クエスト:遺跡のモンスター退治1
ロレッタ姉さんとパーティを組んですぐにやったことは、クエストを受ける事だった。
モンスター退治。
その手のゲームではおなじみのクエストだ。
俺たちが受けたクエストでは、調査中の遺跡にモンスターが住み着いたので退治してほしいというものだった。
「調査中で、いったん調査隊が引き揚げた遺跡にモンスターが住み着くのは結構あるみたいなんだよ。最近そういった依頼が増えてきてねぇ」
ロレッタ姉さんが遺跡への道中、最近のクエスト事情について教えてくれた。
しかし姉さん、大剣背負うがすごく絵になるんだが、手にぶら下げた荷物はなんだろう?
食料や野宿のセットにしてはずいぶん大きい荷物だ。
ちなみに、目的地の遺跡はわりと町に近い所にあって、クエストは住民からの要望というのもあるそうだ。
クエスト成功報酬もその分高い。
「でもさあ、こういうモンスター退治ってどうやったら成功って報告できるんだ? 確かめようがないんじゃないのか?」
俺の当然の疑問に、ロレッタ姉さんは慣れたように答えてくれる。
「ああ。遺跡に住み着くのはモンスターの群れだからね。群れのボスを狩ってボスのマナの塊を持って帰ればいいのさ」
ロレッタ姉さんが言うにはモンスターはマナが大半で殺した時点でマナが拡散して消えてしまうのだそうだ。
だけど、ボスになると体内にマナの結晶か何かがあってそれが残るんだそうだ。
それにしてもマナか。何か聞き覚えのあるような単語だな。
魔力の源とかそんなんだったっけ?
ゲームで聞いたんだっけ、どうだっけ。
そんなことを俺が考えていられたのも、ちょっとだけだ。
続いてロレッタ姉さんは戦闘の基本を俺たちに説明してくれた。
「で、だ。モンスターはアタシが引き受けるから、リュウは魔法で攻撃しておくれ。ああ、子猫ちゃんは何もしなくていいからね」
どうもロレッタ姉さんとミケ猫の相性は本当によくないみたいだ。
ロレッタ姉さんと比べると色んなところが小さいミケ猫が子ども扱いされてる。
「ふん、私がいなくて困っても知らないかね。狼おばさん」
お互いに見つめあう二人の間に火花が見えるような気がする。
対立の理由は一体何だ?
聞こうにもこのバチバチと飛び散る火花の間に割って入る勇気なんてもの、俺にはない。
「好きに言うのは勝手だけど、このパーティのリーダーは経験豊富なアタシがやるんだから、指示には従うんだよ」
はいはい、俺は異存ありません。
お姉さんに全部従います。
なんて事は直接は言わなかったけれど、これが俺のロレッタ姉さんのモンスター退治解説に対する感想だった。
俺とミケ猫は新米冒険者状態だっていうのに、ロレッタ姉さんがいるおかげで頼もしすぎる。
「リュウはアタシの説明でわからなかったことはないかい?」
ロレッタ姉さんは優しいなぁ。
俺が完全に初心者だって思ってるから、ここまで聞いてくれるんだ。
「いや、大丈夫。ロレッタ姉さんがモンスターを食い止めてる間に攻撃しろってことだろ?」
「正解。いやあ、バッチリだねえ。難しい所は全部アタシに任せて、リュウは経験を積みなって」
昨今ネトゲでもこんなにパーティプレイで先輩に親切にされることないぞ。
でもゲームと違って経験値を貯めてレベルアップ、なんてことはできないわけだし、戦って技術を身に着けるしかないんだよな。
遺跡探索、とはいえモンスターが入り込んでるとこだからシーフの鍵開けなんて必要はないわけで。
これはミケ猫だけ何も経験積めないってか? ちょっとそれは困るなぁ。
ミケ猫がこのパーティ追い出されたら、俺どうしたらいいんだよ。
色々ロレッタ姉さんに指導を受けながら一時間歩いた後、問題の遺跡についたわけだ。
石でできた柱のようなものがたくさん立っている奥に大きな扉があるみたい。
その扉の周りに散らばってるのは調査隊とやらの荷物かな?
