2章 アルファ帝国領農村ブルゾン『花と葉っぱ』 1
春樹は1ヶ月の間、目立たないがその日1日で必ず少ない成果を上げていた。
その中で、実際に歩いて、フローディアの付近一帯と、フローディアが所属するアルファ帝国の地理や情報を少しずつ集めていた。
例えば、アルファ帝国の帝都アメリアはフローディアから東方向40キロメートル先にある。帝都アメリアは人口約40万人で、広さは最低でも5キロメートル四方の大きさを有し、南側が海に面し、大河ラエン川が帝都の東端走っている。帝都の東西と北には高さ20メートルの城壁が囲んでいる。気候は夏はカラッとした乾いた暑さで冬は降雪までしない程度の温度である。
帝都の周囲には広大な畑や牧場がある。農業の閑散期になると、副業をする農家があり、ホワイトラビットなどの毛皮や綿花などを加工する家内工業が行われたり、鍛冶屋の手伝いをする者がいる。そのため、商業は盛んであり、毛織物や綿織物、金属製品などが生産されている。
教育に力を入れており、魔法学校、武術学校、高等教育学校がある。
また、魔法で農業の一部を効率化しており、耕運作業や地熱を高めるなどし農業従事者の人口がやや少なくても、現人口分の食料を賄えている。さらに魚介類も恵まれており、料理なども非常に発展している、との内容を春樹は耳にした。
そんな中に、春樹はここ最近、フローディア付近の村落でアルファ帝国へ敵意を向けることが増えている、との話であり、場合によっては討伐隊が送られている。
何件か討伐隊が戻ってこない、という村落があり、その村落として名前が上がったのは、サウスフローディアと農村ブルゾンであった。
春樹が目指したのはフローディアから北西に15キロメートル先にある農村ブルゾンであった。
ここもサウスフローディアと同様に帝国への反逆を企てた村であるが、向けられた討伐隊が戻ってこない、という村であった。
そして、春樹がフローディアについた日に討伐隊の第2陣が向ったものであるが、その討伐隊もまた一向に戻ってきていなかった。
春樹は気にはなっていたのだが、理由なく行けば春樹自身に冒険者ギルドやアルファ帝国の情報収集機関に関心を持たれる。そんな風に考えているとタイミングよく、冒険者ギルドの受付嬢リーザが春樹に対してブルゾンへの調査依頼を紹介したのだ。
リーザが春樹に調査依頼を進めたのは、決して自己の危険地帯となる場所への踏み込みをせず、必要があればすぐに街に戻ってくる仕事ぶりを見ていたからだ。普通の冒険者なら弱腰と一蹴されそうではあるが、ただ一つの命を大切にするなら当然の行動なのだ。人間は楽観的な動物で、『きっと大丈夫』と思いがちなところがある。そんなところをあまり感じさせない仕事ぶりを見せる春樹には適任であるだろう、とリーザは判断したのだ。
リーザは春樹に、ギルド長から貸し与えるように言われた単眼鏡を渡し、壊さないようにとだけ注意して見送った。