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野郎兎、冒険の始まり終

決して折れず、決して曲がらず、人々の希望と言う呪いを背負って唯ひたすらに進み続ける。

奇妙な光景があった。信じられない事に兎が勇者をいじめている。


「隙ありまくりだぞー、死にたいのか〜?」


「ミギャー!!!」


勇者は剣のようないびつな光の塊を剣の様に振るがウサギはそれを避ける事もせず自身の魔力で中和しつつ白刃どりして砕いた。


涙目になっている幼女が光の剣モドキが折れる度に泣きそうになっているがこうなった経緯を話す為話は数日前に戻る。






それは魔力操作と光魔法の練習中のことだった。


「そういや俺、ミーシャの聖剣を見た事ないんだけど・・・どこにあんの?」


そう、彼女は確かに『聖剣の勇者』と名乗った。しかし、クロは未だに彼女が剣を持っているところすら見たことがない。


「アレ?ステータスを見たんじゃなかったの?


「いや、あんまりまじまじと見るのもあれだし、名前を見るだけのつもりだったから詳細は知らないな。」


ミーシャは一応クロが自分のことを尊重してくれているのを感じて少し嬉しくなりこう言った。


「じゃあ、ステータスみてよ?私は鑑定持ってないし。」


因みにステータスを見せると言うのは冒険者だけでなくこの世界の住人としてはかなりの信頼と慎重さが求められる行為だ。異世界に来て浮かれた挙句他人の事を鑑定したりなんかしたら普通に牢屋へ永久就職する事になる。


「・・・はあ、もっと警戒しろよ?一応お前さんを保護してるとはいえまだ知り合って2日も経ってないんだぞ?」


「まあいいじゃん!私はクロを信頼してるし!」


(なんとも堂々とした態度だが他人にステータスを見せると言うのはかなりの馬鹿がする事だ、自分の戦い方や弱点が丸わかりだからな・・・まあ、馬鹿なくらいじゃないと耐えられないきつい修行になるし良いか。)


「じゃ、鑑定するぞ?」


「ドンと来い!」


ミーシャは自身の薄い胸を張りながら・・・おっと誰か来た様だ、どちらさぐえボア!?


・・・鑑定したクロは少しと言うかかなり後悔した。


『ステータスを表示


名前 ミーシャ

種族 人間

年齢 8才

職業 勇者lv30:固定サブ職不可、二次職不可

身長 140㎝/変身時160㎝

体重 秘密!

保有スキル

勇者・・・基礎能力の信仰以外を一段階上昇させる。戦いに適した姿に変身する。

聖剣・・・所有者ミーシャの『アストラル体』を具現化させた物、筋力を二段階向上。???

剣術

光魔法

神聖魔法・・・奇跡系の魔法スキル、破邪の効果。

魔力操作


基礎能力


筋力 中(極大)

魔力 大(極大)

信仰力 大

精神力 大(極大)

敏捷 中(大)

耐久力 極大(規格外)

魔法素養

光・神聖・・・極大

基本五属性・・・中


職業

勇者・・・光魔法、神聖魔法、全パラメータへの補正(極大)


以上が被解析者のステータス。』


「・・・うわお、馬鹿みてえ!」


彼がこう言った理由は二つ、一つは職業『勇者』があまりにも弱かった事、二つ目はスキル『聖剣』である。すぐさまクロはミーシャを問い詰める体制に入る。


「ヘ?」


困惑するミーシャをみて少し冷静さが戻るがそれでもなお聞く。


「お前さん一体今まで何回『聖剣』を使った?」


「た、沢山?」


まるで怒っているかのようなクロに困惑しつつも質問に応えようと努力したミーシャだが今までの戦いで聖剣の使用がなかったことはほとんどない故にこの様な答えを返した。それを聞いたクロは動物故に判りにくい表情を誰がみても判るほど歪めてこう言った。


「そうか・・・良いかよく聞け馬鹿勇者。もし、お前がこれからも『聖剣』を今までの様に使うならお前は精神構造体、所謂アストラル体が摩耗しきってある日突然糸が切れた様にぱったりと『死ぬ』」


「え・・・・」


まるで意味がわからない様な顔をするミーシャ、しかしその体は微かに震えていた。


彼がステータスをみて後悔したのは勇者のこの様子が予想できていたこと、そして彼女の様子から見るに彼女の『仲間』も似た様な能力者であると言うのが察せてしまうからだった。


