燐には聞こえ無いのか
仕方ないので、狐とのやり取りを説明してやる
「それなら、お母さんが作れるよ」
「マジで?」
「亡くなったお婆ちゃんと、毎年一緒に作ってたから、大丈夫だと思う」
よし!此れでレシピは要らないな
「おい狐!いなり寿司はどうにか成りそうだから、もう風呂行っても良いだろ?」
『ふん、儂はいなり寿司さえ食えれば、後はどうでも良いわい』
妹の燐に、母親への説明を託し、オレは風呂場へ行く
女の子の身体って、見放題じゃん!
ヒャッホー
『まったく御主と言う奴は…』
狐の呆れた声が頭に響く
「はん!彼女居ない暦23年のオレをなめるなよ」
脱衣場で丸裸になり鏡に写す
…
「おい…なんで鏡バグってんの?」
『御主の眼を、やましい気持ちがあると、モザイクが掛かるようにしてやっただけじゃ』
「ざけんな!てめぇ!少し位イイ思いしたって良いだろが!」
『本物の人間の彼女作ってから、存分に見せてもらえば良かろう』
それが出来たら苦労はしねえ…
「此れが、女体を見る最後のチャンスかもしれないだろ!」
『そんな悲しい事を言うな…セツナクなるじゃろ』
お願いします。
そう言いながら、脱衣場で全裸土下座をすると
「お兄…新しい儀式かなにか?」
いつの間にか来ていた燐が呆れている
「モザイクを外す儀式をだな…」
「ふ~ん…良くわかんないけど、お母さんはOKしてくれたから、明日のお昼には出来るよ」
『それは、楽しみじゃ!』
ご機嫌な声が頭に響く
くそ!狐ばかり良い思いしやがって…
…
そう言えば、『やましい気持ちがあると』って言ったな
深呼吸をし気持ちを落ち着ける
…
……
よし!
鏡を覗くと、モザイクが取れてなかった
「ドチクショウ!」
『このスケベめ』
はぁ…
無駄に体力を使った
さっさと身体洗って寝ちまおう
目の前に…すぐ目線の先に、股間があるのにモザイクとか
「なあ狐様…モザイク強すぎだろ、もうちっと薄めてくんない?」
『さっきも言ったように、やましい気持ちが無くなれば、モザイクなんて掛からんのじゃぞ』
やましい気持ち無くなったら、見る努力なんてしねーよ
見るのがダメなら触ればいい!
よし!感覚まではモザイク出来まい
あれ?
身体が動かねぇ…
『そう来ると思うてのう、身体の操作権限を儂と入れ換えてやったわ』
は?
何それ…生殺しじゃねーか!
結局、風呂をあがって部屋へ行くまで、狐に身体を乗っ取られたまま、自動で進められた
これが俗に言う『狐付き』って奴か…
なんか違う気がするが…
『またなんか、やましい事をしようとしたら、操作権限移すからの』
狐に釘をさされる
仕方ない、昨日買ったエロ本でも見て気をまぎらわそう
…
「なあ…狐…」
『なんじゃ?』
「本のモザイクより、眼のモザイクのが強くて、何見てるかわかんねーよ!」
『御主…本当スケベじゃのう』
「見れねえ、触れねえじゃ、起きてても仕方ないから、もう寝るぞ」
電気を消して布団に潜り込む
が
ヤバい、催してきた…
トイレに駆け込んだは良いが、どうやってするんだ…
「おい狐、どうやってトイレしたらいい?」
『そんなの、片足上げて…』
「解ったもういい」
所詮は犬科…聞いたオレが馬鹿だった。
どうせ、股から出るのは同じなんだ、ホースがあるか無いかの差だろう
なら、便器を跨いで真上ですれば大丈夫…のはず
立って洋式の便器を跨ぐと、そのまま放尿を開始する
はっはっは正解で…ない!?
