クエスト:リュウジンの伝説4
シメオンさんは名乗ってから軽くお辞儀をした。
ニーナさんのニーナさんのお兄さんだというのが信じられないぐらいに若い。
髪の色は茶で、ふわふわしてる。
小柄で顔は整ってるから、髪が長かったら女の子と間違えそうだ。
「で、君がリュウくん……だっけ?」
小首を傾げてシメオンさんが俺に聞いてくる。
「そうです」
「ああ、そんなに固く考えなくてもいいからね」
そしてシメオンさんは俺に楽にしててって言うけど無理に決まってる!
目の前にいるのは俺より年上だろうに見た目が年下ってのはどうも落ち着かないんだ。
「さて、リュウくん。君が至高神さまにご加護を頂いていることはニーナから聞いているよ」
そりゃ聞いてるだろうな。
「そして君のイメージを僕は神託で受け取っている」
「はい?」
何だそれ。
俺のイメージ?
神託を受ける神官だって聞いてたけど、俺のイメージまで受け取ったの?
至高神のジジイの仕業かな?
「君は間違いなく至高神さまの選んだリュウジンだろう」
言い切られちゃった!?
勇者だってジジイには言われてたけど。
俺、種族の行く末決めるみたいな危機来るわけ?
それで、俺が解決しないと帰れないとか、勘弁してよ。
「確か、なんですか?」
「間違いない。具体的に何が起きるかはわからないが、君がいるのならば神託で詳しい内容を授けていただけるかもしれない」
っていうわけで、俺とシメオンさんが神殿の最奥の儀式の間と言われるところまで行くことになった。
タイルが敷かれた床の上に、何か魔法陣っぽい物が書かれてる。
多分神殿だし神様に関連する物なんだろうけど、俺にはさっぱりわからない。
「そこに立ってくれないか」
裾の長い白い祭司の服を着たシメオンさんが俺に指示した。
断る理由もないので、俺はその通りにする。
しかし、この魔法陣って何で書いてるんだろう。
インクはこの世界にもあるだろうけど、剥げたり掠れたりしてないし。
何だろう。
刻み込んである物ならまだわかるんだけどね。
俺が魔法陣の中央に立ったところで、シメオンさんは手を祈る形にしてブツブツと何かを呟きだした。
普通に考えたら、それはきっと至高神への祈りの言葉なんだろう。
「うわっ……」
シメオンさんの祈りの効果かな、魔法陣に光が走る。
なるほど、魔法陣自体が何かの魔法で作られてるんだな。
神殿だから神から与えられた奇跡って奴かもしれないけど。
「すげぇ……」
俺がうっかり声を出しちゃってるわけだけど、シメオンさんは集中を切らさない。
まだ少年の身体から神々しいまでの雰囲気を感じるのは、やっぱり彼が神託の神官だからなのかな。
祈りが進むにつれて魔法陣がますます輝き、ついには光のヴェールとなってシメオンさんの姿がかき消される。
って本当に見えないんだけど。
『……って』
どこからか声がする。
声の他に何か見えるような気がする。
深い森。
奥の屋敷?
怯える人たち。
パッと現れては消える映像。
何だろう、これは。
前に遺跡で見た謎のモンスターも見えた。
そして、前にいた町の路地裏で出会った羊娘も。
『だれ……か…………て』
羊娘の唇が何か喋った。
次の瞬間には映像も消えてしまったが、俺のスマホがこの雰囲気に似合わない軽やかなメロディを奏でだした。
はい、着信来た。
どう考えてもここで着信してくるのはジジイぐらいなもんですよねー。
「もしもし?」
通知不可能だけど、念のために普通に電話に出てみた。
『勇者殿、元気そうじゃな』
「元気じゃねぇよ! さっきのは何なんだ」
『あれが、世界の危機じゃ』
「あの羊娘が?」
いったいどこが危機だというんだ。
可愛い女の子相手になんてこと。
『見た目は可愛いように見えるが、あの子は旗頭のようなものでな』
「後ろに誰かいるのか?」
『そうじゃ。この世界に割り込もうとする、永遠にズレた位相に居る種族たちだ』
つまりは侵略者ってことなのか?
それにしては可愛らしい外見だと思うんだけどな。
『あの種族は何度もこの世界に入ろうとしたが、元々住んでおった種族たちに拒絶された結果新しい種族の台頭に繋がっておるんじゃ』
説明が良くわからないけど、羊娘たちがここに入ろうとして、今住んでる種族と喧嘩になって文明がリセットされる感じなのかな。
『ワシはあの者達が活動を開始する頃に異世界からリュウジンを招いておった。しかし今までのリュウジンはあの者達を異物として拒絶してしまっておったんじゃ』
その結果種族の文明が滅びちゃうんじゃ悲しい話だな。
って、まさか俺に羊娘たちの品定めをしろってことなのか?
「まさかとは思うけど、俺の役目って」
『そうじゃ。あの種族を救い、尚且つ友好を取り持ってほしいのじゃ。彼らはこの世界の者たちと仲良くはしたいが、方法がわからず自分たちの位相に引き込んでしまう』
行方不明事件ってそれで起きてるんだ?
なるほど、ミケ猫たちのクエストが一気に片付くな。
『まあ、世界の危機としてはこんなところじゃ。頑張ってくれよ』
待て待て。
友好を取り持つってどうやるんだよ!
それを突っ込む前に通話が切れてしまう。
「やれやれ」
無意識に汚れた画面を服で拭いてスマホをしまったとき、俺を取り巻く光が消えた。




