パーティを組もう
次の日、ミケ猫に連れて行かれた冒険者ギルドであっさり冒険者になった俺は、いきなり上級マジシャンとして登録された。
魔法技能の登録の時に軽く魔法を撃ってくれ、と言われたからそうしただけなんだけど。
俺の、っていうかスマホのなんだけど、魔法は普通のとは違うようだ。
絶対至高神のジジイのせいだと思う。
めでたく冒険者となった俺はミケ猫とさっそくクエストを、と思ったんだがモンスター退治しかない。
「どうすんだよミケ! 俺たちができるクエスト全然ないぞ!」
「仕方ないでしょ! 私が短剣でぐっさりってわけにはいかないんだから!」
「せめて戦士系のクラスがいれば……!」
冒険者ギルドではクエストを進めるのに、メンバーが足りなければ募集の代行もやってくれるんだそうだが、何人募集しようとも払う金は一緒らしい。
それなら大規模パーティ組むときに使った方がいいじゃねぇか。
ということで俺の冒険者生活はいきなり行き詰ったわけだ。
「マジシャンだけなら需要あるみたいだよなぁ」
冒険者ギルド内の仲間募集の張り紙をスマホのカメラを通して読みながら俺はぼやいた。
ここでミケ猫とさよならして別のパーティに入れてもらうのも、俺がこの世界自体の初心者だからちょっと無理。
出来る事と言えば、暇そうな戦士系っぽい人に声をかけるぐらいだが、どいつもこいつも怖い顔の男ばっかりで声が掛けづらい。
「あはははー……。せめて戦士系のクラスの女の子がいればいいんだけど」
ギルドの建物の中をうろうろする冒険者たち。
いかつい顔の奴はどうもソロでクエストをやってる奴が多いみたいだ。
顔にも目立つところに傷があったり、目が怖かったりして声を掛けるどころか近寄りたくもねぇよ。
「ちょっと私は奥の部屋見てくるから、リュウは掲示板の前で待っててよ」
ミケ猫がソワソワしながら俺に言う。
まあ、ここで俺が離れたらこのまま離れ離れって可能性があるから、ミケ猫が離れるなら俺はここで待っていよう。
「おい邪魔だ!」
しばらくボーっと突っ立ってたら、いきなり野太い声とともに突き飛ばされた。
「うわっ!」
掲示板の前で立ってたらそりゃ邪魔だよな。
なんてことを考える余裕が俺にあるはずもなく、勢いよく俺は倒れかかった。
「おっと」
倒れる前に、誰かにぶつかってしまった。
もにゅっと何か柔らかい物に俺の頭がめり込む。
「大丈夫かい」
掠れる低い声に俺はハッとした。
視界は真っ暗で何かに顔を埋めてしまったことに気付いた俺は慌てて頭を起こした。
「あ、ああ。大丈……」
頭を起こした俺は今まで何に顔を埋めていたのか理解してフリーズした。
目の前に背のやたら高い犬のような耳を頭から生やしたお姉さんが立っていたんだ。
手入れしてるのかわからない黒髪で、黒い犬耳を生やしたお姉さんは背中に剣を背負っていた。
大剣使いだと思うんだけど、むき出しの太ももと二の腕はムチムチ。ついでに胸も大きい。
豊満な身体ってこういうのを言うんだなぁと俺は感心してしまった。
どうも俺はそのお姉さんの大きな胸に顔をめりこませていたようだ。
俺の感覚で行くとお姉さんに殴られそうなんだが、お姉さんは大して気にしてないようだ。
「気を付けるんだよ……って、もしかしてマジシャンだったりする?」
お姉さんは俺の服装を見て聞いてきた。
俺はミケ猫の勧めに従って、この世界の服を着ている。
布でできた、よくゲームとかで見かける魔法使いのような服だった。
「はあ、まあ。今日登録したばっかりだけど……」
「登録日なんて関係ないさ。アタシさあ、ちょっと困ってたんだよ。ソロプレイにも飽きてきちゃって。アンタさえよければアタシとパーティ組まない?」
初対面の人にいきなりパーティ組もうって持ちかけるなんて格好もそうだけど大胆なお姉さんだなぁ。
でも戦士系っぽいし、前衛が欲しい俺たちにはちょうどいいんじゃないのか?
問題はミケ猫も一緒でいいかどうかだな。
「俺、今シーフとパーティ組んでるんだ。そのシーフも一緒でいいならいいぜ。俺たちも前衛クラスを探していたところなんだ」
「アンタがパーティ組んでくれるって言うならアタシは大歓迎さ」
よし、これで前衛ゲット!