7割は便器の中に落ちるが、残り3割が足を伝って床を濡らしていく
「おああぁ、マズイぞ!」
『だから、片足を…』
「犬科は黙ってろ」
こんなことなら、素直に妹を起こして聞くんだった…
濡れたズボンとパンツを脱いで、トイレの床掃除をする
くそ、こんな辱しめを…
漏らしたみたいだし
小便臭い下着とジャージのズボンを、他の洗濯一緒にしたくなくて
風呂場へいって、小便臭いパンツとズボンを残り湯で濯いでから、洗濯機に放り込む
ついでに股と足も洗って置く
ただのトイレに、こんなに苦労するなんて…
「狐、お前のせいだぞコノヤロウ」
『知らんわ』
トランクスだけ履いて、布団に潜り込む
お願いだから、トイレの夢は見ませんように…
『なあ、まだ起きておるか?』
「寝てる」
『起きておるではないか!』
「何だよ、まだ何かあんのか?」
『いや何…お千代の最期は…どうじゃった?』
「…最期は…多少ボケてたけど、オレたち家族に見守られながら、笑って逝ったよ」
『そうか…』
そう一言だけ呟くと、狐は黙ってしまう。
医者の診断も、病気でも何でもなく『老衰』による心肺停止だった
苦しまずに、すーっと静かに逝ったので、良い最期だったと思う。
その日…若い頃の婆ちゃんが、巫女服姿に千早を纏い、神楽舞を奉納する姿の夢を見た
その神楽舞を、神社の社の屋根から見ている風景
おそらく、狐の目線だろう
と言うことは、半世紀以上前か…
なんか…若い婆ちゃん綺麗だな、現代で見掛けたら声かけちゃうぞきっと
『これ!儂の思い出を汚すでない』
「何だよ、夢まで邪魔すんのか」
『夢と言うより、儂の記憶がお前に流れてしまっただけじゃ』
「これが、最初の出逢いって奴か?」
『いや、実際に逢って喋るのは、もうちょっと後じゃ』
「さては、神楽舞に魅とれたな?」
『まあ…正直言うと…そうじゃ』
わかる気もする
オレだって、孫じゃなきゃ惚れてたわ
「んで、出逢いはどうだったんだよ」
『お千代は、神社の前を通学しておってな…それを毎日、社の上から眺めておったのじゃが…ある日、通学中のお千代と目が合ってな』
「そりゃあ、神社の屋根に、狐が居れば誰だって驚くって」
『いや、儂は一応御神体じゃぞ、霊力のある者以外は姿が見えんはずじゃ』
「じゃあ、なんでオレに見えたんだよ」
『不本意だが、御主に霊力があったと言うことじゃな、最初に御主の妹の所へ行ったが、見えてないので、仕方なく兄の御主ん所に行ったんじゃ』
やたらと、『仕方なく』を強調しやがって、性悪狐め
『話を戻すぞ、その目が合った日の夕方、いなり寿司を持ってきてくれてのう』
「それが出逢いだったって訳か」
『そうじゃ、それから3日に1回差し入れてくれては、学校で起きた事なんかを話してくれての』
「それ高校か?」
『いや、中学生じゃった…こんな田舎では、高校はまだ女子には珍しい時代じゃったからな』
「今じゃ考えられん」
『それでも、当時高校まで出たのは、先見の明があったんじゃろう』
成る程
『まあ、その後高校卒業して、旦那になる男を紹介しに連れてきての』
「それがウチの爺ちゃんか?」
『そうじゃ、まあ旦那には儂が見えて無かったがな』
祝言を挙げるまで、頻繁にいなり寿司を差し入れてたらしいが
嫁入りし、新たな生活が始まると、差し入れの回数は減っていった
最後は年に1度、春の大祭前に必ず供えて居たらしい
話を聞いていると、いなり寿司は口実で、本当は婆ちゃんと話したかったんじゃないかな…
そんな風に思えてしまった。
「なあ、オレで良ければ、時々神社へ話し相手に行ってやるぞ」
『ふん、偉そうに…だが、お千代の血筋を終わらせるのは忍びない。御主が縁を結ぶまで、付き合ってやろう』
おかしな二人?の奇妙な契約がなされた
翌朝
近所の佐々木豆腐店に、油揚げを買いに行く
ウチで、いなり寿司作るときは、いつもこの店の油揚げと決まっているのだが…
さて、豆腐屋へ出掛けるのに、男装をせねば…
幸い、胸はさほど大きくないので、ちょっとダボダボの服を着て行けば、膨らみは解らんようだ
頭の耳は帽子で隠し、顔はマスクをしようと思ったが…
マスクの紐を掛ける人間の耳がねえ!!
