幕間兎1、魔の森に来た最初の人間とその末路。
つながりをうまく作れるか心配です。
(あるうー日、森のなーか!KUMAさーんに!避けらーれた!!花咲くもーりーのーみーちー!!KUMAさーんに逃げらーれーたー!!)
この超ハイテンションでここ最近の最も心に来たことを歌うのは『クロ』こと宇佐月桂樹である。最初に断っておくがこれは最新話ではなく時系列的には幼女勇者が空から飛行石無し、紐なしの四肢粉砕バンジーをしてくる前の話である。
宇佐月はステータス自体は完成していたし、修練も順調と言うか本人はステータスを見ない縛りなので知らないだろうが『学習』が『戦闘学習』から『吸収学習』にメガ進化したため常人の四倍ほどの速度で成長していたのであったが、兎好きの発作が最近激しくなり水面に映る自分の姿だけでは満足できなくなって来た為「じゃあ兎探そうぜ!」と言う短絡的思考から「チキチキ!魔の森兎大捜索作戦!ポロリはないよ!」を計画し、現在絶賛探索中なのである。
(・・・にしても魔物が全然寄ってこないな、やっぱこの前ボスっぽいの倒しちゃったからかな〜?)
イグザクトリー、その通りでございます。魔の森の東側の主人『血濡れ鬼神熊』を倒したことにより称号を獲得し、それに寄ってこと森の東側に住む全ての魔物は積極的に襲ってはこなくなってしまい、果てにKUMAやOOKAMIなど魔の森では下位に位置する魔物や生物は逃げ出してしまうのだ。
暫し、と言うか半日ほど森の中を当てもなくさまよっている宇佐月、迷子になろうが問題はない物理的にも魔法的にも拠点にはひとっ飛びである。このままなんの収穫もなく此度の遠征が終わってしまうのかと誰もが(一羽)が思った。しかし!ソレは唐突に宇佐月の目の前に姿を現したのだ!
(兎、兎、兎 ・・・・・・・ん?人工物?)
そう、明らかに洞窟にドアをつけただけのもはや建築物かどうか気になるレベルの物だが今まで魔物と不思議植物しかなかったと思われていた魔境に人工物をみつけたのだ。
(今まで見えなかったのは結界か・・・ドア以外は腐り落ちてるしかなり古い。)
一応ドアに触れて見たが案の定ノブは重力に従って落下し、それに寄ってバランスは崩れたのか一斉に最後の人工物であった扉が木屑になってしまった。
(・・・古いを通り越して残ってたのが奇跡な感じだな。)
崩れる前に一瞬で鑑定した結果が
古代イスタリア帝国の骨董扉
約一千年前に存在した帝国製の扉、現在では御伽噺に題材として有名。
詳細
この扉にはイスタリア帝国の召喚異世界人、ダイチ・イノウエの強力な強化魔法と保存魔法、魔物よけが勇者の聖なる血に寄ってきざまれている。
(・・・・)
宇佐月は絶句した、驚嘆した。そして最終的に呆れた。異世界召喚というのがあったことではなく、はるか昔此処に人間が訪れていた事にである。
魔の森はハッキリ言ってマトモな生き物や生身の人間が長時間入れるようなところではない、魔物のレベル、強さがバランス崩壊しているのだ。KUMAを例に見ても外の熊型の魔物と比べれば圧倒的に上位存在なのである、数値化すればレベルが200近く違う。そんな魔の森は魔物以外にも脅威は存在する。それは異常な程濃い魔力と空気の内容物の大幅な変異である。濃い魔力は精神体と肉体の疲労を高め魔法が使えないような者が迷い込めば魔力暴走によってたちまち死に至るだろう。空気は大量の魔植物たちから排出される高密度の酸素と魔力を含んだ花粉によって人体に直ちに影響が出るレベルの毒ガスとかしている。
宇佐月が川辺まで辿り着けたのもかなりの奇跡だったのだ。
