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④まだまだ飲んでる

 「お待たせしましたー、こちら若鶏の唐揚げ、お刺身三点盛りになりますー」


 「た()かによ、」


 届いたばかりの、揚げたての唐揚げを頬張りながら俺は言う。


 「規制法案成立から業界全体の風当たりは厳しくなる一方だ」


 そう言って手元のカシスオレンジで唐揚げを流し込む。片桐を弱いと言ったが俺もかなり弱い方だ、すでに身体が火照り始めているのが分かる。


 「でも、理不尽ッスヨ。それに卑怯ッスよアイツら!綺麗ごとばかり並べても人はそれだけじゃ生きちゃいけないッスよ……!俺達の業界なんて陽の下に出されたら煙たがれるなんて分かりきってる事じゃないスか、人間が『したい』けど『出来ない』でも『したい』事を引き受けてるんスから……」


 「それこそ人間の業だなぁ」


 「ククク、なぁ斉藤、俺の顔をどう思う?」


 不意に隣でぶっ潰れていた片桐がむくりと再起動する。


 「あ、起きたんスか」


 「おはよう!」


 元気いいなおい。


 「そんなん片桐さんは超イケメンじゃないスか」


 「加えて超良い女でも、ある」


 座敷に膝立てに座っているので分かりにくいが、やや猫背気味に丸めた片桐の背が縮んでいた。それだけではない、体型が全体的に丸みを帯び、メロンでも入れてるみたいに胸が膨らんで今にも前ボタンがぶっ飛びそうだ。顔つきも元より女みたいな顔だったが輪郭、こと顎のラインが柔らかくなり精悍さが愛嬌に変換されている。斉藤が「うお~~」とか感嘆の声を上げた。グラビアアイドルが貧相に見えるほどグラマラスなボディに、何処かあどけない悪戯っぽい笑みを讃える絶世の美女、なのだが残念ながら片桐なので俺がそういう気持ちになったことは一切ない。

 俺はこいつのこの姿を見る度《巻きグソに突き立った極上のエロ本》を連想する。


 「ね?」


 「なにが『ね?』だ、気色悪りぃ顔ちけぇんだよ」


 むしろ純粋にキモイと思うしこのノリに関してはついて行けんとも思ってる。別に嫌いだからとかそういうのではなく、俺が片桐のダチだからむしろそう思うのだ。キモイと。気色悪い死ねと。


 「んもぅ、ホントはそんな事思ってないク・セ・――」


 「フンッ!」


 「―――にぃっ!?痛い!」


 間髪入れずに手加減無しの手刀を片桐の眉間にぶち込む。奴はこれまたナヨナヨした動きで自分の頭を撫でながら、涙目になってみせる。う、うぜぇ……。


 「ひ、ひどいッスよ先輩!こんな美人さんにいきなり暴力なんて!」


 「地味に酔ってんのか、落ち着け斉藤。コレは片桐だ」


 「あ、そッスネそいうや」


 「スンッ、君が、そういうのが好きならアタシ、頑張って耐える、ううん、痛いのも好きになる!むしろもう好きになりかけてる!貴方好みの女になりますからぁ」


 ハァ…、とやたらエロイ桃色吐息を吐き出しながら片桐が呻く。


 「ごくり」


 斉藤が生唾を飲み込む。おいおい。


 「いやもう、そういうの良いから、で?」


 「つれないなぁフントにも~」


 ケラケラと笑いながら男の姿に戻る片桐。テーブルに転がした俺の煙草をひったくって火をつける。斉藤が「ああ…」と残念そうに声を洩らす。


 「――っふぅ。そう、俺はイケメンだよ。超ね。だから素直だし、別に七面倒臭い事をしなくても欲しいものは大体手に入れてきた」


 「まぁ、その分モノに対する思い入れもねぇがな、お前は」


 「そうかな?」


 「そうだろ」


 「ふふ、じゃあ、そうかも」


 俺の皮肉に片桐が楽しげに鼻を鳴らす。しかし何だ、美男子っつうのは煙草くわえて笑ってるだけでも絵になるもんだな。少し理不尽なものを感じる。爆ぜろ。


 「良くも悪くも人は苦労して手に入れたものは大事にするからね。あと斉藤、お前は不細工だ」


 「うっ!面と向かって言わないで下さいよ!それ同時にウチの母ちゃんもディスってますかんね?」


 あ、お母さん似なのね。


 「悪い悪い、でも別に貶してる訳じゃないよ。お前は自分の容姿を理解して、自分自身を活かそうとしてる。……ん~ふーふ!照れるな照れるな!斉藤は実際ここ最近の新人の中でもかなり見所があるね!」


 「いやぁ~そんなマイッタナ~」


 「けどまぁ、世の中の大半の奴はそうじゃないのさ」


 「そうだな」


 「奴らは自分自身の姿を曲解させる、自身の矮小で卑屈な自己主張に『子供』や『社会』と銘うって押し通そうとする。あいつらに話しは通じない、どころか自分自身の本当の姿を見せようとしてくる輩を親の仇のように憎む。上の口では偉そうに道徳とやらをのたまうが、その実下の口では物欲しげに臭い涎を垂れ流す卑しい豚共さ」


 「何かお前が言うと妙にリアルだな」


 「異性の俺を前にして平然としてられる奴なんてお前くらいだよ実際。それに『遠ざけよう』とするモノほど強く意識するのが人間だよ。本当に距離を置きたいものは人間手じゃなくて足を使う。ああいう連中ほど執着心と独占欲にねっとりと塗れてる、人妻にハマッてた頃はそれが良かったんだけどね~」


 「そういやお前、六本木の高級マンション全制覇とか前言ってたな」


 「俺も若かった」


 「マジ片桐さん一生ついて行くッス」


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