表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/41

1章 アルファ帝国領フローディア 5

 春樹は血抜きを終えたホワイトラビットの死骸5体を見つめていた。

 春樹は動物の締め方の技術を持っているわけではなかった。しかし、動物の血抜きをしなければいけないと、思って試行錯誤すると、自然と体が動いて血抜きができたのだ。春樹は、生活の技術でさえも、ソウルスティールで奪うことができるのだろうと思った。

 春樹は死骸を見つめていたのは、どうやって持って帰ろうかということだった。とりあえず1体はカゴの中に入れたものの、2体は無理やり片手に分けて持って、もう2体は捨てるしかない、と考えた。春樹の筋力や体力が並大抵のものでは無いとされているが、ホワイトラビット1匹の重さは概ね25キログラム、それを5体を持って、5キロメートルも走破出来るか、出来ると考える方がおかしい、明らかに目立つ。そう春樹は判断して、2体の放置を決めた。

 春樹は鞄を胸側にかけて、できる限り太陽草などを詰め込み、持とうとした。すると、いつまで入れても鞄はいっぱいにならないことに春樹は気がついた。

 何故、今まで気がつかなかったんだ、と後悔した。銅貨、銀貨の詰まった袋を入れた時に鞄の重さが増えないことに注意していなかったのだ。これは恐らく、魔法のアイテムなのだろうと思いながら、ホワイトラビットの死体を5体入れたが、袋のサイズは変わらず、重さも変わらなかった。

 しかし、こんなアイテム日常茶飯事にあるわけではない。道具屋で春樹は背負いの篭を買わされたのだ。こんな便利な鞄を持っていることなど周囲に気づかれてしまえば、いらぬトラブルに巻き込まれるはずである。

 それで春樹は鞄に入れたうちの3体はギルドの直近の路地裏で隠れて取り出して、籠と片手に一体ずつ持って売り払う。残りの2体はささやき亭のお土産にすることにした。

 卸す先を2箇所に分けることで目立つのを避けられるはずだと春樹は判断したのだ。


 春樹は特殊スキル「疾走」を使用し、元来た道を走破した。

 馬ほどの速さはないが、人間が全速力で走るよりも明らかに早く、息切れも酷くはない。

 10分程度でフローディアに到着し、冒険者ギルドの付近の路地裏でホワイトラビットの死体を3体を取り出し、引きずってギルドの扉を開けた。

 冒険者ギルドに入った春樹は受付カウンターの前で立っていたリーザに、今にも力つきそうな声で助けを求める演技を始めた。


「リーザさん、手伝って……」


「これだけ捕まえるなんて大漁ですね。今日はうさぎ鍋でも作るんですか?」


と軽口を叩きながら、リーザは一匹のホワイトラビットを持ち上げるのを手伝う。計画通り、疑う様子すらなかった。


「ありがとう、リーザさん。あと一匹が篭の奥に入ってます」


「初日から凄い当たりだね。それにほとんど毛皮も傷ついてないし、一匹銀貨10枚で買い取れると思うなぁ」


 リーザは汗を拭いながら買い取り表を見て答えた。


「坊主、すげえじゃねえか!」


「なかなかやるじゃん」


などと冒険者からの笑い声と称賛する声があった。


「運が良かったんです」


と言いながら、鞄から背負い篭に移し替えていた太陽草と月見草の束を受付カウンターの上に乗せた。


「太陽草62本、月見草が38本、ピッタリ計100本です」


 春樹はそう伝えて渡した。するとリーザは、


「目標合計40本を軽く超えてるね。銅貨1000枚だから銀貨10枚だね。そうなると報酬は銀貨40枚かな」


と品物の状態を見ながら答え、冒険者ギルドの奥にいた40歳くらいの男に春樹の達成状況の説明した。おそらく上司に当たるのだろう。


「支払いと買い取り記録しておいてね」


と伝えて、男は視線を自分の机に戻して事務作業を始めた。


 リーザは銀貨を春樹に渡し、


「ステータスタグに今回の収集依頼の結果とホワイトラビットの買い取り履歴を打ち込むから、ステータスタグを提出してください」


と言うと、春樹はステータスタグを渡した。リーザは詠唱をして、現れた青白いキーボードを叩き、


「『更新』」


と唱え、すぐ様ステータスタグを春樹に戻した。これで、春樹の冒険者ギルドでの仕事は終わった。




ささやき亭にホワイトラビットとハーブや果物を持っていくと、ささやき亭の主人は驚き、そして買い取りをしてくれた。ホワイトラビットの金額は冒険者ギルドよりも1体当たり2枚銀貨が上乗せされた。上乗せしても、他の業者を通すより安く、状態も良い、とささやき亭の主人は喜んだ。

ささやき亭の主人は、ハルキは運が良かったな、と言って自分のことのように喜んでいた。その姿を見て、春樹はこのような大量の収集は控えようと心に決めた。魔物の力は弱いにせよ、人間の小学生低学年くらいのサイズ5体を持って帰ってくるのは、普通の人間の能力から見れば異常である。ホワイトラビットを1体仕留めれば2日分の生活は可能なのだ。小金に目を眩まされて、大事になってはいけない。それに、大量に仕留めて売り払えば、価格の下落にも繋がるし、最悪市場に出回りすぎて誰も買い取ってくれなくなる場合もある。

春樹は3種類の弱くて売り物になる魔物をローテションで2体ずつ狩り、薬師に直接売り込める乾燥可能なハーブや薬草を集めて保管庫となる魔法の鞄に詰めておこう、と決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