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短編集『ぬかにクギは打てない』  作者: ジェイのすけ
3/4

『恩知らずでない猫』

 

 この物語は童話です。携帯用にと台詞のみで構成しました。

 アザラシのモデルは『タマちゃん』。そして猫のオリャくんのモデルは、もう十年前ぐらいに少ない休みを利用して当てのないロングドライブ(気ままな旅)をしていた時に出会った、河原の一匹の白い子猫です。

 ひと気のない河原で友人と野宿していると、ひとなつっこく寄ってきて晩酌の相手をしてくれました。いたずらにビールを舐めさせたら、びっくりして他の酒瓶をひっくり返して飛んで逃げていったっけ。

 でも、またけろっとした表情で戻ってきて。

 

 だれも立ち寄らない閑散とした田舎町の河原での出来事。

 そんな猫目線のシンプルな物語です。

 

 童話『恩知らずでない猫』




 はくちゅん! ブルブルブル……。


 オリャはネコだにゃん。この河原に住むチビネコだにゃん。


 なまえ? なまえってにゃんだそれ。食べられるにゃん?


 オリャはいま、たべものを探してるにゃん。オリャはいつでも腹ペコだにゃん。だまってたってだ〜れも食べ物なんか運んできてくれないにゃん。だから自分でさがすにゃん。


 でも、食べ物なんてなかなか落ちてないにゃん。落ちてたって、カラスのクロ公達が持って行ってしまうにゃん。せっかく“後ろ足で歩く生き物”がそこらじゅうにおいて行ってくれる食べ物も、かたっぱしから持って行ってしまうにゃん。


 ウ〜。お腹すいたにゃん。フラフラだにゃん……。


 それにしても、最近やたらこの河原に“後ろ足で歩く生き物”が増えたにゃん。


 きっと“アイツ”のせいだにゃん。


 アイツはいつも川の中にいるにゃん。


 水の中にいてよく平気だにゃん。


 オリャは水が苦手だからそんけいするにゃん。


 だけどアイツいつも独りぼっちだにゃん。


 さみしそうだにゃん。


 あれっ?


 そういえば、オリャもそうだったにゃん。オリャは気が付いたら独りぽっちだったにゃん。


 でも、それが普通だから気にしてないにゃん。


 淋しくなんてないにゃん……。


 ……でも“アイツ”はいつも淋しそうだにゃん。


 川の中からいっつもこっちを見ているにゃん


 “後ろ足で歩く生き物”はアイツがかなしそうな顔をしてこっちを見ると、みんなよろこぶにゃん。


 “後ろ足で歩く生き物”は日増しにどんどん増えていくにゃん。


 おかげでオリャはたべものが食べられるようになったにゃん。


 きっとアイツのおかげだにゃん。


 これなら腹ペコにならないにゃん。


 カンシャだにゃん……。


 うにゃ? にゃぁー! にゃぁー!! にゃにするだにゃん!


「ウフフ……こんにちは、カワイイ猫ちゃん」


 うにゃー! にゃにするにゃん! はなせにゃん! ふ、不覚だにゃん……。“後ろ足で歩く生き物”に捕まってしまったにゃん……。

 

「あらあら、そんなに暴れないで……。大丈夫よ、大丈夫。なでなでしてあげるから」


 うにゃぁ? そうなのにゃん? ホントにダイジョウブなのにゃん? 信用できないにゃん……。オリャを取って食べたりしないのにゃん?


「大丈夫よ、食べたりしないから」


 にゃん? おまえ、オリャのことばが分かるにゃん?


