『グラスハートな彼女』
ふざけた口調の地の文は、2008年の春に亡くなられた名優『広川太一郎』さんをイメージして書いたものです。
広川さんをご存知の方は、そんなイメージで読んで頂けると、ボクちゃん幸せだったりなんかしちゃったりして。そゆのもいいんでないかい。
『グラスハートな彼女』
みんな、聞いてくれ!
俺はさ。今現在、大変な危機に陥っちゃってるわけ。
「一体どうやって、この危機から脱出来るのさ?」
なーんて、そればっかり考えているところなんだけどさ、まるでいい案が思い浮かばないわけなのよ。もう、まるでダメ男。
だから、これを読んでいるアンタたち! 俺の力になってちょうだい!
ま、事情は、一から話さないと解からないだろうから、まずは、俺の身の上話から聞いてくれ!
そのくらい、いいだろ?
俺さ。最近この町に引っ越してきたばかりなんだけどさ。すんごい良かったと思えることが、二つあるわけ。
先ず一つめは、俺のアパートの窓から海が見えること。
都心から列車に揺られて一時間半の物件なんだけど、これがすんごい良い所でさ。六畳一間のフローリングのアパートの窓から南の方角を覗き込んだりするとさ。緑色の芝生が一面に広がる、もうこれでもかってぐらい、だだっ広い『緑地公園』が見えてさ。その公園のもっと向こう側なんか覗き込んじゃうと、もっともっと、だだっ広い壮大な大海原と水平線が待ち受けちゃっているわけ。な、な、すごいだろ。すごいだろ。
もう、なんつーの。すんごい贅沢? すんごい幸せ?
ちょっと前まではさ、都心近くの密集地帯に、赤茶色の触覚の生えた小人たちがうようよ徘徊する小汚いアパートなんかを借りていたわけなんだけどさ。ほら、なんて言ったっけ? あのカーネルナントカおじさんが使うチキンの名前? そうそう、そのブロイラーみたいな生活に飽き飽きしちゃってさ。そんでこっちの海側の、のびのびとした町に引越して来たってわけなのよ。
ちょこっと前まではさ。都会人気取りでさ。いろんな有名どころの街なんかを散策をしてみたりしてさ。ほら、金色のうん○みたいなオブジェが乗っかってるビルとかがあるだろ? あと“どぜう”とかいうにょろにょろした物を食わしてくれる、橋のたもとの古っぽい店とかあるだろ? そんなふうに、あの街のああいった店のメニューが旨いだとか御託を並べ立てちゃったりしていたわけなんだけどさ。もとをたどれば、俺もかなりの田舎者なんだよね。空気がまじー(マズイ)所になんかさ、そう長々といられないっつーの。もう都会人面してごまかして生きていくのはゴメンしたいわけなのよ。
そうそう。たまに携帯電話にかかってくる田舎の友達なんかに、
「ヒルズってさぁ、響きがいいよねぇー」
とかなんとか言ってみちゃったりしてたわけなんだけどさ。過去の俺。
はずかしー! アホかっての。ちゃらんぽらんな社会人の俺なんかにはまったく関係ないのにねぇ。
そんな田舎育ちの俺がさ。海の見える郊外の町に引越して来たってわけ。うーん、もう最高なわけよ。
そして二つ目。
そう、この二つ目が大切なわけ。これがもっと最高! ホント幸せな俺。
俺はこの郊外の町に引っ越してきて、ある女の子と知り合ったわけよ。おいおい、女の子って言っても女子大生だぜ。カン違いすんなよ、この犯罪者! このすっとこどっこい!
そう。つまりそういうこと。俺に飛びっきりの彼女が出来ちゃったってわけなのよ。これが。
そりゃあ、社会人二年生となったこの歳でさ。彼女が出来た事を、人生の一大事のようにはしゃぐのはみっともないんだけどさ。やっぱりこれが、俺にとっての一大事というわけなんだわな。
えっ? なにがそんなに一大事かって?
それがね、手前味噌で申しわけないんだけどさ……その彼女、かなりのカワイコちゃんなわけ。もうすんげーかわいいの。
よく小説なんかのたとえで、『目の覚めるような美人』なんて言い回しがあるだろ。言っちゃあなんだけど、俺の彼女はそんなふうな言い方がズバズバ当てはまっちゃう、目の覚めるようなカワイコちゃんなわけ。
これ読んでる人、みんな小説とか好きなんだろ。だったら俺が書いたものを読んで聞かせるよ。
えっ? 何をだって?
決まってんだろ。詩だよ。詩。ポエム。彼女の素晴しさを称えるポエムのことだよ。賛美歌ともいうのかな? 本物の賛美歌とかは歌ったことないけど。
えっ? 何? 今度でいい?
そうか。それは残念だな。結構自身あったんだけどな。まあいいや。それは今度さ、コンビニ行くついでに直木賞にでも送っとくからさ。まあいいや。
とまあ、そんなことはおいといてさ。
前置きが長くなったけどさ。俺は今日、そんな可愛くって優しくってパーフェクトに近い彼女とデートの待ち合わせをしているわけよ。俺のアパートから五分ぐらい歩いた所にある、紅茶のおいしい喫茶店なんだけどさ。そうそう、店の前で茶トラ模様の猫が「いらっしゃ〜いにゃ〜ん」とか鳴いて出迎えてくれる店なんだけどさ。
「いらっしゃ〜いにゃ〜ん」
だぜ。
ほら、アンタも想像してみなよ。すっごい可愛いだろ? そんな感じでさ。かなりイカしてるだろ?
