クエスト:遺跡のモンスター退治3
ミケ猫が最初のドアの鍵を掛けてからは順調に進んだ。
ドアを開けた後、ミケ猫が支えてロレッタ姉さんが壁、俺が範囲魔法を部屋の中にぶち込む。
モンスターが消えれば、ミケ猫が鍵を掛けて他の部屋からモンスターが移動できないようにしていった。
そうしていくつか部屋を回った後で盛大に腹が鳴った。
まあ、ずっと動いてたしこうなるよな。
俺はロレッタ姉さんの様子を窺う。
なんてったって俺たちのリーダーは姉さんなんだから。
姉さんは俺の方をちらっと見てため息をついた。
「仕方ないねぇ。昼にしようか」
と、いうわけで昼飯だ。
昼飯と言っても、出発する前に買ったパンと干し肉と水というメニューだ。
向こうでインスタントラーメンばっかり食べてた俺が言うのも何だが、味気ない飯だ。
仕方ないか。
モンスターを退治してる途中で摂る食事なんてそんなもんだろ。
料理要素のあるネトゲだとたまに変な料理あったりするけど、さすがに俺としては遠慮したい。
「この調子なら夜までには帰れるんじゃないかい?」
気がつけばだいぶ奥まで来たみたいだ。
脇道があるんじゃないかって思ってたけど、小部屋がいくつかあるだけで、結構まっすぐな通路だね。
入口から延びる廊下の奥には扉があった。
これ、絶対この奥にボスみたいなモンスターがいるよな?
スライムみたいな奴だといいんだけどさ。
「順調よねー」
「アタシが思うに、アンタが鍵を掛けるのに手間取らなかったらもっと早く行けたんじゃないの?」
「なによー!」
「まあまあ、二人とも。いがみ合ってたらこの先、失敗するかもしれないぞ」
何で俺がフォロー役に回ってるんだろうな。
俺が割って入るとすぐに言い争いはやめるんだけど何でだ?
「それにしても、まだ群れのボスらしき奴が見当たらないのが気になるね」
あ、やっぱりロレッタ姉さんもそっちが気になる?
「リュウの魔法で消えたんじゃない?」
それはないぞ。
だってまだ依頼完了条件の――。
「それならマナの塊が落ちてるはず。アタシはまだそれを見てないんだ。だからきっとまだいるんだよ。この中のどこかに」
俺が言いたいことをロレッタ姉さんが言ってくれた。
なら俺はボスっぽい奴がいそうなとこを言うしかないか。
「一番奥の部屋じゃないか? 仲間に守られる一番奥とか」
「奥かい。この遺跡が神殿でよかったね。残る部屋を掃除しながら行ってもすぐだよ」
神殿?
この遺跡は神殿だったのか。
言われてみれば壁の彫刻とか何となく神殿っぽいな。
「ここは神殿だったのか」
「昔、アタシたち獣人の先祖がそれぞれ祖である神を祀っていた神殿さ」
動物を神として、ミケ猫たちはその子孫ってか?
ロレッタ姉さんの狼は神って言ってもなるほどって思うけど、ミケ猫の方は猫なのか。
想像もつかないな。
「へぇ……神殿か」
「ま、今はこうして遺跡として埋まってるけどね」
神殿が遺跡になった理由はちょっと気になるなぁ。
本とかで調べれるのか?
って言ってもカメラ通さないと読めないから駄目だな。
「さて、休憩はここまで。さっさとモンスターを蹴散らして帰るよ」
話題が途切れたのをきっかけに、ロレッタ姉さんは伸びをしながら立ち上がった。
もっと神殿とかの話を聞きたかったんだけど残念。
街に帰ってからミケ猫にでも聞くか。
俺が知らない事が、冒険者を目指す人間が知ってることなのかわからないもんな。
「俺はいつでも行ける。ミケは?」
「私も平気。行くなら行きましょ」
魔法があれば楽に終われそうだな。
実際に歩いたりはしてるけど、魔法がスマホ操作なせいで作業ゲームみたいになっていた。
でも、きっとこれで調子に乗ると駄目なんだろうなぁ。
魔法の効かないモンスターとかいそうだし。
「おや、リュウ。考え事かい」
「ああ、うん。ロレッタ姉さん、魔法の効かないモンスターが出てきた場合はどうしたらいい?」
一応、ロレッタ姉さんに聞いてみる。
多分俺が結界魔法に集中して、ロレッタ姉さんが片付けるって形になると思うんだけど。
「それなら、一体だけの場合アタシが相手するよ。それが複数だった場合とっとと逃げるに限る。街でまたファイターでも探して挑むのよ。一人あたりの報酬は減るけど命には代えられないものねぇ」
「なるほど」
「逃げるときは扉を閉めて鍵を掛けることが出来ればベストなんだけど」
ロレッタ姉さんと俺の視線が揃ってミケ猫を見たわけだ。
俺たちがピンチに陥った時はミケ猫に全てが掛かってるんだな。
「へっ? 私?」
「もし、俺たちで歯が立たない相手が出てきたらな」
「まあ、そのまんま逃げてもいいんだし気にしなくてもいいんだよ」
そんな会話を挟みつつ、小部屋は全部回りきった。
やっぱり群れのボスは小部屋にいなかったようだな。
俺たちは一番奥の大きな扉の前で立ち止まった。
「さて、後はここだけだね。子猫ちゃん、ゆっくり開けてね」
「誰が子猫ちゃんよ!」
緊張感ないなぁ。
ここまで俺の魔法でモンスター倒してるかもしれないけど。
ミケ猫は扉を開ける係に不満みたいだ。
でも俺は魔法撃つ準備をするし、ロレッタ姉さんは扉の開いたところを塞ぐように立つから仕方ないよな。
渋々みたいにミケ猫が扉を開けると、やっぱりそこはスライムがうじゃうじゃいた。
で、俺は一発範囲魔法を部屋の中心に撃ちこんだわけだ。
これでマナの塊とやらが落ちていれば、俺たちの依頼は完了。
の、はずだったんだが。
「げっ……何か一匹残ってる」
「他のスライムとは色がちょっと違うんじゃないかい。アタシでも初めて見たねぇ」
部屋の中、一匹だけ大きなスライムが残っていた。
ほんの少し赤みがかったぶよぶよのスライムだ。
「魔法が効かない奴か?」
「リュウ、もう一発。今度は別の呪文を試してくれないかい?」
「やってみる」
今までサンダーストームばっかり使っていたからなぁ。
次は範囲魔法ではなく、単体魔法を使ってみよう。
俺は魔法をモンスター一覧へとドロップした。
【アイシングアロー】
魔法陣が宙に浮かんで、氷の矢が無数にモンスターへと降り注ぐ。
でもダメージ行った気がしない。
一本も刺さっていなかったから。
「リュウ、下がりな。魔法が効かないからアタシの出番さ」
ロレッタ姉さんは大剣を横に構えて走り出した。
そういえばロレッタ姉さんが実際に戦うところって初めて見るんだよな。
俺がこれ以上できる事ってあるんだろうか。