「いいえ、分からないわよ。でもなんとなく分かるのよ。猫ちゃん」


 にゃんだぁ? 変なやつだにゃあ。でも……おまえいいニオイがするにゃん。にゃんだかなつかしいニオイがするだにゃん。ネムネムだ……にゃん。


「あらあら、よっぽどおねむだっだのね。気持ちよさそう……」


 ゴロゴロ……ゴロゴロ……にゃん。


「おーい! 悠里! 悠里ったら!! もうっどこ行っちゃったのかと思ったわよ。なぁにぃ? その薄汚れた猫……。やだぁ悠里ったら、また猫なんか相手しちゃってさ。もうっ! 今日はこっちじゃないでしょ。わざわざこんな所まで足を運んで来たんだから、猫なんて放っておいてあっち見に行こうよぅ!」


「あらあら、渚ちゃん。もう少しだけいさせてくれる?」


「もうっ! もうっ! 悠里ったら! 猫なんてどこにでもいるじゃない! ほんとマイペースなんだから!」

 

 にゃにゃ……? うにゃーん? にゃんだか騒がしいにゃん。おいおまえ、どうしたのにゃん?


「なんでもないわよ、猫ちゃん……。あっ、そうだ。猫ちゃんお腹すいてる? 今ね、えびせん持ってるの。たべる?」


 にゃにゃっ!! この香ばしいニオイは……えびせんにゃぁん!! オリャの大好物だにゃん!


「さあ、どうぞ。たんと食べてね」


 うにゃ〜ん。それではいただくにゃん。ハグッ……あれっ? にゃんだこれ? カリカリするにゃん。えびせんてふにゃふにゃするものじゃにゃいの?

 でもいいにゃん。こっちの方がおいしいにゃん! いくらでもたべられるにゃん。やめられにゃい……とまらにゃいにゃん。


「あらあら、そんなに慌てて食べなくてもまだ沢山あるわよ。猫ちゃん」


「ねぇ、ねぇ、悠里ったら! そろそろ行こうよ。もう日が暮れるから、見られなくなっちゃうよ!」


「ハイハイ、渚ちゃん分かっていますよ。……それじゃぁね猫ちゃん、私行かなくちゃ。あなたを連れて帰りたいけど、事情があってどうしても連れて帰れないの。ゴメンね……、またね」


 にゃぁーん、にゃぁーん。もう行っちゃうのにゃ? もう少しここにいろにゃん! オリャはおまえが気に入ったのにゃん。だからいるのにゃん。


「あらあら……、ゴメンね……。またえびせん持って来るからね……」


「ねぇ、悠里ぃ! 早く早くぅ!!」


 にゃぁーん! にゃぁーん!


「またね……猫ちゃん」


 にゃあ……。行っちゃったにゃん。さみしいのにゃん……。


 でも、これでよしとするにゃん! だってえびせん沢山食べられたにゃん。


 きっとこれもアイツのおかげだにゃん。カンシャするだにゃん。


 そうにゃ! アイツにアイサツがてらにお礼を言ってくるにゃん。でも……


 でも、オリャは水の中には入れないし……。“後ろ足で歩く生き物”がいっぱいいて、川の側には近づけないにゃん。


 にゃんだ! そうなのにゃ! 夜中行けばいいにゃん。夜中なら“後ろ足で歩く生き物”もいないにゃん。


 それまで寝るにゃん。うにゃうにゃ……ねておくにゃん……。



 うにゃ? うにゃ? ……辺りが暗いにゃん。……そうにゃ、夜だにゃん。オリャの時間だにゃん。


 にゃんだっけ? にゃにかすることあったようにゃ……。


 そうにゃ!! アイツにお礼を言いに行くにゃん!


 あれっ?


 にゃんだか川の方が騒がしいにゃん。


 にゃにゃ!! にゃんでこんな時間まで“後ろ足で歩く生き物”が沢山いるにゃん!! これでは川に近寄れないにゃん!!


「おーい! 見つかったか!?」


「ダメだ! そっちは!?」


「こっちもだ! ……くそうっ。せっかく一般視聴者が喜びそうな、いいネタだってのに……。どこへ消えちまったんだ」


 た、た、た、大変にゃん!! アイツが“後ろ足で歩く生き物”に狙われてるにゃん!! このままじゃアイツ食べられてしまうにゃん!!