(まあ、今じゃ環境適応力も魔力操作力も桁違いだし、そもそも種族的に環境適応力は高めだし、そんなこと言い始めたら神様製のウサギボディだし良いんだが・・・)
彼はこの先に続く洞穴を進むため闇魔法で暗視能力を付与する。耳をピンと立て、いつでも戦闘用の魔法を使えるよう警戒しながら隠遁を意識して進んでいく。
所々に術者が死んで起動しなくなった魔法陣や魔法の罠が在り其れを観察、学習し避けていく。入り口からまだ10メートル程だが既に10個は魔法陣が設置されており奥を見ると更に間隔が狭くなった魔法陣の罠が在り、この先に何があるのか期待を寄せる宇佐月。しかし彼の冷静な部分は既に解を見出している。
ゴールは300メートル程で目前にあった。白骨化した左腕のない死体だ。残っている右手にはメモを大事に持っている。
(まあ、そうなるよな。)
簡単な推測である。まず一つなぜ此処に扉だけの簡素な拠点を作ったのか、それは彼が何かしらの負傷及び故障によって正常な状態ではなかったなから。二つ、なぜ彼が此処を大量の魔法陣で囲んだのか、彼が既に死に体だったから。
宇佐月はメモを拾い上げる。どうやらこの紙は特別気合を入れたのだろう、微かだがまだ魔力を感じる・・・
(いや!この紙は『生きて』やがる!)
咄嗟に手を離そうとするが紙には既に大量の魔力を吸われていた。
『あー、あー、マイクテストマイクテスト!』
なんとなく頼りなさそうな男の声が紙から聞こえてくる。
(精神構造体を死の間際に魔力とともに無理矢理紙に押し込み記憶だけになりながらも記録だけでも残した・・・てとこかな?)
『あー、俺異世界人、井上大地は此処で死ぬ様だ。』
たどたどしい言葉、記録するのにどれだけ精神力を使うのだろう、少なくとも彼は今魔法制御、安定化、魔力暴走の沈静化、記録する事柄の選定、精神構造体を失っていく喪失感。それらに耐え、並列に処理している。
『これを、見ている奴が、人間なら一番なんだが・・・』
(残念、兎だ。)
『まあ、良いや、此処は魔境と呼ばれる場所の一つ曰く『神の死んだ場所』『神のいない場所』『神の見放した場所』のどれかに該当する森の中だ。』
それからも次々と重要な単語が続く。
『此処ではどうやら召喚異世界人特有の『神の加護』が効かないらしい、お陰で俺は魔力暴走と戦闘力の低下、魔法の使用不可・・・・クソッタレ!』
『教会の上層部の願い通りこの先には『魔族』と呼ばれる別の生活様式と文化を持つ者がいる・・・ガッハ!・・・ふう、どうやら教会は・・・聖教会は此奴らを人類の敵として世界規模の戦をでっち上げようとしてるらしい。』
『幸いなことに魔族は人族より魔法に優れ様々な特性を持っているだけの人間だ。話も通じるし、文化の違いも些細な問題だろう、交流も可能だ・・・』
『あー、時間がねえ、端的にやってほしいことを伝える『召喚を止めろ』『この戦いに意味などない』『勇者と魔王は表裏一体』『世界のバランスを』』
記録は此処で途絶え、同時に紙は消滅した。
(・・・なんか壮大な話されたけどどう反応すれば良いと思う?)
笑えば良いと思います。
(ま、周りには俺と白骨死体、大量の魔物しか居ないからな。ツッコミ役は居ないが、考える時間はいくらでもある。特に此処が魔族とかいう人間っぽいのの領域と人間の領域の間であることは森を抜けるのに役立つだろうし、此処はやはり異質なところであるというのがよくわかったぜ。)
しかし、彼はまだこの時、自身がどの様なモノとして『運命』を定められて居たのか気づいてすら居なかった。この広大な森の中でどうして此処にたどり着けたのか、何故世界のバランス崩壊間際にこの世界に連れてこられたのか・・・謎は深まるばかり。