この選挙前の政治家みたいに、かなり愛想のいい猫の名前が、プクちゃんって言うんだけどさ。これがまた彼女のすんごいお気に入りでさ。緑地公園でデートする時とかの待ち合わせ場所はいつもここ。このサテンってわけなの。まさに二人にとっての愛の招き猫っていうわけなのよ。
でもさ。そんな可愛くって心優しくってパーフェクトに近い彼女なわけなんだけどさ。ここだけの話、一つだけ欠点があるわけなのよ。
それはね――
とっても傷つきやすいってこと。
わかるだろ。心のことだぜ。内面のことだぜ。うーん、ハートブレイク。つまりハート。ハートが無茶苦茶繊細なわけよ。もうシャンパングラスの端っこみたいにもろくてさ。彼氏の俺としてもすんごい大変なわけよ。
この間もさ、俺のアパートに飯作りに来てくれたわけよ。むへへ。そうよ。もう俺たちはそういう関係なわけだけど……
彼女ってばさ、料理が得意でさ。その晩のメニューは和食中心だったわけ。
揚げ出し豆腐にきゅうりのお漬物。出し巻き卵に焼き魚。シジミの味噌汁。イカとねぎと若布の、ぬた和えなんかもあったっけ。あれはホントにうまかった。心までがとろけそうになったよ。
でもさ。俺が、つい口にしたあの一言がいけなかったわけなのさ――
「本格的な出し巻き卵もいいけどさ。弁当とかに入ってる甘〜い卵焼きとかもおいしいよね」
とか、言っちゃったりしたらさ。彼女、突然立ち上がって南側の窓の方へ駆け出して行っちゃってさ。ベランダからピョーンってな感じで飛び降りちゃったってわけ。
そう、その通り。自殺だよ。自殺。何気ない一言に傷ついちゃって、南側の窓から飛び出して、俺の目の前で、いきなり飛び降り自殺を図っちゃったってわけ。これがアンタ、驚かないでいられますかっての!
でもさ。彼女、全然怪我なくて無事だったわけ。えっ、なんで?
そりゃさ。俺の部屋が一階だからだよ。高さなんかぜ〜んぜんなかったの。アパートの目の前に広がってる、緑地公園の芝生の上に「デーン!」とかいっちゃったりして、単に寝そべっていたってわけ。まるで坂本竜馬の死に際みたいにさ、前のめりになって突っ伏した状態になっちゃったりしてさ。白いワンピースのスカートの部分が全部めくれ上がっちゃったりしてさ。お尻丸出しー、なんてわけ。な、な、おかしいだろ?
でさ、彼女そのまんまの姿でしばらく恥ずかしくって動かなくなっちゃったのよ。ね、ね、可愛いだろ?
そんな感じでさ、付き合って以来さ、俺のマイスイート彼女ったら、傷つくたんびに自殺未遂を図っちゃったりしちゃうわけ。もうホント、大変なんだから。こっちは。
招き猫のプクちゃんの頭を撫でながら、その喫茶店に入るとさ。そんなスイートな彼女が、俺の来るのを首を長くして待っていてくれちゃったりしてるわけなんだけどさ。今日も彼女は、飛びっきり可愛いわけなのよ。
もう薄桃色のセーターなんか着ちゃったりしてさ。髪を後頭部で一まとめにしちゃったりなんかしてさ。真ん丸い瞳なんかを、
「キラキラ〜」
とか、させちゃったりなんかしてさ。
「こっちよ」
とかなんとか、手を挙げてきちゃったりするわけよ。
うーん、ボクちゃんもう最高だわ!
でもさ。俺さ……
一つまずい事に気付いちゃったんだわな……
実はさ。こんなこと、他人に話すのもなんなんだけどさ。今、ヒラヒラ〜、ヒラヒラ〜、とか揺れる物体を発見しちゃったんだな、これが。
え? なにそれって?
ほら、よく教科書とかのえら〜い人の鼻の下辺りに、黒い鉛筆で一本線なんか引いちゃったりしたことあんだろ? 社会の授業が退屈で、なんとなくいたずら書きなんかしたことあんだろ? あれだよあれ。
そんなこまかーい黒い線のようなものが、彼女の可愛らしいお鼻の片方の穴から、ヒラヒラ〜とか舞い踊っちゃったりしちゃってるわけなのよ。
これがもう、飲み物なんかをストローで吸っちゃったりすると、余計に伸びて出てきちゃうわけなのよ。彼女の顔か可愛らしすぎるから、ひどく悲惨に見えてしまうわけなのよ。
もうホント、どうして鼻毛って急に伸びてくるものなのかしら。
ねえ、俺はこれからどうしたらいいと思う?
ねえ、俺はどうやってこの場面を切り抜けたらいいの?
これを読んいでるそこのあなた! あなたの意見を是非聞かせてちょうだい!
もう気分は、時間よ『とまれ!』ってな感じだよね。
『グラスハートな彼女』〈了〉




