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中編 下

なんでだろう? 

予定よりも、長くなってしまうなんて・・・。

ということで、まだもう少し続きます。

 たどり着いた先は、外装がとてもおしゃれで首が痛くなる程に見上げても頂上がよく見えない、とてつもなく高い高層ビル。

 以前、テナントに入っていた小さなビルとは大違いすぎるこのビルの最上階に、彼の会社は入っていた。


 全面ガラス張りのエレベーターに乗りながら、あまりの高さと地面が見る見るうちに離れていく妙な浮遊感に、寒気を覚えながらも無事到着。

自動ドアの扉=会社の入口にあたるドアが開かれる。


「こんにちは」


 ドアが開くなり、深々と頭を下げながらも、元気よく挨拶をしてくる受付嬢の若い女性二人。

 最初はニコニコと、満面の笑顔でお迎えしてくれたはずなのに。


 頭を上げて私の顔を確認するなり、まるで幽霊でも見たかのように顔色を無くし、ピシリ! と笑顔を引きつらせたまま、その場で固まってしまっている。


 若さゆえに、化粧もキレイにのりまくり、男どもが鼻の下を伸ばしそうな顔立ちだというのに。

 そんなひきつった笑顔では、お客さんもドン引きよ?


「こんにちは。こちらの社長さんに会いに来たのだけれど、いらっしゃるのかしら?」


 私は彼女たちの前に立つと、ニッコリと余裕の笑顔を見せつけて、そう問いかける。

 すると彼女たちは困ったように、

 

「いえ、社長は・・・」


 と、言葉を濁らせ、お互いに困ったように顔をしかめながらも、目配せをし合っている。

 そんな彼女たちに対して、


「いるの? いないの? どっちなの?」


 彼女たちの態度にイラつきを感じたせいなのか、自然と声のトーンが下がり、まるで問い詰めるかのように強い口調になってしまっているところに、


「オイオイ! そういびってやんなよ? まるで若い子をいじめて楽しんでいる、お局様みたいだぞ?」


 さらに神経を逆なでするような、さも私をからかっていますと言わんばかりのトーンが、背後あたりから響いてきた。


「はあ? 失礼な男ね。私はタダ、社長さんの居場所を確認しているだけなんですけど? そんな風に言われるなんて、心外だわ!」


 その挑発的な言動に、いとも簡単に乗ってしまった私は、振り向きざまに声の主を睨みつける。

 すると、


「お~怖! 今にも人を射殺しそうな目つきだな?」


 そこには、ひとりの男性が立っていた。

 私の結婚相手だった九条刻也さんの、仕事上のパートナーで副社長をしている、夏野なつの 政宗まさむねその人である。

 

 刻也さんに以前聞いたところ、なんでも大学時代からの付き合いで、とても信頼できる大親友なんだとか。

 でも、私はこの人が苦手っだった。


 あの、常にヘラヘラと薄笑いを浮かべているくせに、その目はまるでなんでもお見通しと言わんばかりに鋭くて。


 そして刻也さんに対して、なんでも過保護すぎるくらいに面倒見がいいくせに、時折私を敵意丸出しの眼差しで見てくるから。

 だから私は、この男が苦手だった。


「最高に、いいやつなんだよ!」


 と、さも自慢げに言ってくる刻也さんには、正直申しわかないのだけれど・・・。


 短髪黒髪に長身で、少し浅黒い彼とは違った健康的な肌。

 がっしりとした広い肩幅で、皮肉めいた薄笑いを常に絶やさないくせに、精悍な面構え。


 だから結構、女性にモテるんでしょうけど・・・。

 現に彼の姿を見たとたん、受付の女性は二人ともに、頬を赤らめながらも恍惚とした顔で見つめている。

 

 彼は私と視線があったとたん、さも怖いと言わんばかりに、大げさな動きで肩をくすめてみせた。

 その態度に、さらに苛立ちを募らせていると、彼はスーッと私の横へ近づいてくる。

 そして、すれ違いざまに小さな声で、


「そんな怖い顔しなさんな? 付いてくれば説明するから・・・」


 耳元でボソリと囁かれ、さらに嫌悪感がますも、彼の後ろに付いていくしかなかった。

 

 たどり着いたのは、“社長室”というプレートのついた部屋。

 その言葉に思わず、“ドキン!”と胸が高鳴るも、部屋の中には誰もいなかった。


 そのことを確認したとたん、ホッと一息つきながらも安堵している自分がいる?

 なぜ?

