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②新宿にて

 夕暮れの新宿三丁目、金曜という事もあってただでさえ人の多いこの界隈は文字通り人で溢れかえっている。

 その人で賑わう新宿の何の変哲ない雑居ビル三階の大手居酒屋チェーンの座敷席に三人の男がいた。音頭をとったのはシルバーフレームの眼鏡の青年だ。レンズの奥で優しげに細められる切れ長の瞳、柔らかな笑みを讃える口元は血の気が薄く、それでいて何処か蟲惑的にしっとりと濡れている。スッと通った鼻筋に吸い込まれるような白くきめ細かな肌。思わず息を止めてしまうような、 いささか居酒屋には不似合いな凄まじく美しい顔立ちをした青年だ。青年は容姿に違わぬ、耳が溶けるような甘い美声を響かせて黄金に満たされた中ジョッキを掲げた。


 「淫獄の聖騎士エルザ。校了お疲れ様でーす」


 「お疲れ~」


 「お疲れ様ッス!」


 ガチン!とキンキンに冷えた3つのジョッキをぶつけあって、返す手で三人は最初の一杯をグビグビと飲み干していく。真っ先にジョッキを空けたのは眼鏡の青年だ。余談だが彼は淫魔である。


 「くぅ~きっくぅ!」


 次に豚のような顔をした身長2m弱の巨漢が口元の泡を手の甲で拭う。蛇足だが彼はオークである。


 「たまんねぇッス!」


 ――コトン。


 「む~~~不味い。苦い、やっぱ美味しくねぇわビール」


 最後に口元の吐き気を押さえながらお冷を流し込む彼だけは、ビールが口に合わないらしい。まぁどうでもいい事なのだが、彼は触手である。


 「ははは!無理せんでもいいのに」


 「大丈夫ッスか先輩?」


 親しげに笑みを交わす淫魔、オーク、触手の三人。だが今は種族などどうでもいい事だ。


 「ああ。大丈夫、大丈夫だ。いや、何かこういうのってやっぱ最初の一杯は付き合うもんだろ?気持ち的によ」


 なにせここは飲み屋。呑みに来ているのだから。


 「ああ~確かにそッスね、分かるッス」


 「だろ?斉藤これあげる」


 「うっす!」


 「オレ、お前のそゆとこ好きだぜ」


 「やめろ気色悪りぃ」


 「ん~ふっふっふ」


 にやにやとした笑みを称えながら何やら妙に艶っぽい仕草で詰め寄っていく美青年。若干頬が上気している。


 「寄るなっての」


 げしっ!


 「やん!いけずぅ」


 「何がいけずだ、お前酔うの早ぇんだよ」


 「えっ!これもう片桐さん出来上がってんスか!?うおおっ寝てる?」


 「すぴー」


 「ああ、こいつ酒めちゃ弱ぇんだよ。お、きたきた」


 「お待たせしました~」


 「はいはいどうも、斉藤これそっちな」


 「ウッス」


 既に座敷ですやすやと横になってしまった眼鏡の美青年こと片桐をよそに、テーブルの上は惣菜で埋まっていく。


 「以上でご注文の品は御揃いでしょうか!」


 「あ、はい。あと追加でカルアミルクと」


 「カルーアッスか」


 「あ、なんか文句あんのか?」


 「いやいやないッスよ!美味しいッスよねカルーア!僕は生中ひとつ!」


 「かしこまりました!少々お待ちください」


 溌剌とした笑顔を振り撒きながらポニーテールの女性店員が踵を反していく。


 「なんか……居酒屋の店員の溌剌さと結い上げた髪の組み合わせって正解って感じだよな、すげぇイイ」


 「はぁ~先輩は凄いッスわ」


 「あ?何だ藪から棒に」


 彼は斉藤の言葉を釈然としない様子で受け取りながら、慣れた動作でポケットから煙草を取り出してそれに火をつけた。


 「いやエルザさんが言ってましたもん。先輩は女を褒めるのがメチャクチャ上手いって、何かこう、嫌味がないっていうか、こんな仕事してるのに凄く自然体で下心無しで褒めてくるから不思議とヤル気になっちゃうって」


 「ンだよそりゃ、よせよ こっ恥ずかしい」


 顔を背けるついでに紫煙を吐き出す。


 「確かに先輩って、人の長所を見るの上手いなぁって思いますもん。つーかさっきの店員さんへの一言で確信に変わったッス」


 「やめろっての、てかお前その話題はなっから用意してたろ」


 「うは、分かります?」


 「たりめぇだろアホ」


 「ところで片桐さんはこのままッスか?」


 本日二つ目の空けたジョッキを置いて斉藤が尋ねる。


 「いや、こいつは三十分したら勝手に起きるんだよ」


 「ははぁ、なるほど」


 「お待たせしました~」


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