クエスト:王都探索4
道場は神殿の一角にあった。
石畳の床を一段高くした試合用の舞台、天井は不思議なほど高く、壁には訓練用の木でできた武器を収める棚がある。
決闘はその試合用の舞台を使ってやる。
審判は勇の女神の神官が務める。
ルールはロレッタ姉さんが説明してくれた通りだった。
魔法は直接攻撃する魔法じゃなきゃいい。
つまり俺は防御力攻撃力その他諸々を魔法で底上げできるんだが、いいんだろうか。
「おい、へなちょこ。お前、どうせマジシャンか何かだろ? 強化しとかないと死んでも知らないからな」
決闘相手の馬鹿にしたその言葉に、強化魔法を使うことにためらいはなくなった。
多分自動戦闘だけでも倒せる。
だけど、それ以上にこのファイター以外を軽蔑したクソ野郎に思い知らせたい。
「後悔しても知らないよ」
一応、忠告だけはしとく。
俺だってどこまで強いのかわからないからな。
「ふん、後悔するのはどっちだと思ってんだ? まあ、好きな武器取れよ」
クソ野郎は長めの模擬剣を取って言う。
俺はそれより少し短めの剣。
これが俺の使ってる剣と同じぐらい。
奴は長剣使いかな?
まあ、後悔するのはどっちなのか思い知らせばいいよな。
シルヴィアさんが心配そうな顔してるし、終わらせるならさっさと終わらせようか。
ありったけの魔法で強化しまくった俺は、決闘の舞台に上がる。
パッと見て狭いと思ったのは、舞台の上からの印象で変わる。
ずいぶんと広いんだな。
向かいにはクソ野郎が上ってくる。
「さて、決闘内容を確認するがよろしいかな?」
舞台にもう一人上がって来た。
審判役の神官だ。
厳つく、いかにも強そうな男だった。
「この決闘で負けた側は、シルヴィア殿に接触しない。これで間違いはありませんな」
「ああ」
「間違いはない」
「それでは両者構えてください」
お互いに一定の距離を取って、武器を構える。
審判が頭上高くに手を上げた。
これが振り下ろされたら、決闘の開始だ。
振り下ろされる前に動いたら不戦敗となる。
静寂の中、審判の掛け声とともに腕が思いきり振り下ろされた。
「はじめ!」
結果から言うと俺が勝った。
相手を降参させるのではなく、舞台から叩き落とす形にはなったけど。
俺がひょろいからって、クソ野郎は油断してたみたい。
舞台から落ちた後呆然と俺を見てた。
そりゃ、あんだけ素早く踏み込んで最初の一撃加えた後に連撃だから相当驚いただろう。
正直、ざまぁ! と思ったもんだが逆ギレしないといいな。
「それまで! 勝者、リュウ!」
審判の声に見物していた女性陣から歓声が上がった。
負けなくてよかった。いや、本当に。
「く……くそがっ……」
悔しそうな男に、俺は吐き捨てる。
「もうシルヴィアさんには近づくなよ。俺のパーティメンバーだからな」
ここで『俺のオンナだ』って言えればどんなにいいか。
言いたいんだけど、どうしても言えなかった。
「やるじゃないか」
「あいつが見くびって油断してたからだよ」
女性陣のところに戻るとロレッタ姉さんがバシバシと肩を叩いてくる。
ちょっと痛い。
あいつが油断してたのと、自動戦闘のおかげだよな。
「……ありがとうございます……リュウさん……」
シルヴィアさんが震える声でお礼を言ってくれる。
可愛い。とても可愛い。
これから先、いくらでも守ってあげたいと思う。
「これでやっと冒険者ギルドに行けるね!」
ミケ猫のセリフは間違いなく俺の心情と一致してる。
待ち合わせして、冒険者ギルドに行くのに俺たちどれだけかかってんだろ。
「冒険者ギルドで手続き終わったら晩飯にしよう。今日は俺のオゴリな」
「え? ほんと、やったぁ!」
「太っ腹だねぇ」
「え……あの……」
うまいものを腹いっぱい食べれば、たいていの悩み事は解決すると、俺は思ってる。
シルヴィアさんだって、おいしい料理食べて宿でぐっすり寝れば今日の嫌な事なんてきっと忘れられるよ。
「そうと決まれば、さっさと冒険者ギルド行こうぜ!」
そんなわけで、やっと到着した冒険者ギルドは勇の女神の神殿の向かい側にあり、俺たちが活動していた町よりも賑わっていた。
うん、賑わってるのは当たり前だな。
街の規模が違うんだから。
広いロビーにはいくつもの掲示板があり、悩むほどクエストが掲示されている。
俺たちのいた町では無骨な装備で、強面の冒険者が多かったがここではお洒落な服で線の細い優男まで普通に出入りしてるみたい。
優秀な冒険者が王都を目指した結果がこうだとするなら、俺のライバルって結構多いのかも。
後期まであと何日か、なんて正直考えたくもないんだけどな。
「広いねー」
「すごく広いよな。迷いそうだ」
天井から案内表らしきものがぶら下がってるんだけど、俺には正直言って読めない。
「子猫ちゃん、ファイターとシーフはあっちだとさ。マジシャン、ヒーラーとは全く逆方向だね」
え? クラスごとに受付場所違うの?
疑問に思ったんだが本当に受付場所が違うみたい。
何だか元の世界の役所みたいだな……。
「リュウさん、あちらです……」
心強いことにシルヴィアさんが俺と同じ受付場所だ。
二人でカウンターに行って、それぞれの冒険者登録票を提出した。
冒険者登録票から、他の場所での功績を見て、俺たちの冒険者としての情報は上書きされるらしい。
功績次第ではクラスが変わることもあるとのことだ。
しかし、別の町での功績って一体どんな風に管理してるんだろうな。
不思議でたまらないが、とりあえず今は待つしかない。
シルヴィアさんと軽口を言い合うような雰囲気でもないし、大人しく作業が終わるのを待ち続けた。




