池手名 伊三(いけてな いぞう)物語 ~うっとしいおっさんが行く~
池手名 伊三(いけてな いぞう)物語④ ~将棋編~
こんなおっさんおったらうっとしいやろなぁっていう、架空のおっさん「池手名伊三」シリーズ第四弾です。今回は同期の新居に遊びに行くという設定にしてみました。今回も前回同様、ゆるい感じで思いつくままに書いておりますので、ゆるい感じで見ていただければ嬉しいです!
「池手名さん、わざわざすみません。山本も悪いな。」
平川が申し訳なさそうにいぞう、山本に言う。
「いや、かまわないよ。自分の好きなことだしね。」
「おれ、暇だったから気にしないで」
「お二人とも、お休みの日にわざわざありがとうございます。作業終わりましたらご飯食べていってくださいね。」
平川の妻が今日はご馳走してくれるらしい。
山本はいぞうの後輩になり、同じ開発部門に所属している。平川は、部署は違うが山本の同期の男だった。
その平川がLinux(PCのOS)の勉強をしたいということで、普段からLinuxを使用しているいぞうが、パソコンの設定を請け負い、今日やってきた。
「ありがとうございます。大した作業しないのに、逆に申し訳ないです。」
「とんでもないです。私、よくわかってないんですが、LinuxっていうのはWindowsやMacと何が違うんですか?」
平川の妻がいぞうに尋ねる。
「一番大きな違いは、無料ってことです。WindowsやMacは高いお金を払わないといけないですが、Linuxはタダなんですよ。」
「タダってすごいですね。」
「それと、オープンソースといってプログラムが公開されているんですよ。なので知識があれば自分の好きなように改造することができます。WindowsやMacではそんなことできないですからね。」
「なにか難しそう。でも、私、今のWindows使えなくなると困るんです。大事なデータもあるし。」
「大丈夫です。PCを立ち上げるときに、WindowsかLinuxかを選択できるようにしておきます。」
「そんなことできるんですね。」
「デュアルブートっていうんですけどね、そういう使い方をする人、結構多いんですよ。」
「池手名さんは優秀なシステムエンジニアなんだよ。」
平川が妻に説明する。
「それほどでもないんですがね、池田と黒田っていう同僚にミスが多くて、そのカバーが大変なんです。」
(マジかよこの人。。。いつも池田さんと黒田さんにカバーしてもらってるのに。。。二人聞いたら怒るだろうな)
山本がインストール作業をするいぞうの背中を見ながら、池田と黒田を思い浮かべ、何とも言えない気持ちになる。
「よし!あとはインストールするだけだ、20分程度で終わると思います。」
「さすが池手名さんだ!ありがとうございます!」
「後はのんびりインストールが終わるのを待とう」
作業が終了し、インストールの完了を待つのみとなった。
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「おじさん!将棋しよう!」
小学校4年生になる平川の息子、こうたがいぞうに詰め寄る。
「こうた!池手名さんお疲れだからダメ!」
「いや、かまいませんよ。こうたくんだね?よし!将棋しよう!」
「池手名さん、将棋できるんですか?」
山本が聞く。
「僕にできないことなんかないよ。こうたくんに将棋を教えてあげることにしよう」
「はぁ。。。でも、今は子供でも凄い強い子いますよ。中学生の子が羽生さんに勝ったりする時代ですし、あなどれないかもしれませんよ。」
(大丈夫かな、この人が自信満々のとき、いつもろくな結果にならないからな。)
「ここ1年くらいハマッているんです。論理的な思考力もつくし良いことかなと思ってます。」
「そうだね。あと、将棋は相手の立場になって考える力がつくしね。」
「そうなんですか?」
(池手名さんて、ムダに知識あるんだよな。何にも活かせてないけど)
山本は残念な気持ちになった。
「そうなんだ。自分がどうしたいかだけ考えてたら将棋では勝てない。相手の立場になって考える。これは将棋に限らず社会に出てからも重要なことだ。」
「確かに、自己中心的な人は嫌ですね。」
山本が同調する。
「どうしても不平不満ばかりになるからね。当然人望も得られない。人望がなくいつも愚痴ってる。そんな人に魅力を感じるかい?
「感じる訳ないです。というか関わりたくもないです。」
「僕もだ。そんな残念な大人にならないためにも、将棋は良いってことだよ。さあ始めよう!」
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「こうたくん、先手。おじさんが後手でいこう。」
「え?先手でいの?やったー!」
(確か将棋って先手の方が有利だったよな。。。大丈夫かこの人。。。)
「お願いします!」
こうたが元気よく挨拶した。
「お願いします。」
いぞうが答える。
パシッ!!?
