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ツイッターお題シリーズです!
お題「喋る」
突然言葉を違えたら人間、どうなってしまうだろうか。
日本語から英語に、なんて規模じゃない。地球語から火星語に、レベルの話だ。
その時人間は解読に気を集中させるだろうか?それとも解読を放棄し言葉以外の方法で意思疎通を図るだろうか?または実験対象にするだろうか?
いや、違うだろ。
答えは、気持ち悪がりながら逃げる、だ。
それはあまりにも突発的で、俺らの脳を激しく揺さぶるようだった。
「!!!!!!!」
俺の地元のショッピングモール。買い物を終えて袋を両手に持った俺の真隣で事は発生した。
まるで鼓膜を舐めるような感覚。ぬるりとした物体が少しでも脳に近づこうとする感覚。むず痒い?嘘言え。これは正真正銘、『気持ちが悪い』って言うんだよ。
「!!、!!!」
刹那瞬間で空気が一変したからか俺の真隣では再び声が発せられる。
やめろ、俺の脳に触れるな。拒否、拒絶、謝絶。
ありとあらゆるデッドシグナルが挙がる中、俺は袋を落としてうずくまる。
両手で耳を塞ぐ。反射的に目も瞼で塞ぐ。視界が暗黒になる直前、目の前の数人も今の俺のような状態になっているのが見えた。地獄絵図のようだった。
肩に重み。手が掛けられた。目を開くと
「!!!!」
声が聞こえた。
「あぁ、あぁああああ!!!」
俺は逃げる。耳は完全に塞いでいるのに。目を見ただけで声を聞いた気がした。
うずくまったり転んだりしている人を尻目にまだその声が届いていない範囲まで逃げる。
向かった先には目、目、目。俺をまるでキチガイだというように見ている。
違う後ろ後ろ。お前らも早く逃げないと脳を舐められるぞ。そんな言葉を発することは出来なかった。買い物袋というウェイトが外れた俺はギリギリ安全区域をゆうに越え、完全に声が聞こえるはずがない場所まで来ていた。
なんだって、なんだって言うんだ。あの人間が喋っただけでこんなに気持ちが悪い。「喋る」、これだけの行為が周囲の人間の脳を貪る。
そして俺を怪訝そうに見ていた奴らも事実に気付く。声を聞いた。
あの人間は喋り続けている。今はどうにか聞こえていないが助けを求めているようだ。
「!!!」「!!!!!」「!!!!!!!、!」
まずい。聞こえた。
ぐらりゆらりと溶けた視界の縁をどうにか保ち、俺はやっとショッピングモールから抜け出した。
深呼吸の末、あの感覚を思い出しブルリと一回震える。どうしたものか脳裏に張り付いて離れない。舐めたと同時に唾液が接着剤となったようだ。
俺の頭の中には、あの人間が最後に発した「!」が回っていた。
気持ちが悪い・・・吐きそうだ・・・いや、落ち着いてきた・・・思い出した・・・吐きそうだ・・・涙が出そうだ・・・いや今度こそ・・・落ち着いた・・・
循環を繰り返した結果、違和感が消えた。
意識から外そうと何度も咀嚼してしまい、心の底から不本意だが身についてしまったようだ。
そしてこの感覚、俺は何故かすでに体感したことがあるように思えた。
生まれてから一度も聞いた事の無い言語を突然聞くなんて経験、生まれてから一度も無い。
あったら記憶から離れないはずだ。というか言葉を聞いて気持ち悪くなったことなんてない。
でも俺は気になってしまう。なんでこの感覚には妙な引っ掛かりがあるのだろうか・・・
生まれて初めて英語を聞いたとき?いや違う。こんな気持ち悪くなかった、と思う。
第一、喋るだけでこんな他人の気を害する言語があっていいものか。
そういう言語なんだ、きっと。聞くだけで人を行動不能にする言語。
この際どうして突然そんな言語が生まれたのかとかそういう原理的な話はどうでもいい。どうあろうと俺には関係ない。
だから今はこの手がかりの掴めない体験感の正体を探ろう。あ、買い物袋がそのままだ、まぁいいか。
「・・・!」
口に出してみる。言えた。
俺はしまった、と周囲を見渡すが誰も居ない。一安心。
いやちょっと待てなんで俺があの言語を話せるようになっているんだ?脳内でくちゃくちゃ繰り返したからか?それだとしたら俺の人生でダントツの失態じゃないか。
・・・学習したのか?
俺に閃きが落ちてくる。これはまさか、あの言語を学習してしまったのではないかという疑念。
意味まではわからない。例えば英語でEverと言われて「エヴァー」と繰り返すも、意味はわからない、といった感じだ。
そしてこの感じも、俺は体験したことがあるのだと知る。
何故だ・・・?
俺はもしかして自我が生まれるもっと前にこの経験をしているのか?
聞いたときに気持ち悪すぎて今回みたいに咀嚼せず吐いて泣き喚いて忘れたって言うのか?
・・・泣き喚いて?
謎が、雲散霧消する景色を見た。いつの間にか視界に粘りついていたあの人間の声がつるりと剥げるその様子を、見た。
あるじゃないか。これ以前にこの体験をして気持ち悪さを覚える場面が。
生まれた瞬間だ。
俺はたった今母胎から出てきたような錯覚を覚える。それほどに鮮明に謎が解けた。
生まれるまで俺ら人間は日本語どころか言葉すら喋らない。
「言葉」という土俵に立っていない。
その土俵を生まれた瞬間、人間の「喋る」という行為から発せられる言葉で滅茶苦茶に荒らされるんだ。それが気持ち悪くて生まれたとき、俺らは泣き喚く。
おぎゃあ、おぎゃあ。それは生まれた喜びなんかじゃない。むしろ生まれた瞬間に襲い来る違和感、気持ち悪さへの拒絶だ。拒否反応だ。
じゃあ今は?一つしかないだろう。
生まれてから着々と整った「言葉」という土俵を、「理解不能な言語」がはちゃめちゃに踏み散らして行ったんだ。
喋ることによって成り立っていた常識を、喋ることで覆された。だからあんなに気持ち悪くなった。吐きそうだった。
むしろわかりにくくなるほどストレートに言うなら、あの声を聞いた俺らはあの場で再び母胎から出されたんだ。
「!」・・・「!」・・・「!」・・・
俺は少しずつ出口から逃走する人が増えてきているのを尻目に咀嚼したあの声を反芻した。
徐々に、その言葉の意味を理解できる気がしてきた。
そして今なら、あの人間の声に気持ち悪さを抱かなくなるだろうと思った。
俺は赤ん坊の頃より、順応力があるんだから。
如何でしたか?
最近ハッピーエンドを書けなくなってきている気がします・・・どうにか復帰しなければ!
是非是非他の作品もお読みになってください!