仕方ない、顔は…まあ、大丈夫か…
豆腐屋のおっちゃんに、バレなきゃ良いだけだし
声も意識して低くすれば…たぶん大丈夫
「らっしゃい!」
朝から元気な佐々木のおっちゃんが声を掛ける
「佐々木さん、おはようございます」
「おはよう!克巳君今日は休みかい?」
「ええ、オカンに油揚げを買って来るよう言われて…」
「じゃあ、毎年恒例の、いなり寿司作るって訳か」
「そうなんです。急遽作ることになって」(狐のせいで)
「代が変わっても、ウチの油揚げ使ってくれるとは、嬉しいねえ」
一つオマケだ、と余分に2つ入れてくれた
アバウトな人だ(良い意味で)
『あー、美味そうじゃ…一口食ってくれんか?』
「まだ味がついてないぞ」
『良いではないか!』
「言い訳ねーだろ、食うのはオレの口なんだぞ」
どうせ食べるなら美味しい方が良いに決まってる
「あ、テメエ操作権限移しやがったな」
勝手に右手が動き袋の油揚げを出そうとしている
『1枚だけじゃから』
ざけんなぁ!
ありったけの力で抵抗する
『御主!まさか儂の術を破るのか!?』
「ふ、交換だ!この眼のモザイク機能を外せ!」
『ぐぬぬ…それだけは出来ん…仕方ない我慢しよう』
どうやら、諦めたみたいだ
オレとしては、油揚げ1枚でモザイクが外れるなら、その方が良かったのに
と言うか
さっきから通り掛かった人の視線が痛い
まあ狐の声は、オレにしか聞こえてないし
オレが、ビニール袋に手を突っ込んで、独り言を言ってれば…怖いわなぁ
不審者情報の事案発生になってるぞ…きっと
近所、歩けねーじゃねーか!
くそ、酷い目にあった。
家へ帰るとオカンに油揚げの袋を渡し煮込んで味付けしてもらう
出来たら酢飯を積めるだけだし、簡単じゃないか
本当は手伝いたかったが
作ってる途中で、狐がまた身体奪って盗み食い始めそうなので、大人しく部屋で待つことに
『まだかのぅ、早く食べたいのぅ』
「うるさいわ!気が散って本も読めねーだろ」
『じゃあ、お話でもするか?』
「何話すんだよ?」
『克巳は、彼女作らんの?』
「その話題を振ってくるとは、良い度胸しているな、おい」
『昨晩、縁を結ぶと約束したからの、気になる娘でも居るのか、聞いて置こうと思うて…』
「いるぞ!」
『何!?本当か?』
「ああ、その娘は画面から出てこねーんだ…」
『…』
あ、大人しくなった
「て、テメエ!勝手に身体動かして、鼻に指突っ込もうとすんじゃねえ!」
必死で抵抗したわ
『御主が真面目に話さんのが悪い』
「オレは何時だって真面目だ!」
『嘘をつけ!』
「嘘じゃねーし、真面目に巫山戯てるだけだ」
『もう、意味がわからん』
狐は呆れ返って居たので、オレの勝ちだな
そんなやり取りをしていると
「お兄、出来たよ~」
燐の呼ぶ声がする
此れで、狐ともお別れだな
「おい、どうすんだ?ここで食ってくのか?」
『否、神社に留守役として尻尾を残して来たから、尻尾を回収してから食べようと思うのじゃ』
それで、オレに尻尾が生えなかったのか…ちょっと触って見たかったんだがな
パックに、いなり寿司を入れて貰い、神社までお供えに行く
事案発生で、警察官でも巡回して居るんじゃないかと、ビクビクしていたが、大丈夫だった。
よし!ここで良いか
「ほら、着いたぞ」
『やっと念願のいなり寿司じゃ』
「…」
『…』
「おい、何やってる、早くオレから出て行っていなり寿司を食べたらどうだ?」
『それがの…出ることが出来んのじゃ…』
…
「はあ!?」
『すまんが、しばらく一緒に暮らすしか、無さそうじゃの』
「ざけんなぁ!!」
こうして、オレと狐の奇妙な生活が始まる事になるとは、夢にも思わなかった。
その後、神主さんに事情を話して、巫女のバイトをしながら元に戻る方法を探す事になるのだが
それはまた、別のお話である。
読んでくださった方、ありがとうございます。
本当に、思い付きで書いた作品ですので、お目汚しですが、御容赦ください。