「アタシはロレッタ。大剣使いのファイタークラス。アンタは?」
ファイタークラス。俺たちの探してたまさに前衛じゃないか。
しかもムチムチなお姉さんだし、こいつは仲間にするしかない。
「俺はリュウ。今日なったばかりのマジシャンクラスだ。よろしく頼む」
と、まあロレッタって名乗ったこのお姉さんと俺は握手を交わそうとしたわけだ。
その時、ミケ猫がちょうど戻って来たらしく大声を上げた。
「あああああ! ちょっと待ってよリュウ! なんでこいつと和やかに握手なんて交わそうとしちゃってるの!」
何だ急に。
って思ったが犬耳娘と猫耳娘だし相性は悪そうだよな。
俺の勝手な感想だけど。
「何って、ファイタークラスに、お前込みでパーティ組んでいいって言われたから」
「駄目よ駄目駄目! 狼族なんて!」
あ、犬じゃなくて狼なのか。
言われてみれば俺の知っている犬より勇ましくて野性的かも。
髪もぼさぼさな感じするし。
「おやおや。シーフって猫族だったのかい。元気なのはいいけどアタシはパーティ組む相手を探していて、アンタたちは前衛を探してる。ちょうどいいじゃないか」
おお、ロレッタ姉さんはミケ猫の失礼な態度にも大人な対応だ。
「なあ、ミケ。この際贅沢言ってられないんじゃないか。お前の好き嫌いはともかくとして俺らとパーティ組んでくれる物好きなんてそうそういないと思うぞ」
「うう……だってぇ……」
だっても何もないだろうに。
俺はミケ猫が何に悩んで嫌がってるのかわからない。
「ふぅん。やっぱりアンタも冒険者やってるのはアタシと同じ理由ってわけかい」
ロレッタ姉さんが面白そうにミケ猫を見てる。
そういえば冒険者って獣人は少ないってミケ猫が言ってたな。
ミケ猫とロレッタ姉さんが同じ理由で冒険者にっていったいどんな理由なんだ?
「ってことはリュウは将来有望なわけだね。じゃあアタシが引き下がる理由がますますなくなるじゃないか」
「ううう……!」
唸るミケ猫を放って、ロレッタ姉さんが俺の方にさらにぐいっと近づいてくる。
ロレッタ姉さん、俺より背が高いから大きい胸がすぐ目に入ってどこを見ていたらいいのかわからなくて怖い。
いや、ムチムチなお姉さんって俺結構好きなんだけどこう、近いとな。
「ねえ、リュウ。猫族のシーフなんて放ってアタシと二人きりでパーティ組まないかい? アタシが優しくイロイロ教えてあげるからさぁ」
何で俺、ロレッタ姉さんに耳元で囁かれてるんだろうな。
すっごく魅力的なお誘いなんだけど、俺が冒険以外にも初心者なんで二人きりはちょっとな。
しかも馴れ馴れしく肩に手を回されたりして、これはもしかして口説かれてるって奴じゃないのか?
いやいやいや。
そんなことはないはずだ。
「待って! それは駄目なんだから!」
「俺もミケがいないとちょっと……」
駄々っ子のように足を踏み鳴らしてミケ猫が叫んだ。
何か修羅場みたいなんだけど。
俺が二股掛けてる男、みたいな。
ギルド内で争ってるから変に注目浴びてるし。
「じゃあさっさと決めたらどうなんだい。アタシをパーティに入れるのか入れないのか」
「はいはい、入れたらいいんでしょ、入れたら! 言っとくけどあんたにリュウは渡さないんだから!」
ヤケクソのようにミケが叫んで一件落着。
でも何かセリフがおかしくないか。
「それじゃあ自己紹介と行こうか。アタシはファイターのロレッタ」
「シーフのミケイラ」
ぶすっと拗ねたような顔でミケ猫は名前を言った。
ちょっと不機嫌になりすぎじゃないか?
感情がすぐ顔に出るタイプでわかりやすいな。
ロレッタ姉さんがミケ猫の顔見て今にも笑い出しそうだぞ。
「それで、アンタたちはどっちも冒険者としては新米ってことでいいのかい?」
ロレッタ姉さんに経験を聞かれて、俺たちは互いに顔を見合わせた。
ミケ猫はしばらく考えて仕方なさそうに頷く。
そして俺も頷いた。
「じゃあアタシがリーダーやってやるよ。いいね、アタシの指示にちゃんと従うんだよ」
「よろしく頼む」
唇を尖らせて黙ってしまったミケ猫を横目で見ながら俺が代わりに頷いた。
と、いうことで俺たちはパーティを組んでさっそくあるクエストに挑戦することになったわけだ。
そのクエストとは、遺跡に住みついたモンスターを退治するというものだった。