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クエスト:遺跡のモンスター退治4

「リュウ! アタシに強化魔法掛けておくれ!」


 ロレッタ姉さんがスライムに突進した勢いで大剣を振りかぶって言った。

 姉さんの一閃。

 スライムって切るとああやって汁が飛ぶんだな。

 って感心してる場合じゃなかった。

 俺は慌てて強化魔法をロレッタ姉さんに掛けた。


「ええいっ!」


 魔法を掛けたのと、姉さんが吠えながら大剣を振り回す。

 怖いけどカッコいい。

 でもスライムが大きいせいでなかなかダメージを与えられないみたいだ。

 見てるだけってのは辛いな。

 何かこのスライムに弱点とかないのか?

 そう思った俺はスマホに何か情報がないのかとスマホを見たわけだ。

 さっきまで魔法を撃つのに夢中だったから気が付かなかったけど、戦闘中の画面がRPGの戦闘画面みたいだぞ。

 斜め上から状況を見下ろしたみたいに、俺たちとモンスターの位置がわかりやすく表示されている。

 試しに敵モンスターをタップすると吹き出しに情報が表示された。

 本当にこれ、何のゲームだよ! いや、現実なのはわかってるんだけど!

 あのジジイ、こんなアプリを祝福代わりに与えて何になると思ってるんだ。

 でも、文句はそんなに言えないよなぁ。

 このアプリが俺にとって操作がわかりやすいんだから。

 っと、そんな場合じゃなかった。

 このスライムは……。


【スライム亜種。魔法耐性あり。叩きダメージに強く、切り・突きダメージに強い。通常のスライムと違い、亜種の体液は肉ではなく布を溶かす】


 うん、完全に魔法耐性ありって書いてある。

 俺の出番は本当になさそうだ。

 ん? このスライムの体液って布を溶かす……?


「ロレッタ姉さん!」


 俺は姉さんに注意を促そうとしたんだが、何もかもが遅かった。

 ロレッタ姉さんは切ったスライムの体液に塗れてどろどろだ。

 既に溶けかかってるんじゃ……。


「ふん、スライムの体液が何だい! アタシには着替えがあるんだからね!」


 ああ、うん。ロレッタ姉さん、着替えをミケ猫に持たせてたのはそういうわけだったのか。

 っていうか既にこっちから背中が丸見えなんだけど。

 見てるこっちが恥ずかしいじゃないか。


「服が溶けてしまうなら、逆に好都合だね!」


 ロレッタ姉さんが大きく一閃。スライムを弾き飛ばした。

 そして姉さんは両手を広げて高らかに叫ぶ。


「狼よ! 応えよ!」


 真正面の壁に彫られた狼のレリーフに。

 壁に動物のレリーフがあることに俺は今初めて気づいたぞ。

 神殿だからそういうこともあるんだろう。


「我に力を!」


 ロレッタ姉さんが吠えるのと同時に姿が変わっていく。

 むき出しの腕が、足が、背中が毛に包まれていった。

 まるで姉さんが狼に変わっていくみたいに。

 嘘だろ。これじゃあ狼男だ。

 あ、違う。狼女かな?

 獣人が皆こんな風に変身するならミケ猫もこんな風になるのか?