対局がスタートする。
(こうたくん、指し方かっこいいな。それに比べて池手名さんのダサイ指し方はなんだ。大丈夫かな。)
山本は早くも心配になってきた。
10分が経過する。
「あの、、、池手名さん、、、大丈夫ですか?」
「少し、不利な状況か。」
「少し?開始10分で飛車と角取られちゃいましたよ。小学生に開始10分で飛車と角取られる40歳って、多分、凄いレアですよ。」
「飛車と角はそれほど重要かい?僕は他の駒達も同じように愛しているよ。」
「いや、それは結構なことですけどね。飛車と角って、王将が劉備だとしたら、きっと関羽と張飛くらいのポジションになりますよ。」
「生憎だが、三国志に興味がなくてね、残念ながらその例えだと伝わらないな。」
「何か腹立つなくそ、えーっと、ポンキッキでいうと、ガチャピンとムック超重要じゃないですか!飛車と角って、、、いや、それは違うな。ごめんなさい。ガチャピンとムック忘れてください。えーっと、あ!水戸黄門で・・・」
パシッ!!
「チェックメイトだ。」
いぞうがそう宣言する。
「え?いまの何?」
驚くこうた。
「池手名さん、それ、桂馬ですよね。桂馬って駒がある右か左側の2段分しか前に進めないですよね。
今、そいつペガサスみたいな飛び方しませんでした?6段くらい飛びましたよね。あと、チェックメイトはチェスです。将棋は王手です。駒戻してちゃんとしてください。」
「そうか。チェスも好きなものでね。つい出てしまったよ。すまないね。」
パシッ!!
「王手!!!!」
「いや、あのですね、言い直していただいたのは良いのですが、どちらかというと、言い方より飛び方の方が問題です。桂馬がその位置にいれば確かに王手です。でもね、そこにいくのに一気に6段くらい動いてるでしょ。そんなに空高く舞い上がったらダメです。」
「こうたくんに教えてあげたいことがあってね。」
「なんですか?」
「こうたくん、社会に出るとね、反則技を平気でつかってくる奴がいる。しかも不思議なことに、それが認められてしまうんだ。正義が常に勝つとは限らない。悲しいけど、それが現実だ。今回、おじさんは桂馬でありえない動きをした。反則技だ。でもね、これが通ってしまうのが現実なんだよ。わかるかい?」
「いや、あの、無茶苦茶ですよ。。。」
「よくわからないけど、今の話だと、僕が正義でおじさんが悪ってこと?」
「そうなる。そして現実では悪が勝つことが多いんだ。」
「わかった。じゃあ僕、全力でおじさんを倒す。今の桂馬、王手のままでいいよ。」
「池手名さん、今の一回だけですよ!もうペガサスみたいに飛んだらダメですよ!」
「わかっている。反則技を使うのは一回で十分だ。さあ、反撃開始だ。」
10分後。
「池手名さん、もう。。。」
「まだ詰まれた訳じゃない。」
「いや、確かにそうですけどね。でも、そこからは。。。てか、ここまで完膚なきまでにたたきのめされた人、僕初めて見ました。しかも小学生相手に。」
「何か、何かあるはずなんだ。この局面を打破できる、起死回生の一手が。」?
「あの、どう考えてもないです。だって、池手名さんの駒、王将しか残ってないじゃないですか。もう、あきらめて投了してください。」
「確か、神奈川の方だったと思うんだが、ある高校のバスケットボール部の監督がこんなことを言ってたんだ。「あきらめたら、そこで試合終了だよ。」ってね。僕はその言葉が大好きでね。だから、あきらめる訳にはいかない。」
「いや、しかしですね。。。」
「最後まであきらめない男性ってステキだと思います。」
(奥さん、あなたそう言うけど、あきらめの悪い男ほどめんどくさいもんねーよ。。。自軍の駒が王将しかねーのにどうすんだよ)
「あれ、パソコンが。。。」
「奥さん、どうしました?」
山本がパソコンの方へ行く。
「インストールも全部終わってたんで立ち上げたんですが、Ubuntuって出てくるんです。どうやってWindows起動するんでしょう?池手名さんの話だと確か選べるって。」
「ちょっと見せてください。」
(・・・これ・・・、完全にWindows消し去ってるよ。。。全然デュアルブートできてねーよ。Linuxマシーンとして生まれ変わってるよ。)
「大事なデータがあって、今日中に送りたいんですよ。」
(奥さん、そのデータはつい先刻、池手名さんの手によってこの世から消え去りました。そして、もう元に戻せません。)
「くそ!追い込まれた!大ピンチだ。」
いぞうの声が聞こえる。
(まだやってたのか。でもね。こっちでその局面以上のピンチが待ってますよ。池手名さん)
彼の名は、「池手名 伊三」
デュアルブートすらできないダメなシステムエンジニアである。
うっとしいおっさん、「池手名伊三」の第四弾を書いてみました。前回同様、こんなおっさんおったら、ほんまにうっとしいやろなぁと思いながら書きました。
またまた内容がないです(笑)
でも、そんな内容のない話に今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。