 いそがにゃいと! アイツを見つけて知らせてあげるにゃん!


 水は恐いんにゃけど、そうも言ってられにゃいにゃん!それが仁義というものだにゃん!!


 ハァ……ハァ……ハァ……やっと川に着いたにゃん。この辺にゃら“後ろ足で歩く生き物”がいにゃいにゃん。


 アイツいるかにゃぁ?


 えーと……。にゃんて呼んだらいいにゃん? まぁ、適当に呼ぶにゃん。


 おーい! いつも水の中にいる、さみしんぼうの独りぼっちく〜んにゃーい! いるかのにゃぁ! いたら出て来るのにゃん! オリャ、お前にお礼が言いたいにゃん!


 ………………。


 ここにはいにゃいみたいにゃん。あっち探してみるにゃん……。


 にゃ……? にゃ! にゃあぁぁぁぁっー!!



「よ、呼んだべさ? チビネコくん。……な、なんだべさ。ボクに何か用だべさ?」


 にゃはぁー! ハァハァハァ……。イキナリ水の中から出てくるにゃ! にゃん! びっくりしたにゃー、もう!


「だって君がボクを呼んだべさ」


 にゃにゃ……、そうにゃった。じつは話があるのにゃ。まずはお礼からだにゃ。オリャはおまえのおかげで大好物のえびせんを沢山食べられたのにゃん。ありがとうなのにゃん。


「なんだか分からないけど、どういたしましてだべさ。見かけによらず君って礼儀正しいんだね。ボクはアザラシのプー太。よろしくだべさ」


 プー太くんにゃん。初めましてなのにゃん。でもオリャは知っていたのにゃん。


「チビネコくん、君の名前は?」


 オリャか? オリャにはなまえなんてにゃいにゃん。オリャはいつも一匹ネコだにゃん。


「そうか、名前がないのか。それじゃボクが付けてあげるべさ。そうだ! 『オリャ』君てのはどう?」


 にゃにゃ! にゃんだかヒネリがにゃいけど……いいにゃ!! それもらうにゃ!


「へへっ! 気に入ってもらえたべさ。お近づきのしるしだべさ」


 にゃにゃ、オリャとプー太くんは今日から友達にゃのにゃ。


「……友達かぁ。オリャくん。とても言いにくいんだけど、ボク今日でここをお別れするだべさ」


 にゃ、にゃんだって?!


「だってボク、おかあさんの所へ帰りたいんだもの。ボク迷子なんだ」


 そうなのにゃ……。せっかく友達ににゃったのに。


「ごめんよ、オリャくん。ボク、くったらどこ、いられないべさ。水は臭いし、たべものはいないし。おまけに人間がボクをいじめるから……」


 にんげん? もしかして“後ろ足で歩く生き物”の事にゃか? ……そ、そうにゃ!! こうしてはいられにゃいにゃ! ニンゲンとやらがプー太くんを探してるにゃん! 見つかったら食べられてしまうにゃん!!


「そ、そんなぁ……。ボク何も悪い事してないべさ。何でいじめるべさ。……しかたないべさ、今晩旅に出るべさ!」


 そ、そうするにゃん! さみしいけどそれが一番にゃん!


「う、うん。ボクも君と出会えて嬉しかったべさ。オリャくんの事、忘れないべさ」


 うれしい事言ってくれるにゃん。オリャもプー太くんを忘れないにゃん! それが友達だにゃん!


「うん! ずっと友達だべさ!」


 うにゃ!! ずっと友達だにゃん!!


……にゃにゃ?! 誰か来るにゃん! きっとニンゲンだにゃん!早く行くのにゃん! 捕まったらおしまいなのにゃん!


「う、うん。でも……」


 いいから行くのにゃん! ニンゲンはオリャが引き付けておくのにゃん!