 

 そんなことを考えていると、


「さて問題です! 刻也はどこに行ったのでしょうか?」


「はあ?」

 

 余りにもふざけすぎた質問に、思わずこめかみに青筋を立てながらも睨みつけた。

 すると、


「あんたさあ~。なんで刻也と結婚しようって思ったわけ? しかも出会って三ヶ月という短期間。おかしいとか思わなかった?」


 と、今まにもたこともないような、怖いくらいに真剣な眼差しを向け、私にそう聞いてくる。

 そんな彼の放つ威圧感に、多少ビビりながらも、


「だって! 彼は私の、運命の人だから!」


 などとつい、少女漫画にありきたりなセリフを吐いてしまう。

 でも、ビビっているなんてバレるのは悔しいから、視線は外さず睨みつけたままの状態だ。


 我ながら、なんでこうも負けず嫌いなんだろう・・・。

 と、内心自己嫌悪に陥っていると、


「ふ~ん? それって、刻也が今をときめく若手青年実業家で、億単位を稼ぐ社長だから? それともイケメンだから? もしかして、性格悪そうなお友達集団や職場のメス犬どもに、一泡吹かせようと思ったから?」


 目を細め、さも私を馬鹿にしたような態度で、ある意味的を得た質問をしてくる。

 確かに・・・。

 目の前の男の言うとおり、刻也さんはお金を稼ぐやり手起業家さんだし、かっこいいし優しい。


 そしてなによりも、こんな高物件の男性との結婚は、今まで私を馬鹿にしてきた奴らを見返すのには、絶好の機会でもある。

 でも・・・。


「確かに。あなたの言うことは一理あるわね」


 そう言うなり、彼は見たこともないくらいに冷たい表情を、私へと向けてきた。

 が・・・。


「でも私が彼を選んだ(・・・・・・・)のは、彼でいい(・・・・)と思ったのは、私をちゃんと受け止めてくれる男性だったからよ! 初めて出会った時からあの時までずっと、私という人間をきちんと見て評価してくれる人だったからなの!」


 そう言い放ったとたん・・・。


「プッ!」


 と吹き出したかと思うと、


「ハ! ハハハ!!!」


 今度は天井に向かって大きく口を開け、バカ笑いを始めたのである。


「な、何がおかしいの!」


 人がせっかく、本当のことを言ったというのに。

 それに対しての評価が、このバカ笑い?

 ふざけすぎている!


 そう思ったとたん、恥ずかさと怒りが、グチャグチャに混ぜ合わさったような気持ちが、ふつふつと湧いてくる。

 それに伴い、腹を抱えて笑っている目の前の男に、殺意さえも湧いてきたので、つい、


「いい加減に・・・」


 気が付けば右手を振り上げ、彼の頬をおもいっきりひっぱたこうとしている自分がいた。

 ・・・のだが・・・。


「いや~! ゴメンゴメン! まさか君が、ちゃんとあいつを見れているなんて、思わなかったから・・・」


 私の手首を、その大きくてゴツゴツと骨ばった手で、がっしりと掴んだ彼の顔は、さっきと同じで、とても真剣そのものだった。

 その力強い眼差しで、私を真っ直ぐに捉えると、


「じゃあ、この場所に今からすぐ行って、聞いてきな?」


 そう言って掴んだ私の手のひらに、小さな紙をポン! と手渡す。


「何?」


 そう言うなり、掴んでいた彼の手を払いのけるように、力強く手を振り回す。

 すると、


「お~怖!」


 彼はパッと手を離し、胸のあたりで両手を広げて手のひらをこちらに向けると、わざとらしくも、


「降参です!」


 と言ってのけた。

 そんな彼を無視しつつも私は、その紙切れを落とさないように、慌てて掴み取る。

 中を見れば、そこにはここから少し遠い場所にあると思われる住所と建物の名称らしきものが、乱暴な筆跡で書き記されていた。


「ペンション?」


「そう。かなり山奥の自然豊かで静かな場所にある、あいつが小さな頃からよく行っていたらしい、思い出の場所らしいよ?」


 そう言うと彼は、まっすぐに部屋のドアまで歩み寄ると、


「で? どうすんの?」


 ドアを開けるなり、私にそう聞いてきたのである。

 なので、


「もちろん! 今すぐに行くわ!」


 とだけ言うと、


「ふ~ん。ま、頑張れよ?」


 そう言うと、今度はニッコリと微笑んで見せたのである。


「もちろんよ!」


 そう言いながらも、急に態度を変えた彼が信じられなくて、様子を見つつ警戒しながら開け放たれたドアへと向かっていった。


 そして部屋を出る、まさにその時であった。

 彼が急に近づいてきたかと思うと、


「刻也をよろしく!」


「え?」


 突然のことに驚き、振り返ると、部屋のドアが“バタン!”と閉められた。


「どういうこと?」


 彼の言わんとすることが理解できず、振り返ったまま、しばらくドアの前で固まってしまう。

 考えても、さっきの一連の行動は、まったくもって理解し難い。


 しばらくその場に立ち黙ったまま、すれ違う人たちの好奇の視線も気にすることなく、、私は考え込んでしまっていた。

 のだが・・・。


「あんな奴のことなんて、わかるわけないじゃん!」


 そう結論づけると気持ちを切り替え、私は真っ直ぐに駅へと向かったのである。

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