クエスト:リュウジンの伝説1
次の日の朝の事だった。
流石やたら高そうな宿だけあって食堂も広くてきれいだ。
少なくとも今まで泊まってた宿とは大違いだな。
そして何より、食事の中身も全く違う。
焼き立てっぽいパンに新鮮なサラダに卵焼き。
飲み物にはいい香りのコーヒー。
朝から豪勢な食事だと俺は思った。
異世界じゃなければこんなの、モーニングセットで金を出せば食べれそうだけど。
いや、自家製パンなんて出してる喫茶店なんてそうそうないか。
「やー、おいしいねぇ。パンってこんな柔らかいんだー」
ミケ猫はどうやら今までカチカチなパンしか食べたことないみたいだ。
俺も焼き立てのパンなんてそうそう食べることはなかったから、ここまで香ばしいのは初めてだよ。
「リュウ~、アタシの分のサラダやるよ~」
今まで知らなかったんだけどロレッタ姉さん、生野菜苦手だったんだな。
煮込んだ野菜とかは平気で食べてるから気づかなかった。
小さい町だと近くでたくさん野菜が採れないと、保存の効く野菜しか手に入らないのかな。
ただ単に俺たちのいた宿のランクが低かったからだったりして。
「好き嫌いはいけませんよ」
そんなロレッタ姉さんに対してお母さんみたいなことを言うのはオレリアさんだ。
シルヴィアさんはと言うと卵を避けて野菜だけ黙々と食べてる。
「じゃあシルヴィアはどうなんだよ」
「シルヴィは元々野菜だけしか食べていなかったでしょう!」
シルヴィアさんは好き嫌いではなく、元々生き物を食べる習性がエルフにはなかったらしく慣らしている途中なんだそうだ。
肉や骨を使ったスープやソースは食べれるらしいけど、肉本体はまだまだ食べれないっていうんだから卵だってまだ無理な話だよな。
俺には全く分からない類の話だけど。
「ちぇー」
つまらなさそうに言ったロレッタ姉さんにシルヴィアさんが言う。
「……卵とサラダを交換してくれませんか?」
「ちょっとシルヴィ。甘やかさないでください」
「私は卵を食べれません。余り物を出さないいい考えだと思いませんか?」
オレリアさんの文句にシルヴィアさんは首を傾げて不思議そうに告げる。
何かシルヴィアさん、今日は不思議なほど明るいけどどうしたんだろう。
昨日の出来事で何か吹っ切れたんだろうか。
「それで、今日はスポンサー様と打ち合わせだっけ?」
「そうです」
「どこで待ち合わせって聞いてるかい?」
「いいえ。迎えに来るって言ってましたよ。貴方もいたんですからちゃんと聞いててくださいよ」
「いや、聞いてはいたさ。覚えてないだけで」
「余計に悪いです!」
オレリアさんとロレッタ姉さんは何だかボケとツッコミなコンビネーションだ。
これが意識しての行動じゃないんだから俺も突っ込んでいいのか全く分からん。
何はともあれ、ご飯がおいしいのはいいことだ。
いい加減カップ麺が恋しくなってきたのはここだけの話だが。
「しかし、スポンサー様が用事あるのはリュウだけだろ」
「いえ、私とシルヴィもニーナ様のお手伝いをすることになってます」
つまり、俺がニーナさんの手伝いをしてる間、二人は全くの暇になるってことだ。
ニーナさんの専門は古代エルフ文明。
獣人の二人じゃやることないもんな。
オレリアさんも古代獣人文明が専門だけど、知的好奇心は抑えられそうもないし、一度聞いたことを暗記する能力は使えそうだもの。
何か二人でやれるクエストがあればいいんだけど、あんまり仲良くないから難しいかな。
「ちぇー。じゃあソロクエストか」
言うと思った。
ソロクエストじゃあミケ猫は何もできないじゃんか。
聞き込み中心のクエストがあれば話は別だろうけど。
「私は適当に街の中見て回るわよー。王都なんてめったに来れるところじゃないんだから」
確かに。
大きな街だけあって観光に困ることもなさそう。
でもミケ猫一人で街に放り出して安心していられるかって言えば無理な話だ。
「ロレッタ姉さん、何とかミケと一緒に行動してくれないか?」
そうじゃないと安心してクエストできそうにないや。
ロレッタ姉さんはちょっと渋ったけど、俺が必死に頼むと了承してくれた。
良かった。これで安心して仕事ができる。
いや、まだ何か頼まれたわけじゃないけど、何となく。
「さて、それでクエストの話だが」
今日もキリッとした男装姿で当然のように剣を腰に差してる。
貴族だっていうのに護衛もいないのは多分護衛よりもニーナさんが強いってことなんだろう。
「神官の二人とリュウには古代エルフの文献を調べるのに付き合ってもらう。これは冒険者ギルドの方に既にクエストとして申告してある」
話の早いことだ。
昨日、こっちに活動を移すことを申請した後の今日でこれなんだから手回しがいい。
「その間、獣人の二人は手が空いてしまうだろう。三人を借りている間に二人であるクエストをこなしてもらいたい。こちらもクエストとして既に申告済みだ。君たちが冒険者ギルドで受注すればいい」
「それで、アタシらがやるクエストってのは?」
「王都で起きている行方不明事件について調べてもらうクエストさ。聞き込みが中心になると思う」
聞き込みならミケ猫でも安心してできるね! って思ったけど、これミケ猫たちが行方不明になりそうで怖いんだが。
行方不明事件……。ニーナさんが言うには月に二、三回起きてるらしく、手がかりも共通点もないらしい。
「今までは行方不明になった人を探してほしいというクエストが多く見て取れた。この現象自体を追った者はいない。そこで、手の空く君たちにこの件を追ってほしい」
ついでのような物言いだけど、ニーナさんは結構この行方不明事件は心配してるみたい。
まあ、自分の住んでる街で一か月に二、三人行方不明になる事件が起きればそうなるよな。
「どうせヒマだし、いいよ。子猫ちゃんと一緒にやれってんだろ」
「ああ。頼む。それで、リュウたちへの依頼の件に入る前に一つリュウに聞きたいことがある」
「何だ?」
ニーナさんが話しの前にと前置きした言葉に油断した俺はうっかりここで返事をしてしまったわけだ。
後で返事なんてしなければよかったと俺は心の底から後悔することになる。
質問内容を聞いた後で――。
「思うんだが、君は至高神に縁ある者ではないかね?」




