クエスト:王都探索3
神殿の前でシルヴィアさんは困ってる。
しまったもっと早く来ればよかった。
と、俺が一瞬で考えたけど、もう遅い。
シルヴィアさんは真っ赤な髪のド派手な男に絡まれていた。
やっぱりずっと神殿の待ってればよかったんだ。
と、思ったんだがただのナンパにしたらやけに馴れ馴れしい奴だな。
「その子はアタシらの連れだよ。何の用だい?」
本当は俺が真っ先に言わないといけないセリフを、ロレッタ姉さんに取られてしまった。
「あん? 何だよ、邪魔すんな。こいつとは知らない仲じゃないんだし。なぁ、シルヴィア」
振り返った男は格好からして冒険者なんだろう。
剣を装備しているし、服も見た目は派手だけど防御力が強そうだ。
っていうか、シルヴィアさんの知り合い?
その割にはシルヴィアさんの顔が青ざめてるんだけど。
「邪魔するに決まってんでしょ。私たち、ここで待ち合わせしてたんだから!」
「ほら、リュウ! アンタも何か言ってやんな!」
俺が言うべきことはロレッタ姉さん、貴方が先に言ってしまいました。
ってひがんでる場合じゃないよな。
「こっちが先約なんだ。シルヴィアさんから離れてもらおうか」
思ったより、俺には似合わないセリフだな。
言ってしまってから後悔した。
見る限り体格いい奴だし、前衛タイプか。
喧嘩にならないようにしないとな。
うっかり組み合うと絶対負ける。
そんなことより、シルヴィアさんをこいつから引き離さないと。
「こんなひょろいのが?」
奴は鼻で笑う。
確かに俺はがっしりじゃないさ。
冒険者としてはマジシャンだし。
だからと言って馬鹿にされるのは放っておけないぞ。
「俺がひょろいのは関係ないだろ」
俺が言い返したところで馬鹿にしたような笑いを奴は俺に向けてくる。
「なあ、シルヴィア。また俺とパーティ組もうぜ。前みたいにさぁ」
「……お断り……します……」
蚊の鳴くような声でシルヴィアさんがようやく一言だけ口を開いた。
顔色真っ白で今にも倒れそうだ。
どうにかしてこの野郎を引き離して、シルヴィアさんを休ませる必要がある。
前シルヴィアさんとパーティ組んでた人、ねぇ。
それってもしかして――。
「馬鹿言うなよ。お前、クエスト中にシルヴィアさん見捨てた奴なんだろ」
シルヴィアさんがビクッと震えたのが視界の端に見えた。
「お前みたいな最低な奴とシルヴィアさんを組ませるわけないだろ」
クエスト中にシルヴィアさんを足手まといだって捨てた奴だ。
またクエスト中でもシルヴィアさんが邪魔になったら見捨てるだろう。
俺の一番嫌いなタイプだ。
「なんだと!?」
怒って俺に殴り掛かってきたそいつを止めたのは、ロレッタ姉さんだった。
「道端で殴りかかるなんてガキだねぇ。アタシ程度で止めれる拳をリュウに当てれると思っているのかい?」
俺とそいつの間に割って入り、片手で楽々男の握り拳を受け止めてロレッタ姉さんが言う。
いや、ロレッタ姉さん。俺は多分止めれないと思うよ。
だって今自動戦闘モードじゃないからな。
逆にロレッタ姉さんが止めてくれて助かった。
でも、どうやって相手に諦めてもらうんだ?
「さて、アンタもこのままじゃあ引き下がれないだろ? どうだい、せっかくだしリュウと決闘というのは?」
決闘?
道端で決闘なんかやるのか?
と、俺は思ったんだがどうも違うようだった。
この近くに『勇を好む女神』の神殿があるのだそう。
そこは基本的に道場が併設されてるらしい。
ってことは俺はそこに行く間に自動戦闘モードに切り替えないとな。
ズルいけど、シルヴィアさんの為だから仕方ない。
ビクビク怯えちゃってるシルヴィアさんを早く安心させて、冒険者ギルドに行かないと。
「フン、怖気づいても知らないからな」
見た目が派手な最低野郎は、そう吐き捨てて神殿にひとまず向かってくれた。
ほっと息をついたシルヴィアさんの肩を叩いてロレッタ姉さんが笑う。
「あんな相手で大変だったね。でもまあ、リュウが叩きのめしてくれるから安心しなよ」
待って姉さん。
いくら自動戦闘モードでも完全な前衛タイプをボコボコにできるわけないじゃんか。
体格差考えてくれよ。
基本的に、俺はマジシャンなんだから。
ファイター相手に勝つのも難しいってば!
「……すみません……ご迷惑をおかけして……」
でもシルヴィアさんにそんな風に言われたら、無理とは言えないよな。
俺も男だし。
頑張っちゃうぞーと自分で自分に活を入れる前に、口が勝手に動いてた。
「任せろって。あんな最低野郎ぶちのめしてやるから」
美少女の潤んだ目って、なんで男に思ってもない事を口走らせる威力があるんだろうな。
勇の女神の神殿に行くまでに、俺は自動戦闘モードに切り替える。
それで、ロレッタ姉さんに神殿の道場での決闘について聞く。
「決闘って珍しいのか?」
「いや、結構あるよ。たいていがクエストの利益についてのもめごとだったり、パーティを抜ける抜けないだったりするけど」
冒険者同士の決闘って派手そうだ。
「決闘のルールは?」
「試合用の舞台から落ちるか、気絶するか、降参すると負けさ。得物は道場の訓練用の、木の剣やこん棒さ」
ファイター同士だとそれでもけが人出そうな武器だな。
俺はファイターじゃないから、当てられたらすぐ死にそうだ。
自動戦闘が決闘でも役に立つといいんだけどなぁ。
「魔法は禁止か?」
「いや、直接相手を攻撃する魔法じゃなければ許可されてる」
姉さん、詳しいな。
実は何度も決闘を経験したと見た。
違うとしたら道場に通ってたんだろうな。
冒険者ギルドで手続きするのに、どうしてこうも色んなことが起こるんだ。
ゲームじゃないんだから。
なんてことを思いながら、俺は勇の女神の神殿に向かった。