「オリャくん、ありがとう! またどこかで会えるだべか?!」


 分からにゃいにゃん! でもオリャたちはずっと友達なのにゃん!!


 き、来たにゃん! 早くだにゃん! プー太くん、元気で行ってらっしゃいなのにゃん。おかあさんに無事に会えるといいのにゃん!!


「おい! いたぞ、こっちだ! アザラシがいるぞ!」


 じゃあバイバイなのにゃん!


「うん、オリャくんも元気でね。バイバイ……」



 行っちゃったのにゃん……。あとはニンゲンを引き付けるにゃん!! 行くだにゃん! それっ!


 シャァーーーーーッ!!


「わっ!! 何だっ!! ネコがぁっ! ネコがぁ! 襲ってきたぁー!!」


「わーっ、機材がぁ! た、た、た、大切な機材が荒らされているぅ! わ、わ、わ、大切なディスクを噛み付いて持って行きやがった!!」


「捕まえろーっ! 取り返せーっ!!」


「まてぇーっ!! このドロボウネコー!!」





 ハァ、ハァ、ハァ……なのにゃん。


 ニンゲンとやらはなんとかまいたのにゃん…。


 プー太くん、無事におかあさんに会えるといいにゃん……


 うにゃ。きっと会えるにゃん。


 疲れたにゃん。オリャはまたねるにゃん。


 おやすみなさいなのにゃん……。







 さむいさむい日がいくつもこえたにゃん。


 プー太くんは元気にしてるかにゃん。


 オリャはあいかわらず、河原のさんぽだにゃん。


 そういえばオリャのさんぽ道に、プー太くんそっくりの固いやつがいるにゃん。


 そいつは話しかけても返事をしないにゃん。


 でも、プー太くんにそっくりだからいつも近くで昼ねをするにゃん。


 とっても気持ちがいいのにゃん。


 まるでプー太くんといるみたいだにゃん。


 うにゃうにゃ……


 にゃぁぁぁぁぁーっ!! にゃにするにゃん! はなせにゃん! ふ、不覚だにゃん!! またニンゲンに捕まってしまったにゃん!!


「こんにちはカワイイ猫ちゃん。あらあら、そんなに暴れないで。なでなでしてあげるから……」


 にゃにゃ? にゃんだかいいニオイがするにゃん。なつかしいニオイだにゃん。むにゃむにゃだにゃん……


「あらあら、猫ちゃん。ねむいの? せっかくえびせん持って来たのに……」


 にゃにゃ!! にゃんと! えびせんもってきたのにゃ?! 早く言うのにゃ!


「あらあら、そんなに慌てないで。沢山あるからたんと食べてね」


 うにゃ、そうするにゃ。


 うにゃ?


 でもものすごく眠いのにゃ……。きもちいいのにゃ………。


「おーい! 悠里ぃ……ハァ、ハァ、ハァ……もうっ! どこに行っちゃったのか心配したわよ! すぐいなくなるんだから!」


「あらあら、ごめんなさい渚ちゃん」


「ねぇ、ところでさ。こんなとこで何やってんの? ……あら? なつかしーっ!! これアザラシのマタちゃんのお墓じゃなーい!! へぇー、こんなとこにあったんだ。それよりさ、五年ぶりに会ったんだから再開を祝して美味しいケーキバイキングでも食べに行こうよ。この辺にお勧めのカフェ見つけたんだ」


「あらあら……。渚ちゃんは食いしん坊さんね」


「ほら、早くぅ! 悠里ぃ! こんなアザラシのお墓しかない所でえびせんなんか広げてないでさぁ」


「ハイハイ……。じゃあね、猫ちゃん……。お友達といつまでも仲良くね……。それじゃあね………バイバイ」


 うにゃ。バイバイなのにゃ……。オリャはもうプー太くんと、ずっといっしょなのにゃ……。



  ― 終 ―


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