「ここがクエスト現場でいいんだよね?」
おい、ミケ猫。声が震えてるぞ。
俺も初めてのクエストで何だか緊張してきたんけど。
「子猫ちゃん、帰るなら今だよ。リュウがどうしてもって言うからアンタも特別に連れてきてやったこと、忘れるんじゃないよ?」
「だ、誰が帰るもんですか!」
「それだけ吠えれるなら上等ってもんさ」
ロレッタ姉さんはそんなことを言って、ミケ猫に手に持っていた荷物をミケ猫に放り投げた。
ミケ猫は両腕で抱えるようにその荷物を受け止める。
「む。何よこれ」
「着替えだよ、着替え。備えはいくつあっても足りないからね」
着替え、だと?
ロレッタ姉さん、着替えが一体何着あればそんなに荷物が膨らむんですか。
肩も太ももも丸出しなんだからそもそもそんなにかさばると思えないんですけど。
「まあ、中では荷物持ちを頼むよ。それと、ここの扉の開錠もね。モンスターをここに閉じ込めるためにわざわざ鍵を掛けたようだ」
三人で遺跡の扉の前に進んだ時、ロレッタ姉さんがミケ猫に言った。
「アンタも経験が必要だろ? ここなら何回失敗しても構わないから鍵を開けてごらん」
姉さん、太っ腹だなぁ。
ミケ猫に経験を積ませてあげるなんて。
ぶすっとしていたミケ猫は荷物を乱暴に放り出すと、閉じた扉の前に立った。
ごそごそと何か道具を取り出して、鍵穴っぽい所に顔をよせて、手を動かし始める。
「さて、子猫ちゃんが鍵開けてる間に、アタシとあっちでイイことしない?」
ロレッタ姉さんが俺の腕を取って、耳に息を吹きかけながらそんなことを言う。
ちょっとやめてください。
いかん、背中がゾクゾクしてくる。
振り返るとロレッタ姉さんの顔が近い!
俺を見る目がマジなんだけど……。
「ちょっと! 抜け駆けは駄目なんだからね!」
「わかってるよ、冗談。でも緊張はほぐれたろ?」
確かに俺も初めてのモンスター退治っていう緊張はなくなったけど、別の意味で緊張しちゃったんだけど。
あの、ロレッタ姉さん。さっきのお誘いの全部が冗談なんですよね?
さっきのマジな目つきに心が動いた俺の気持ちは一体どこへ行ったらいいんだ。
まあ、よく考えたらこれからモンスター退治なのに、余計な運動するわけないよな。
ははは……期待して損した……。
でもロレッタ姉さんが俺の腕を取ったままだし、俺このまま動けないぞ。
「よし、できた! さあ、おばさん。私のリュウを離してもらいましょうか?」
「いつアンタのになったんだい?」
全くだ。
でも放してもらえると俺がうれしい。
こう、くっつかれるのがどうにも慣れないもんだ。
「じゃあ、行こうか。リュウは子猫ちゃんと自分に結界魔法でも掛けときな」
えーっと結界魔法だな。
俺はスマホのアプリを立ち上げ、呪文一覧を開いた。
目当ての呪文をタップすると、誰に掛けるのか仲間の一覧が出る。
これ、便利だなぁ。
俺とミケ猫とタップして魔法が掛かった。
その時に電池表示が減ってることに俺は気づいた。
あれ? これひょっとして残りの魔力なのか?
だとすると、0にならないように気をつけなきゃな。
「ロレッタ姉さんは?」
「結界魔法があると剣を振り回す時に邪魔だし、アタシはいいよ。さて、行こうかね」
ロレッタ姉さんが扉に手を掛け、ゆっくりと開く。
俺たちはロレッタ姉さんが足を踏み出した後をついてモンスターの巣窟へと入った。