「ど、どう言うこと!?聖剣を使うとどうしてアストラル体が削れるの!?」


「・・・この『聖剣』スキルで出される聖剣・・・名前はエクスカリバーだったか?まあ、名はそれほど重要じゃない。重要なのはそいつはお前さんのアストラル体、精神構造体を『聖剣』として顕現させて振るう能力だって事だ。確かに別位相にあってしかも意志の力で構成されている精神構造体は自身のイメージと強固な精神力さえあればいくらでも強固になり強くなる。でも逆に考えてみろ、もしその精神構造体である聖剣が砕かれたらお前さんの肉体がどんな状態であろうと精神が死ぬんだ。しかも剣と言う形で顕現している以上マトモに打ち合えば刀身は削れるし、いくら別次元に存在してると言っても生物の一部である以上摩耗する。つまり『聖剣』を使えば使うほどお前さんの精神は不安定になり、壊れていくんだ。・・・何か心当たりはないか?」


要約すれば『剣は使えば壊れる』そんな当たり前の事をクロは言ったのだ。そして言われてミーシャは納得してしまった。


いつの間にか日はくれていてクロは俯いたまま震えるミーシャの手を引いて家の中に入った。




グツグツとスープが煮込まれ、ジュウジュウと肉が焼かれる。香りも見た目も最高な料理が作られているのにも関わらずミーシャはベッドの上に座って呆然としていた。


食事時になってようやくベッドを離れて食事用テーブルにほど近い椅子に腰をかけて独り言の様に話し出した。


「心当たりはね・・・実はあるんだ。」


その姿は勇者の威光も、勝気な少女の姿も剥がれ落ちたか弱い幼子の様な薄い感じがした。


「・・・・」


「今はこうして勇者してるけど元々は小さな村の出身だったんだ・・・そこできっとお母さんやお父さんと暮らしてた・・・でも、もうわからない、昔の記憶がどんどん無くなってるんだよ。」


今度こそ耐えられなくなった、涙が出る、と言う表現が生ぬるい。とめどなく流れ落ちていった、気づかない様にもしかしたら気づかないうちに流れて薄れて消えて行った。嗚咽というより自嘲気味で、まるで自らの愚かさを呪う様な悲しみを溢れさせていた。


クロはそっとミーシャの頭を抱え撫でる。それだけで彼女の堰が今度こそ完全に崩壊し、ミーシャが泣きつかれ寝息を立てる頃にはもう料理は冷めていた。


(さて、どうすっかな。)




結局ミーシャに抱えられさながらヌイグルミの様な一夜を過ごし拘束が解けたのはミーシャが目覚めてからだった。そして、起き抜け彼女はこう言ったのだ。


「私決めた!聖剣に頼らず戦える様になる!」


「なるほどね〜・・・」


なんと言うか、クロはミーシャの人間性を未だ掴みきれていなかったところがあったが今回の件でわかったことがある。


(流石勇者と言うか・・・クヨクヨ悩まず真っ直ぐに突き進むんだなぁ。)


「早速修行をつけてよ!」


「あいあい、飯食ってからな。」


この底抜けに明るい笑顔は彼女の為じゃなく、世界を救う希望として『勇者』としての彼女の姿だと言う事だ。








バギャン!


光魔法と神聖魔法を魔力操作で変質させた光剣が砕け、クロの手加減パンチが体に当たる。


「プギ!?」


まるで枯れ葉の様に吹き飛ぶ自分の体。


「ほらほら!お前さんの勇者魂はそんなもんかよ!」


檄と飛ばしつつも、励まし回復してくれるクロ。・・・私は知っている、彼にとってこの修行は必要のないものだと、彼は私を拾った日に本当は旅に出るつもりだったのだ、証拠にあの素敵な家の中には家具と保存食以外何もなかった。


「ま、まだまだぁ!」


再度光剣を生成する、より鋭く、より鮮明に剣をイメージする。聖なる光を纏った祈りの剣を。


「・・・・」


走りながら魔力を編み続ける。この修行の最終目標はあの小生意気で優しいウサギに剣を当てる事、きっと魔王よりずっと強い彼に剣を当てられれば、そしてあわよくばかすり傷でも与えられるなら・・・あるいは魔王に勝てるかもしれない。


「うりゃああああ!」


「もっと鋭く、そして静かに斬り込めわざわざ相手に攻撃タイミングを知らせてどうするつもりだ!」


またも砕け散る光の剣と吹き飛ぶ自身の体をみて私は不敵に笑ってみせた。
















ミーシャのステータスが更新されました。


魔法剣術・・・魔法によって生み出された武具を使用した戦闘術。

不屈・・・あらゆる苦難に屈さない強き心の在り様、精神力補正(極大)、精神系状態異常無効化。

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