 ミケ猫は猫の獣人みたいだけどさ。

 俺がロレッタ姉さんの変化に驚いていると、姉さんは大きく吠えた。

 犬の遠吠えにも似た響き。

 そして大剣を振りかぶって叩きつけるように下ろす。

 何ともいえない音が響いて俺は顔をしかめた。


「なあ、ミケ……お前もあんな風に変身するのか?」


 ロレッタ姉さんがスライムを叩き切る嫌な音を聞きながら、俺はミケ猫に聞いてみた。


「私はやんないよ!」


「そうなのか?」


「私はあいつと違って前衛じゃないし、変身しても強くならないし……意味ないよ」


「ふぅん」


「ああやって変身すると後ですごくお腹空くんだよ」


 なるほど、変身すると腹減るんだ。

 ロレッタ姉さんの荷物って着替えの他に食料も入ってるんだろうか。

 でないと町まで空腹のまま歩かないといけないことになるぞ。


「あ、スライムのボスっぽい奴倒せたみたい」


「え?」


 俺が慌ててロレッタ姉さんを見ると、スライムは原型がわからないぐらい周りに破片が飛び散っていた。

 それもだんだん消えていくみたいだ。


「あれがマナの塊なのかな? 大きいね」


 ミケ猫が指差す先には、何かの結晶が何個もくっついて大きくなったような物が転がっていた。


「ふぅ……やれやれだねぇ」


 ロレッタ姉さんが振り返る。

 あれ? 何かやたら肌色が多くないか?

 俺がロレッタ姉さんの姿を認識する前に――。


「ああああああ! 駄目だよリュウ!!」


 ミケ猫に目を塞がれてしまった。

 まさかロレッタ姉さん裸だったの!?

 惜しいことした!

 俺は悔やむと同時に顔が妙に熱くなるのを感じた。

 あれ? でも姉さんどうやってあの姿から戻ったんだ?

 毛が抜けたにしては早すぎるような。


「アタシは見られても構わないんだよ。別に減るモノじゃないしねぇ」


「減る減る! リュウの何かが減るんだもん!」


 ミケ猫、姉さんと言い合うのはいいんだけど、耳元で叫ぶのだけはやめてくれ。

 すごく、耳が痛いです。


「ほら、これあんたの荷物でしょ。早く服着なさいよ」


 ミケ猫はロレッタ姉さんの荷物を放り出して俺に目隠しをしたみたい。


「アンタは物の扱いが下手なのかい? こういう時は丁寧にアタシに差し出すもんだろ?」


「私が手離したら、リュウにいかがわしい事するかもしれないじゃないの!」


 ミケ猫、お前はロレッタ姉さんを一体なんだと思ってるんだ。

 いくらなんでもそれは失礼だぞ。

 まあ、そんな押し問答をロレッタ姉さんとミケ猫がやりあった後ロレッタ姉さんが着替えたわけだ。

 多分『着ただけ』だと思うんだけど。

 次に俺がロレッタ姉さんを見た時にはもう着替え終わって刺激的な格好ではなくなっていた。

 ちょっと残念。

 とりあえずスライム亜種を倒して、マナの塊も手に入れたわけだし、クエストとしてはこれで終わりかな?



「あー……お腹空いたねぇ」


「姉さん、食料は持ってないの?」


「持ってるけど今の空腹具合からすると、絶対足りないよ」


「じゃあ、早く帰ろうよ!」


 早く帰る事を主張するミケ猫を、ロレッタ姉さんが軽く叩いた。


「勝手に仕切ってるんじゃないの。子猫ちゃん、遺跡から出るときはしっかり鍵を掛けるんだよ」


 こうして俺は初めてのクエストを無事に終わらせ町に帰ったわけだ。

 でも魔法が役に立たないと、俺何もやることないな。

 ちなみに初クエストの報酬は、ロレッタ姉さんの食費に全部消えた。

 冒険者ギルドに報告したその足で、食堂に向かってロレッタ姉さんは食べまくった。

 豪快って言うのはああいうのかな?


「いやあ、リュウのおかげだよ!」


「いや、俺は最後役に立てなかったし」


 俺も何か近接系の技能手に入れた方がいいのか?

 そうすると夏休み終わっちゃうよな。


「何言ってるんだい! アンタがいたから他のスライムは一掃できて、早く終わったんじゃないか!」


 ロレッタ姉さんは豪快に笑って俺の背中を叩く。

 そうやって褒められると俺は何だか恥ずかしいぞ。

 これからロレッタ姉さんはずっと俺たちと組むつもりでいるらしい。

 次のクエストでは魔法が効かないモンスターとかいなければいいなと、俺は思ってる。

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